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3-1 ボクと女子高生と色彩検定

●女子高生と色彩検定

 新学期になって早々,ある女子高生が職員室に来て「先生,色彩検定受けたいで~す」と声をかけてきました。理科室の前に色彩検定のポスター(たかのまでと書いてある)を貼っていて,それを見て来てくれたようでした。
この色彩検定,授業で似た科目が開講されているわけではありません。「なんか理科室の前って殺風景だったり,理科っぽいポスターばかりだから,もうちょっとポップにしよう」と思い…(笑)。
また,ボク自身,カラーコーディネーターの資格を持っていて(色彩検定は持ってない),受ける子がいたらそれはそれで面白そうだなと思いながら1年半,貼り続けてきたのです。すると,この一年半で10人ぐらい「受けたい~」と声をかけてくる子が…(ポスターって意外と効果あるんだなぁ…)。でも,実際,親に相談して受験料(7000円)を工面し,振り込み用紙を書いてきた子ははじめて…。
さて,彼女はどういう気持ちで,「色彩検定を受けよう!」と思ったのでしょうか。色彩検定受験後に感想文を書いてもらったので,抜粋して紹介します。

 ●色彩検定をなぜとろうと思ったか
 無事進級して2年生になると,教室が4階から3階になり,3階・理科準備室の前の廊下に貼ってあるポスターをみて,色彩検定を知りました。ポスターを見て,興味がわいたけれど,その時は「どんな事を学ぶのだろう?」と思っただけで,受験しようとまでは考えていませんでした。
 月日は流れ,3年生になると,進路について深く考えるようになり,私は美術学科のある大学に行こうと考えました。推薦入試を希望していた私は,調査書にかけるような検定をひとつも取得していませんでした。まわりの友達は漢検や英検を受験している中,わたしは焦りました。そんな時に,色彩検定を思い出しました。どうせ検定を受けるなら,自分の好きな事を生かして興味のある色彩検定を受験しようと思ったのがきっかけです。(受験後の感想文より)

 なるほど…。この一年半の中で,どうして「受けたい!」という子がちらほらいるのに,実際受ける子はいないのかなぁ…?金かな?と思っていましたが,ただ「気になった」だけでは,受験するまでは向かなくて,もう一歩,背中を押すものが必要なんだなぁ…とこの文を読んで思いました。でも,みんなが受けているような漢検,英検に走らない所が彼女流(笑)。自分の好きな事を自分のキャリアにしたい…!そんな事を思ったのかな。
 その気持ちはとても素敵なのですが,心配したのは,単なる「資格が欲しいから,勉強ツラいけどガンバって取る」みたいになって欲しくないなぁと思い,「ボクも色彩検定は実は詳しくはないけどね(おいおい),参考書と過去の問題冊子を貸してあげるから,どんな勉強をするか,のんびり眺めてごらんよ。で,こういう事を勉強したいな,知りたいなって思ったら,また来てくれる? 申込みの仕方を教えるからさ。勉強はじめたはいいけれど,あれ~? 思っていたのと違う~。こんな勉強したいんじゃな~い!なんて事がないようにさ」と言って,すぐには受験を薦めませんでした。 
友達に受験者がいるわけでもなく,授業で開講されているわけでもない状況,独学で勉強するからこそ,「勉強したい・知りたい」という<意欲>が大事だと思ったからです。
 「は~い」と素直に返事をしたこの子,1週間後に「気持ちは変わりませ~ん。受けたいでーす」と言ってきたよ。今回は,そんな女子高生と,ボクと,色彩検定についてのお話です。

●興味・関心のないことは勉強できない
教育を考えるのに一番大事なことは,「人間というものは決して自分自身が興味・関心のないことは勉強できない」ということだと思います。興味や関心がないことはわかるようにならないということです。しかし,興味や関心がないことでもわかるような人間だっていないことはありません。ある種の関心はありましょう。先生におもねりたいとか,みんなにほめられたいとかいう関心です。対象に対する関心ではないのです。これが,優等生のタイプです。しかし,対象そのものに関心がもてるようになれば、子どもたちみんなが興味をもって理解できるようになります。
(『科学と教育のために』板倉聖宣講演集 季節社,1979)

