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Peatix創業者が考える、教育を変えるためのアイデア。「学びを変える」を仕事にした竹村詠美さんに聞く。

なかなか変化しない…と言われる教育業界。それは、異業種からの参入が少ないことも要因の1つかもしれません。

全くの異業種から教育業界に飛び込み、これまでになかった新たな風を吹かせているのが、シリアルアントレプレナーの竹村詠美さん。ウェブサービス「Peatix.com」の創業後、現在は「Learn by Creation」など、創造的な学びを日本に広めていくムーブメントづくりを精力的に行っています。

教育業界へと転身したきっかけや、日本の教育現場が抱える課題をどう感じているか。そして、その解決のためにどんなアイデアを考えているのかを聞いていきます。

竹村詠美
一般社団法人 FutureEdu 代表理事、一般社団法人 Learn by Creation 代表理事、Peatix.com 共同創業者
マッキンゼー米国本社や、日本のアマゾンやディズニーなど外資系7社を経て、2011年にPeatix.comを共同創業。2016年以来グローバルなビジネス経験を生かした教育活動に取り組み、教育ドキュメンタリー映画「Most Likely to Succeed」上映・対話会の普及、2日間に2500名が集った「創る」から学ぶ未来を考える祭典、「Learn by Creation」主催や研修も行う。『新エリート教育 ~ 混沌を生き抜くためにつかみたい力とは?』(日本経済新聞出版)を7月23日に上梓。 創造性溢れるライフロングラーナーを育てる教育文化作りや世界レベルのSTEAM/PBL教育、学習者中心の学びを中心テーマに活動中。総務省情報通信審議会委員など公職も務める。二児の母。慶應義塾大学経済学部卒 | ペンシルバニア大学ウォートンビジネススクール修士卒|ペンシルバニア大学国際ビジネス修士卒

炭谷俊樹
神戸情報大学院大学学長、ラーンネットグローバルスクール代表。1960年神戸市生まれ。マッキンゼーにて10 年間日本企業及び北欧企業のコンサルティングに携わる。 新人コンサルタント採用・研修の責任者も担当。デンマークの社会や教育に感銘したことがきっかけとなり、阪神・ 淡路大震災後の1996年、神戸で子どもの個性を活かす 「ラーンネット・グローバルスクール」を開校。1997 年、大前研一氏とともに企業のビジネスリーダー育成事業を創業、2005年よりビジネス・ブレークスルー大学大学院経営学研究科教授(2010年より客員教授)。2010年に神戸情報大学院大学学長に就任。3歳の幼児から 企業のエグゼクティブまで幅広い年齢対象で、探究型の教育を実践している。東京大学大学院理学系研究科修士(物理学専攻)。著書に『第3の教育』(角川書店)『ゼロからはじめる社会起業』(日本能率協会マネジメントセンタ ー)などがある。学びを探究するメディア『Q』責任編集 。

1.受動的に生きてきた私が、変わったきっかけ

── まずはこれまでのキャリアや、そこに至るまでの話をお聞きしたいです。

最近は「連続起業家で21世紀教育探究家です」と自己紹介しています。これまでのキャリアはフェーズがいくつか分かれていて、2000年まではマッキンゼーでもお世話になっていました。

当時マルチメディアの時代で、メディアやeコマースなどの文脈で、インターネットという革命的な新しいメディアを使ってどんな事業ができるかという新規事業創出を、クライアント向けにやらせて頂いてたんです。

アマゾンやディズニーといった事業会社で多くのサービスや事業開発に携わったのち、自分たちのサービスもつくってみたいという思いで、2010年に起業したのがPeatixの前身となる会社です。2011年に本格的に起業という形になりました。Peatixという、誰でも簡単にイベント管理、チケット販売・集客が行えるウェブサービス・モバイルアプリをリリースしたんです。

── 連続起業家というとおり、やりたいことを見つけて、どんどんアクションにうつされている印象がありますね。

私、もとからリーダータイプなんだろうと誤解されることが多いんですけど、全然そうじゃなかったんですよ。子どもの頃から、自分で作るよりも人に教えてもらったことを要領よくやるというタイプで。でも、私みたいにすごく受動的に生きてきた人間でも、きっかけがあると変われると思ってるんです。

── 竹村さんの場合、そのきっかけっていうのは?

大学3年生の時に、1年間行ったアメリカへの留学です。日本人の友達はゼロで、英語もほとんど喋れずに行って、谷底に突き落とされたところから始まりました。能動的にならないと生きていけない環境に追い込まれたんです。

── なんでアメリカに行こうと思ったんですか?

