見出し画像

「おまえは猫だ」

「おまえは猫だ。でも高層マンションで飼われてるような上品なやつじゃない。空き地の土管に陣取ってるようなふてぶてしい野良猫だ。」

授業中の雑談でわたしにそう言ったのは高校の時の国語教師だった。わたしはつり目だから猫っぽいと言われればそうかもしれない。しかもふてぶてしい雰囲気を醸し出していたのもなんとなく自覚している。
だけど、教師にふてぶてしい野良猫と称されるとは思わなかった。世が世であれば、親が親であればクレームになってもおかしくない文言な気がするが、わたしはなぜか嬉しかったのだ。

大前提として、わたしはその国語教師がだいすきだった。小柄でハスキーボイス、国語教師なのに常に白衣着用。生徒に媚びることはないけど無下にするようなことはなく、笑いながら接してくれるお母さんのような存在だった。
勉強は苦手だったけど、サラダ記念日の著者俵万智さんと大学の講義が一緒だったとか、物語の楽しさを伝えたいと教師になったこととか、先生の話は面白くて楽しみだった。

「野良猫だ」と言われたときには「なんだよそれー」と笑っていたが、今もふと思い出すくらいには心に残る言葉だったんだと気づいた。言い終わったあとに「カッカッカッカッ」って豪快に笑う先生の姿もセットで。

文言自体には嬉しい点はないと思うが、わたしを何かに例えてくれたことが嬉しかったんだと思う。わたしを見てくれていたんだと。
先生は選択の授業で会うだけだったし、3年の初めの頃に体調を崩したか復帰することなく異動になってしまったと聞いた。


今会ったとしても先生はわたしのことを忘れていると思うが、自分のコンプレックスの一つでもある顔や雰囲気を、馬鹿にするでなく率直に言葉にして例えてくれたこと、嬉しかったんだと、ずっと印象に残ってるんだと、伝えたいものです。



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?