●受験者:三上さんについて

 この申し込みをしてきた女子高生,三上文音さん(高校3年生)とは,1年生の時に物理の授業を教えていたのですが,お世辞にも成績が良いとは言えませんでした(汗)。でも,たのしく授業を受けているのが印象的でした。そして,仮説実験授業の時やものづくりの時には特に活躍してくれました。だから,ボクも,文音さんについてよく覚えていたのでした。当時の感想文が残っているので少し紹介します。


★☆今日はアイスクリーム作り。今度は,牛乳じゃなくて,なかなかできない炭酸ジュースで作ってみたいな。とてもたのしかったです。おいしかったです。甘すぎないのがいいネ。先生はいいね。こんなにいい先生ははじめてです。今日はとてもたのしかったです。準備とかありがとうございました。 (『ものづくりハンドブック』(仮説社)より -アイスクリーム作りを終えて-の感想文)

★☆授業がたのしいと思えたのは,高野先生がはじめてです。ウチのクラスは,落ち着きがなく,うるさいクラスでした(すいません)。けれど,高野先生はいつもちゃんと教えてくれました。一言で言えば,”熱血先生”と言ったところでしょうか。準備もいつもはやくて見習いたいです(笑)。1年間ありがとうございます!!たのしく授業できました(感想文・-1年間の授業を振り返って- より)

 うーん,とっても良い事書いてくれているじゃないですか(笑)。教師1年目で,こんな感想文をもらえるボクは幸せです。(仮説実験授業や仮説社の本のおかげ。教師の経験年数なんて関係なく,マネしちゃえばいいんだもーん)。こんな感想文を書いてくれる子を,大抵ボクはすぐ好きになります(笑)。
 そんな知り合いの事もあったのと,「独学で勉強しても,まったく勉強した事ない分野だし,受からないんじゃ…」と思い,「家で独学で勉強…」という形ではなく,「部活を引退してから放課後,一緒に講習しよう!」という事になりました。講師はボクです。

●一緒に受ける…?

 でも,講習をするって言っても,色彩検定に関しては,ボク自身は詳しいわけでもありません。どうしようかな…と悩んだ結果,ボクも一緒に札幌会場で3級を受験する事にしました。「自分も受ける」「相手に講習をする」という環境は,ボクの色彩検定に対するモチベーションをあげるのに最適でした。ボクが勉強して理解した翌日,講習で三上さんに教えるカンジでいこうかな…。うまく教えられるかな…。
 その「一緒に受ける」という事を,昼休み,友達とお弁当を食べている三上さんの所に言って「受験の申込み済ませた? 会場は学校じゃなくて札幌まで受けに行くんだからね。あと,ボクも一緒に受けるからね」と話をしてみました。すると,周りの友達も含めて,その事についてケラケラ笑います(笑)。「先生も一緒に受けるなんてウケる~」「文音が受かって先生落ちたらどうする?」「なぐさめパーティーやろうよ」「いや,今度は文音が先生になってあげる~」なんてしゃべっています。
 好き勝手な事言ってるなぁ…なんて事も思ったけれど,何より嫌がっていない。むしろ,本人は「やったー」と言い,なんだか喜んでいる様子です。ボクは恥ずかしくて,「どうして喜ぶの?」なんて事は聞かなったし,今でも聞けないけれど,「受けるのはア・タ・シ! 教師のテメェは関係ねぇーだろ!」なんて反応じゃなかったので,「ああ,一緒に受ける事にしてよかったな」なんて思いました(笑)。さて,うまくいくでしょうか?