ずっと留学してみたかったんです。親に「受験があるから」と反対されて、高校の時に行くのは泣く泣く諦めました。その後、大学で部活に入ってしまったので、余計に行くのが難しくなってしまった。でもどうしても諦められず、大学3年の時に部活を辞めて、留学することにしたんです。

── それは大きかったですね。

部活をやめる時、色々な人に責められたんですけど、結果的に辞めてよかった。日本人は「途中でやめることはすごく恥ずかしい」という継続の美徳が強いですよね。転職も昔は恥ずかしいこととされていたし、学校を途中で変えることも、部活や習い事も継続することに意味があると思われています。

でも本来は、仕事や習い事も、自分で自分のゴールを設定できて、その目標を達成したら次に行くっていうのは全然アリですよね。学校が自分に合わなければ、自分に合う学校に転校することは、海外では当然のことです。

── デンマークなんか、学校をコロコロ変えて毎年違う学校に行ったりする人もいましたよ。「ここも面白そうだねぇ」みたいな感じで、軽く、変化を選んでいく。

そういう能動的な選択をしていくと、人間って変われるんじゃないかなと思っています。能動的な選択というのは、何か特別にすごいことをしなくていい。自分が普段は行き慣れていない、ちょっと違うところに行ってみるだけでもいい。たとえば関心のある講座やワークショップに行ってみるでもいいですし。

能動的選択をしていろんな機会に参加していくと、少しずつ自分が変わって、選択肢を生み出せるようになっていく。

── 僕がデンマークで学んだことも、「なんかやりゃいいじゃん」ということでしたね。ラーンネットも、最初は自宅の一室で細々とパソコン作りを始めただけなんですよ。「自分にやれることをやってみよう」と思ってただけ。まずはちょっとでも動いていくことが大事ですよね。

動きながら考える、作りながらやってみる。ずっと考え続けていても、その通りには絶対ならないですよね。それよりは、動き続けながら微調整をいかにできるかという方が、結果的には伸びていく。なので、今目の前にある選択肢に気づければ、ちょっとずつ変わっていけると思うんですよ。

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2.日本の学校をイヤがる息子を見て、教育業界へ

──Peatixというウェブサービスの世界から、教育業界へと足を踏み入れるきっかけは何だったのでしょう?

東南アジアでもサービスを展開していくため、2013年からシンガポールを拠点に仕事をすることになりました。家族もその時に一緒に1年間移住したのですが、日本に戻ってくるとなんだか子どもの様子がおかしい。どうもあんまり小学校に行くのが楽しそうじゃなくて。

── 戻ってきたのは、お子さんが何年生の時ですか?

小学校3年生です。騙し騙し行かせてたんですけど、4年生になって、随分と自分の不満を言語化できるようになってきたんですよね。その時に「なんで日本の学校は、算数とか国語をバラバラに勉強しなきゃいけないんだ。すごく時間の無駄だし、自分のやる気もでない」と言いだして。すごく本質的ですよね。

一方で私は「施設も立派だし、給食も美味しいし、お友達もいっぱいいるし、大学までついてるし、何がイヤなんだろう」と思ったわけですよ。当時は、いわゆる一般の保護者のマインドでしたね。

子どもの視点と自分の視点があまりに違いすぎて、子どもの視点で教育を見れなくなっている自分に気が付きました。子どもの視点に立ち返るにはどうすればいいんだろうと思って、教育についてリサーチを始めました。

── リサーチしてみて、どうでした?

子どもは新しいものを作り出したい、楽しいことをとことんやりたいと思っています。そういう子どもの欲求はすごく本質的だし、これから求められる人材像とマッチしていますよね。

一方で日本の学校には、そういう場があまりない。リサーチを進める中で、学生時代だけ優秀で、実は将来的には「使えない」人材ばっかり育てているんじゃないかということに気付きはじめたんです。そこで「これはちょっとまずいな、私は何ができるんだろう」と考えた。それが教育業界に入っていったきっかけです。

ずっとテクノロジー業界にいたので、最初はEdtech的なアプローチで解決しようとしてたんです。でも、知れば知るほど、表面的なアプリやサービスだけで解決する問題じゃないということに気づきました。

昭和と今の時代とでは、必要な「マインドセット」が全然違う。そこを見つめ直すところから始めなきゃいけない。何が正解なのかも分からないなと気付いたのが2016年の前半頃です。気付いてからは、素早くアクションを起こしていきました。

── 意外と最近のことですね。竹村さんというと、映画「Most Likely to Succeed」を広めたという印象も大きいです。

ちょうど2016年頃に「Most Likely to Succeed」に出会ったんです。米国のカリフォルニア州にある「High Tech High」 というチャータースクール(民間に運営を委託されている公立学校)に通う高校1年生の成長を追いかけながら、「21世紀の子ども達にとって必要な教育とはどのようなものか?」というテーマについて考えるドキュメンタリー映画です。