 ●色彩検定と仮説実験授業

 この話,仮説実験授業と全然関係ない話のようだけれど,講習の1回目,まず初めにやった事は「虹の絵を描いてみる」という問題でした(授業書≪虹と光≫より)。その後も,「分光器で太陽光をのぞいたら?」「赤色光と緑色光と青色光を同時に照らしたら…?」,(授業書≪光のスペクトルと原子≫)をやったり,「緑の葉っぱには何色の光を当てたら一番よく育つ?」(サイエンスシアター:『光のスペクトルと原子』より)をじっくり考えてみたり,この後に考えている眼の構造を勉強するときは≪光と虫めがね≫から問題を考えたり,中型カメラを見せたり…(山路敏英さん(明星大学)考案)。他にも,色の混色を考える時は≪30倍の世界≫の問題や,仮説社で販売されている「ライトスコープ」を使って…など,たくさんの仮説実験授業の問題が色彩検定の勉強に役立ちました。実際,もともと,この資格に対しての勉強には意欲的に取り組む三上さんではあるけれど,仮説実験授業関連の問題や実験道具を体験している時には,「おもしろい!」「3原色とか,リクツだけで実際は冗談かと思ってた!」「中型カメラ家でも作る!」「ライトスコープいくら?欲し~い」など,たくさんたのしんでくれているようでした。

●講習の進め方を考える際に

 それに,「資格試験の講習ってどう進めればいいのかな?(資格の講習を担当したのは今回がはじめて!)」とはじめ考えた時にも,指針となるのは,仮説の会で聞いた話が道しるべになったのでした。ボクが参考にした話は,研究会員の松木さん(高知・小学校)が,授業書≪溶解≫を題材に講演してくれた,教材配列と動機づけの話でした。うまく伝わるかわかりませんが,紹介します。

≪溶解≫の3部では,「やってみないとわからない」という事を教えたい。もちろん,「やってみないとわからない」と言われても,やる動機がなかったらダメです。ところが子どもたちの中には,ちゃんとその動機があるんですよ。前の問題で,松やにをとかしてすごく得をした経験があるから,この研究問題で「じゃあやろう」ということになる,動機が生まれているんです。それなのに,今の授業書(改正版)ではこれを(旧版よりも)ずいぶん前の方でやってしまうんです。いろいろとやってみる動機になる「アルコールやそのほかのものにとけるもの・とけないもの」のお話の前にこの問題があるんです。 そういう問題をここでやっても,当たったはずれたの楽しさはあるけど,法則性が見つかるわけでもないし,なんてことはないんですよ。
だから僕は旧版の授業書の方が好きです。松やにやその他のもので「とけたりとけなかったりして,おもしろいね」という有効性を知って,そのあとに「ひょっとしたらおもしろいものが見つかるかもしれない」といってやる。だからいい。少々とけたとかはどうでもいいんですよ。「これはすげー真っ赤になった」とか,研究することに意義があるんです。  (松木文秀講演 千葉・勝浦プレ大会 入門講座 より)

 この話を僕は教師になる前に話を聞きました。引用した以外の話も含めて,講演を聞いて,もうオトナな自分だけれど,思わず泣いてしまった講演。後にも先にも,講演で泣いてしまったのはこの講演だけです。(全文を読みたい方は,授業書講座記録≪溶解≫:発行:仮説実験授業を学ぶ会(編集:手嶋唯人))。
でも,急にこれだけ引用しても,「はっ?何を言いたいの?」というカンジかもしれません(汗)。講習をやるにあたって,ボク自身が参考になったのは,「知りたい,やってみたい,という動機が大事」という事でした。資格試験って,「暗記が大事!」「問題を何度も解く!」というイメージがあるけれど,せっかく「資格取りたい!」と思ったのだから,知りたい!学びたい!というキモチを大事にしたいなと思いました。その<動機>を大事にすると,自然と教材配列が決まってきたかな…なんて感じがしています。具体的に言うと,資格の勉強で新しい事を学んだら,それが生きるような教材配列を考えて…,とか,「この事を勉強したら,世界が違って見える…」みたいな事を早く感じてもらったり…なんて事を意識しました。

●意欲があると

 申し込みも済ませ,あとは三上さんが部活を引退するのを待って…といきたいところですが,そうすると勉強始める時は試験まで一か月を切ってしまいます。それに,せっかく「資格をとりたい!」と思った今を大事にして,「部活をしながらも独学でできるような事はないかな?」と考え,どこの参考書にもはじめに書いてある「慣用色61色の暗記」を一人で取り組んでもらおうかなと考えました(3級の慣用色は,赤系だったら,桜色,珊瑚色,サーモンピンク,カーマインなどなど…)。スマートフォンのアプリで「慣用色を覚えよう!アプリ」というのがあるので,それを使えば,スキマ時間などで勉強できるかな…?と思ったのです。(色がスマホに表示されて,この色の名前は…?というのが61回続くアプリ。たくさん色の名前があるんだね)
 さて,三上さんの反応ですが,アプリを紹介すると,ボクなんかよりよっぽどたのしそうに,しかも飲み込みも早く,色を覚え始めていきます(笑)。ヤバい!これじゃ講習なんて無理だ!追いていかれる!(汗)。
 そんな三上さんの様子をみて,「興味がある」というのは,人にとってとてもパワーになるんだなぁ…としみじみ思ったりしました(笑)。
 一方で,こんなにたのしそうに勉強しているのだから,参考書に書いてあるような「慣用色を61色暗記しましょう」「平行して,色の表記から順番に勉強していきましょう」じゃーなくて,「慣用色を覚えたら世界が広がる!」というような教材配列を考えたりしました。慣用色から色相やトーンを考えていって…(おっ,これ以上書くと具体的な内容に入りすぎてフツーの読者に飽きられちゃいそう!こんな話はまた今度…)

●ボクができる事

 こんな事を考えていたら,これが教師の仕事であって,教師の強みかなぁ…なんて考えます。明星大学で,仮説実験授業を紹介してくれた僕の恩師,小原茂巳さんは「教師の役割・商売」という話について,こんな事を大学の講義で話されていました。

●教師の商売
 専門学校とか,自動車の教習所とかに通っているひとは「○○の資格取りたいんだー!」とか,「車の免許取りたいんだー!」という意思があって,お金を払って,自主的に通っているわけじゃないですか。だから,そこに通っている人達は意思がはっきりしているわけです。<意欲>があるのはあたりまえなんですよ。
 でも,学校に通っている子ども達はちょっとそれとは違いますよね。特に,小学校・中学校は義務教育ですからね。「<意欲>がなくても無理矢理座らされている子ども達」を相手にするのが,僕たち教師の<商売>です。
 だから,「<意欲>が無い子ども達がいてあたりまえ」と思っていた方がいいですね。子ども達に対して,「意欲があるのがあたりまえ」と思ったら,<意欲>がない子どもを見た時に,「なんでお前,意欲がないんだ!」「やる気がないんだ!」「その態度はなんだ!」という風に,ムカついてしまいますから(笑)。でも,それは変な話で。教師の役割として一番大事なのは,「興味を持続できること」=「<意欲>を持ってもらうこと」だと思うんですよね。
 でも,これが中々難しい(笑)。難しいけれど,それを実現させる事が,皆さんが目指す教師の<商売>ですからね。そのために,教師が子ども達に何をしたら良いのか,それをみなさんと一緒に考えていければいいなと思っているんですよ。
 (明星大学・講義『理科』より(講師・小原茂巳))

 書店にたくさん並んでいる参考書は,色についてとても詳しい方が著者の本です。知識が足りないボクが講習をするのは,役不足と考えられなくもありません。けれど,参考書を読むと,だいたいの参考書は「読者が学ぶ過程」や「どのように認識していくか」という視点,学ぶ意欲を大切にする視点,はほとんどないのです。仮説実験授業に関わるボク達は,上記のような事をとても大切にします。というか,大切にしたい。そんなボクだからこそできる事があるんじゃないか…,そんなことも考えたりしました。「資格試験を取りたいと言っているんだから,最初から<意欲>が高いじゃないか」とも考えられるけれど,だからこそ,その<意欲>を大事にしたい…なんて思います。(「資格の勉強がだんだん嫌になっていき…」なーんて想像するだけでも嫌だもんね! そういえば,「色彩検定への意欲」と合わせて,同じスタートラインで同じ内容を勉強しているので,お互いに,<競争意識>と<協力意識>があったりします。「先生もこの問題は悩むと思うナ!」なんて言ったり(実際悩むことも多い)。こういうの,面白いな。)