アメリカで上映会に参加して、教育を変えていく必要性を気づかせる力がこの映画にはあると強く思いました。いきなり学校で上映会を開催するのは難しいので、まず外で私みたいに教育についてもやもやと考えている人たちに集まって、見てもらおうと考えたのです。

当時は英語の字幕しかなかったんですけど、それでも60人くらい集まりました。ほとんど宣伝もせずにです。なので「教育についてもやもやしている人は結構いるんだ」と気づきました。

2017年に、もっと日本で広めるために日本語の字幕を作ってもらいました。そして2017年の11月ぐらいから日本語字幕での上映会活動を本格的にやっています。それがFutureEduの活動の柱の1つなんです。

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3.創造的な学びを広げるムーブメントをつくる

── 「Most Likely to Succeed」は私も観させてもらい、まわりの人にも薦めています。観た人は、どのように受け止めているんですか?

上映会のあとに参加者との対話を行うのですが、いつもめちゃくちゃ盛り上がるんですね。アンケートの満足度も、非常に高いです。

── やはりここ数年で、かなり意識は変わってきてますよね。教育を変えていく必要性を、みんな感じてる。

満足度の高さが2017年からずっと変わらないんですよ。変わらないというのは、まだまだ知らない人がいる証拠だと思っていて。特に地方では、「High Tech High」などで行われている新しい取組みを知らない人がたくさんいらっしゃるんです。

映画で意識が変わった後、「どうすればいいのか」と途方に暮れて終わってしまう方も、立場にかかわらずいらっしゃることもわかりました。次のステップに進むには、「いろんな選択肢が実際にある」「選択肢は作れる」と思える機会も必要だと気付きました。そのきっかけを作りたいと悩んで考えたのが、「Learn by Creation」という場です。

「Learn by Creation」の運営団体として、一般社団法人も2019年4月に立ち上げました。Learn by Creationで目指してるのは、子どもだけじゃなくて大人も一緒に作りながら学んでいく、創造的な学びが当たり前の社会になることなんです。いろんな人に関わっていただき、メッセージを全面にだしてムーブメントを作っていこうとしています。

───  2019年の8月に開催された「Learn by Creation」のワークショップに登壇させてもらいましたが、フェスのようで楽しかったです。かなり反響もあったんじゃないでしょうか。

教育者と保護者・子どもたちが、起業家・クリエイターなど社会で創造的実践を行う人達が出会い、対話や協働をする場をつくりたかったんです。シンポジウム、ワークショップ、ハッカソンなどを通じて、多様な人々がつながり、共に楽しみながらこれからの学びを考えられるように工夫しました。

異業種の人にもっと教育に関わってもらうきっかけにもなるよう、スピーカーも半分ぐらいは教育業界以外の方をキュレーションしました。アンケートでもポジティブなコメントを多くいただき、来年も開催して欲しいという要望もありました。

── スピーカーの質がとても高く、本質的なことをやっておられる方をきちんと選ばれたのだなと思いました。

実は、そこは一番時間をかけた部分です。私が大切にしたのは、ボトムアップで1人1人が立ち上がるっていうコンセプトを大切にしてくださる方をお呼びすること。だから海外の先生でも自分が権威っていうような感じの方は一人も呼んでないです。

── すごくエネルギーが必要だったと思うんですけど、そのモチベーションはどこから来たんですか。

使命感のようなものかもしれません。「Most Likely to Succeed」の上映会で火種をつけた以上、放置することは出来ない。教育の選択肢は自分で作れると思えれば、今ある選択肢がいまいちでも、気分が変わってくるじゃないですか。「選択肢は作れる」というマインドセットを醸成するためには、お祭り的なイベントが必要だと思い、開催まで走り切りました。

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── お祭り的な雰囲気で盛り上がり、その場で色々な人と繋がれて、実際に行動に一歩踏み出すことができる。よく考えられているなと思います。教育を実際に変えていくには、仲間を見つけて繋がっていくことが必要ですから。

参加者の方からも、参加者同士で繋がって次の動きのきっかけになったという話をいただきました。イベント内で開催したハッカソンでは、教員の方が企業人やクリエイターとチームになり、新しい授業づくりを行いました。結果として5チームのうち3チームはイベント後も活動を続け、実際に授業で実施されました。

1つのチームは高専の先生とクリエイターの人たちのチームで、週に1コマか2コマの実際の授業で「商店街を電気の力で元気にする」みたいなプロジェクトを立ちあげました。先生が先生じゃない人たちと知り合えたというのが、一番大きいと思います。

「自分のやってたことがやっぱり間違ってなかったと思えた」という教員の感想もあったり、学校の中だけにいるとわからない視点が得られたみたいです。

(文:齊藤香恵子、写真:玉利康延、編集:田村真菜)

後編を読む

2020年7月に発売された、竹村さんの最新刊はこちら。



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