●二人三脚のはじまり~

 部活を引退し,学校の中間考査も終わったその日…。やっと検定の講習に取り組める…!と思う一方で,試験までは後2週間しかない…!(汗)。そんな危機感も感じる中(本人は感じてないけれど),本格的に勉強ははじまりました。
テストが終わった後,彼女に「どんな風に勉強していこうか?作戦立てよう?」と相談すると,「私,今週の日曜以外だったら全部暇だよ。いっぱい講習やろうよ」と言ってきました。女子高生らしく,「○曜日は友達と遊んで~,○はバイトで~」なんて反応も予想していたのですが,正反対。講習に関しては,彼女は「毎日でも平気だよ,というか,それぐらいのつもりだと思ってたよ(笑)。頑張ろうヨ」なーんて反応。少し前までは毎日部活で夜遅くまで残っていた彼女ですから,体力ありあま~るのかもしれません。「でも先生,部活の顧問だったか!(笑)。まぁ空いてる時間で放課後残ってやろうよ」という彼女。結局,11日前からは土日を除いて,毎日講習の日々でした。ボク自身はクラスの子と面談週間があったり,部活を見に行ったりで,遅れたり,途中で抜ける事がほとんど。1日ずっと付き合える事は中々なかったけれど,15時~完全下校の19時30分まで,一緒にいれる時は講習,いれない時は一人で勉強…という日々が毎日続きました。でも,ボク自身,抜けたり遅れたりはもどかしかったので,始業前,朝の時間も毎日使って講習しました。
講習では,仮説実験授業の問題や実験道具も取り入れつつ,たのしさと意欲を大切にしながら勉強をしつつも,一方で「合格する!」という現実問題も視野に入れて,早めに過去問を1回解いて,自分の現在位置と合格までの自分の差を感じてもらいました(全部勉強していない時点でこれをやるのは,自信がないだろうから,あまりやりたくない気持ちもわかるけれど…,でも本人は素直に過去問解いていたナァ…。2週間前の時点で,合格基準70%に対して,正解率は47%…。まだまだ遠い…(汗))。

 また,道のりを感じてもらうために「マインドマップ」(右図)を作って,どれぐらいまで勉強して,あとどれぐらい残っているか…なーんて事を感じてもらったり。

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 そのかいもあり,試験7日前にはひとまずの講習を終えて,「あとは過去問を解くだけ!」というところまで…。(この段階で,過去問の正解率は71%…。合格ボーダーは70%。まだまだギリギリ…。)

●テストについて考える

 試験まで1週間を切って,あとは過去問を解く…,ここでも,仮説実験授業研究会で学んだ考え方が使えないかな…?と思い,探してみました。参考にしたのは,テストについて書かれている板倉先生と小原先生の文章です。

●テストの再発見
「大部分の子どもたいはテストなんか大嫌いだ」-多くの教師や父母はそう思っています。「テストが好きな子どもだっている」という話を聞くと,「そういう子どもは現代の競争社会に毒されたいやらしい子に違いない」と,かたくなに思っています。しかし,そうではないのです。
 たのしい授業が実現できるのは,教えるに値する・学ぶに値する知識があるからです。そういう<教えるに値し・学ぶに値する知識>というものは,多くの場合,教える前から感じ取ることができます。そこで,そういう知識が確実に身についているかどうかを確かめるテストというものも楽しくなりうるのです。
 「人間というのは,もともと進歩するのが好きな動物だ」ということができるでしょう。それは,ときにはやっかいなことを引き起こすわけですが,私たちはそれを人間の本性と認めないわけにはいかないでしょう。その自分たちの進歩の度合を確かめるのにもっとも簡便に工夫されたものがテストなのです。
 こう言っても,なかなか納得できないかも知れませんが,小さい子どもたちを観察していると,そのことがよく分かることがあります。小学校に入るか入らないかの小さい子どもたちはたいていテストが大好きだからです。同じような問題をたくさん出してもらって,それが少しづつでもできるようになるのを楽しんでいるのです…(略)。
 それなら,どういう条件下でのテストなら,子どもたちはテスト好きでいられるのでしょうか。その第一の条件は,そのテストで自分の進歩の跡が見えることです。…(略)。(『たのしい授業no.76』板倉聖宣 -テストの再発見- より)

●<たのしい授業>とテスト 
<たのしい授業>だと,意欲が増しますね。テストをする事によって,自分の進歩が見えます。進歩が見えるから,「うれしい,テスト好き」ってなります。これも教室の誰かが言ってくれたけど,小学校1年生ぐらいまでの子はテストが好きですね。そうっ! 小さい子はテストが好きなんですよ。
 電車に乗ると,「ねぇねぇ? あれ,名前なんて書いてあるの?」「ねぇ?問題だして!」って言うんです。「そうだよ,あれはこうだよって教えてあげて,正解すると,「やったー!」ってすごく喜びますよね。これは<できる喜び>ですね。
 学校でも,せっかく出来るようにした授業,たのしくやれた授業だったなら,これは明らかにテストしてあげた方が良いですね。なぜなら,<進歩>が見えるからです。「やったー!」ってね。採点して,おうちにかえると自慢できますからね。「俺,100点とったんだよ!」ってね。保護者が,「どれどれ簡単なテストなのかな?」って問題を見たら,「アラザンは電気を通すか」なんて,<授業を受けていないとわからな
い高級な問題>を,自分の子がマルになってるわけだよ。そうすると,保護者にも喜んでもらえるね。だから,<たのしい授業>の時はテストがあるといいですね。
 だから,テストは嫌われ者だけど,授業の内容によっては歓迎される事もあるというのを知っておいてくださいね。人間って,<自分の進歩>って自分本人では,なかなか見えない・気づかないのですよ。今回の授業書,≪自由電子が見えたなら≫でも,みなさんが講義の最初に間違えた「1円玉は電気を通す?アラザンは?やかんは?…」という問題も,1回出来ちゃうと,自分の中であたりまえになっちゃって,いつの
まにか<進歩した自分>に気づかないですね。それを改めてテストしてあげると,「俺って100点とれる俺になっちゃったんだ!」っていう発見が見えます。そういうテストはしてあげた方がいいよね。 (明星大学・講義『理科』より(講師・小原茂巳))

 この話を聞いて,「テストは進歩に気づくためなんだ~」と考えさせられました。ボク自身,「嫌なもの・嫌われるもの」「評価するために仕方なくやるもの」と思っていたからです。

●自分の<進歩>を感じたい

 この考えをもとにして,過去問への取り組み方を考えた結果,解く際に,
 ①「間違えた問題を赤マルチェック」する
 ②「解く時に悩んだ問題を青マルチェック」する

という事をしてみました。過去問をまるっと解いてみて,赤マルと青マルの所だけ,どうしてつまずいたか二人で確認する。後日,もう一度赤マルと青マルの問題を自分で解いてみる。すると,「私,何でこの問題を悩んだり間違えたりしたんだろう~?今の私なら全然解けちゃう!」と言うカンジにならないかな? ここで進歩を感じられるかな?なんて事を考えました。受験後の感想文の中で,彼女はこんな事を書いています。

●検定の勉強方法
 過去問題を解いていく中で,迷った箇所と間違えた個所がわかりやすいように印をつけておくことで,やる気がでた。わからない所がわかるようになるのに気づけたり,自分のニガテなところがわかったり,回数を重ねていくうちに,解く年度が変わってもだんだん印が減ってくると自分の成長を感じた。これはやるべき。

 自分の成長と合わせて,「自分のニガテな部分がわかってやる気がでた」とも書いています。「自分が足りないのは後どこか」というのがわかるのは,「足りない→できるようになる→できる自分にまた一歩近づいた!」と,具体的に頑張るきっかけとして良いのかもしれません(これは推測)。
 それにね,ボク自身が数日前に解いて間違えたり悩んだりするのがチェックされている問題集を解くので,「えぇ~,先生,これ悩んだの~?」とか,「な~んだ,一緒のところ悩んでる!間違えてる!兄弟だね!」なんて話で盛り上がります。一緒にヨーイドンで勉強していなくても,机を並べて同じ時間を共有しなくても,一緒に勉強しているカンジがします。これは,ボク自身もとってもたのしめました。ここまでくると,<講習をする担当教師>と<生徒>という関係から,<一緒に勉強する仲間>という関係になっていました。ボクが正解した問題を三上さんが間違えたりする一方で,ボクが間違えた問題を三上さんが正解することだってあります。二人で同じ問題を間違えたりもします。一緒に勉強するってイイナと思いました。そういえば,映画『ビリギャル』の原作者,坪田さんも著書の中で似たような事を書いていたナァ…。

…,「なぜ?」「なぜ?」と生徒に聞かれていくと,教師側が知らない問題に案外早く到達するものです。そんな時,「うるさい!」とごまかしたり,「先生に恥をかかせたいのか?」と内心,怒りを覚えてはいけません。僕は,そういう場合,「先生もそこまでは知らないから,一緒に調べてみようか」と言っていましたし,僕が現在経営する塾の講師達にもそう指導しています。図にすると,知識に立ち向かう教師と生徒の関係性は,こうあるべきだと思っています。結局は,そうした姿勢が,生徒との深い信頼関係を築くことになると,僕は信じています。
(『学年ビリのギャルが1年で偏差値を40上げて慶応大学に現役合格した話』坪田信貴著 角川書店)

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●<一点突破>を増やしたい

 また,「自分の成長が日々実感できるといいな」と思い,分野ごとに問題を集めた「分野別・色彩検定過去問題集(2009-2015)」(編集:高野)という本も作ってみました。例えば「<配色の問題>をたくさん解きたいな」と思ったら,この本を使えばひたすら配色問題を練習できます。
 この本を作る事ができたのも,仮説の研究会にいたからこそ。研究会の風習として,ガリ本を個人が気軽に作ったりする光景を見ていたり,自分自身も1冊製本していた経験があったから,短期決戦の中でも,すぐに手配して作る事ができました(7日前に発注して,5日前,つまり2日間で自宅に届きました)。
 分野ごとに攻略していくのは,ボク自身,教員採用試験を勉強した経験の中で「まだ全然勉強足りてないけど,教職教養のうち,<教育心理学>だけはオレいけるよ」なんていう,「この分野だったら」という<一点突破>を増やしていった…,という経験を思い出し,「一点突破を徐々に増やしていく」という方法が,自信を保つうえでも良かったので,それを三上さんにもオススメしたのでした。
 でも,この<一点突破>という考え方だって,明星大学に在籍しながら採用試験の勉強をしていた頃に,小原先生から学んだ考え方です。

そこで僕は,とりあえず「たのしい授業」(仮説実験授業)の一点だけにしぼってみることにしました。いや,正確にいうと,僕は僕自身の気力・知力・体力のなさと苦手意識から,「学級経営」や「生活指導」などはあきらめる(勘弁してもらう)ことにしたのです。授業(仮説実験授業)では,子どもたちにイイ気持ちになってもらえそう。でも,他はまだまだ勉強不足。ゴメンナサ~イ!<たのしい授業で一点突破!>。
 これが,僕の場合,良い結果を生むことになりました。仮説実験授業がキッカケで,自分のすばらしさを発見して輝く子どもたち。そんな子どもたちの姿がいっぱい見えてきて,僕は子どもたちのことが好きになってきました(コレが大きい!)
 すると,子どもたちの方も僕になついてくれるようになったのです。「私,小原先生の授業,大好き」「先生,また楽しい授業やってね」「先生,来年は私たちの学級担任になってよ」……などと言ってくれるのです。こうなると,僕にちょっぴり自信と余裕ができて,僕は,それ以来,授業以外でも子どもたちからの評価で自信と余裕ができて,僕は,それ以来,授業以外でも子どもたちの素晴らしいところが,少しずつ見つけられるようになりました。
 あこがれる→楽しい授業で一点突破→子どもたちからの評価で自信と意欲→いろんな場面でも子どもたちとちょっぴりずつイイ関係→たのしく教師をやっていけそう!
(小原茂巳著『たのしい教師入門』仮説社)

 小原先生の話は,教師としてどうやって過ごしていくか…,という話なので,勉強方法に関して少し違う話かな?とも思ったのですが,<何もかも全部やろうとするのは大変だけど,何か一つのことを確実にして成功すると,それを他のことにも広げていける>というのは,勉強方法としてもイイなぁ…と,当時,人生2回目の大学生だったボクは感じたのでした。三上さんも,ボクが紹介したような勉強方法で,「まだまだ合格には足りないけれど,この分野だけは自信持ってできるよ!」という内容をどんどん増やしていったのでした。
 過去問を解いて,チェックしたところを一緒に確認して,分野別にニガテな所を減らして…。そんな日々が前日まで続きました。
 前日に「今まで解いた5年分を振り返ってみて,間違ったところ,悩んだところを確認しておいたら?」と言ったのですが,試験当日に「昨日どうだった?」と聞いたら,「5年分を振り返ろうとしたけど,今まで悩んだりできなかった所がもうできるようになったのが途中でわかったから,途中でやめて寝たよ」とのこと(笑)。短期決戦だったけれど,うまく試験対策できたんじゃないかな…?さて,結果はいかに…?

●試験後に

 さて,気になる結果はどうだったでしょう? ボクは試験を受けている最中,「これは三上さんは解けるかな…」なんて気にしながら問題を解いていました。(三上さんも,試験中,同じ事を考えたみたいです)
 試験が終わった後,ボクの近くに座っていたどこかの女子高生たち(デザイン学科がある高校に通っている様子)は,「え~? 7割とれたかなぁ…」と不安がっていましたが,三上さんが座っている席に近寄って,「どうだった?」と聞くと,彼女の第一声は「簡単すぎて笑えてきたわー」という返答でした(笑)。そして,「もっと勉強しなけりゃ良かったわー」と冗談交じりに言った後,「高校受験の頃より勉強した。でも,たのしかったから勉強が苦じゃなかった」と言葉をつづけたのでした。
 その後,パスタ屋で一緒に自己採点をすると,正解率は90%(自己最高)。例年で言えば70%取れば合格ですから,これはもう余裕の合格です。その後,デザートを食べながら,合格通知を待たずして,「生徒会誌のインタビュー記事どうする?」とか「合格!の掲示を廊下に貼るときの写真どうする?」なんて打ち合わせに花が咲いたのでした(笑)。
 その帰り道,大通のショッピング街を歩いていた時の事です。三上さんが,こんな事を言いました。「色彩検定を勉強したせい(おかげ?)で,日常風景に対して見る視点が変わった。いつも,インテリアやファッションに対して,色のトーンや配色について頭をよぎる・考えちゃうんだよね。まいっちゃうよ(笑)。でも,毎日の生活がおもしろくなったよ」と。
 その話を聞いて,ボクは「それが本当の意味で,勉強するってこと,学ぶってことだよね~」なんて,ちょっとカッコつけた返事をしました(笑)。
 そういえば,仮説実験授業でもそうです。最近行った≪宇宙への道≫だって,授業書を終えた後は,夜空の星に対して果てしない距離を感じたり,普段見ていた太陽に対して,いつも以上の大きさを感じたり,夜空に浮かぶ月に対して,「意外と近いんじゃないか…」なんて思ったりして,日常の世界が変わる・広がる感覚があります。三上さんも,色彩検定の勉強を通じて,似たような感覚を感じたんじゃないかな。

 ボク自身も,今回の講習を担当して,一緒に勉強して,教師の仕事が少し広がった気がしました。第一に意欲・感心がある事はこんなにもパワーになるんだなぁ…ということ。第二に,仮説実験授業に関わっていたおかげで,それ以外の事でも,「仮説実験授業の思想が使えないかな?」と考えて,それを頼りに,気持ちよく講習を進める事ができたことです。

 なんとなくで始まった,女子高生との二人三脚の色彩検定。それは,彼女だけでなく,ボクにも<自信>と<新しい世界>を持ってきてくれたのでした。 

(追記)

大変な長文をお読みいただきありがとうございました。現在は東京の中学校で理科を教えていますが、「高校生に対して色彩を教える」という活動は平日夜や休日・長期休み等を利用して行動できたらいいなと思っています。しかし、その術(すべ)がうまく思いつきません。ボランティア(無償)でも少額の謝礼でも、何でも構いませんので、「色彩を勉強したい!」という高校生がいたり、「じゃあこういう形で教えてみたら?」という提案がありましたら、「コメント」や「クリエイターへの問い合わせ」でリアクションしていただけるとうれしいです。ワタシ自身の今は1級まで取得し、4月から講師養成講座を受講しています。(2021.05.06)

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