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「やってみたい」を見つける。いつでもなんでも挑戦できる中高生の秘密基地「b-lab(ビーラボ)」

学校でも塾でもない、無償から低額でアクセスできる、地域の学び場を紹介する「まちの探究サードプレイス」。今回ご紹介するのは、東京都文京区にある中高生向けのユースセンター「文京区青少年プラザ b-lab(ビーラボ)」。

コンセプトは「いつでもなんでも挑戦できる中高生の秘密基地」。2015年4月に東京大学がある文京区にオープンし、15万人以上の中高生に学校や家以外の「第三の居場所」を提供してきました。

認定特定非営利活動法人カタリバの職員でビーラボの館長・米田さんと、文京区の職員としてビーラボに関わっている足立さんに、ビーラボの取り組みや、子どもとの関わり方についてお聞きしました。


「中高生の日常に伴走してみたい」とビーラボへ

—— はじめに、ビーラボがどんな場所か教えてください。

米田:ビーラボは自分の興味関心を深め、いろんな人とつながって協働できる中高生の居場所です。文京区に在住・在学している中高生が、平日や休みの日に利用できます。友だちと遊んだり、勉強したり、やってみたいことに挑戦したり…。ひとりでぼーっとして過ごす子もいますね。ビーラボはどんなふうに過ごすかを自分で決められる場所なんです。

年末年始以外は、毎日9時から21時まで開館しています。部活や塾を終えてから来る子もいます。土日の利用は100人を超えることもありますね。

内閣府の調査によると、約20人にひとりの子どもたちが『どこにも居場所がない』と感じているそうです。子どもたちの声からも、第三の居場所の必要性がわかります。

—— 米田さんは、どんなきっかけで館長として関わることになったのですか?

米田:学生時代に教員を目指していた時期もあったのですが、どうしても教科教育を自分が担うイメージが持てなくて、最終的に民間企業に就職しました。6年以上求人広告の営業をしていたのですが、その会社のCSR活動でキャリア教育プロジェクトにも携わることになったんです。そのとき「自分がやりたかったことは、キャリア教育だったんだ」ということに気づいて。

それで、キャリア教育を主軸に活動していたカタリバへ、2014年に転職しました。カタリバに入職してからは、高校生が大学生や社会人と本音で語り合う授業「出張授業カタリ場」に3年半携わり、その後、ビーラボに参画しました。

当時は一期一会の場づくりをしていたのですが、もっと中高生の日常にも伴走してみたいと思うようになって。それで、ビーラボに異動したという経緯があります。私はスタッフを経て、2020年に4代目の館長になりました。

—— コロナ禍で、こういう居場所運営も大変だったのではないでしょうか。

学校が一斉休校になった3月〜5月は、私たちもやはり休館せざるを得ませんでした。でも、大変な時だからこそ居場所が欲しいという子どもたちはいるだろうと思っていました。「オンラインでビーラボを再現できないか?」と中高生やスタッフと共にチャレンジしました。

毎日のランチタイムに、お昼ごはんを食べながら一緒に喋る「 みんなで!だべり場」という企画をやったり、勉強したい子に向けてオンライン自習室を作ったりしていましたね。高3生の卒業式も、この時はオンラインでやりました。

放課後の過ごし方を選べて、自分の可能性を広げられる居場所

—— 中高生向けのユースセンターということですが、どのような設備があるのでしょうか。

米田:1階の受付の先には、談話スペースがあります。配置を変えられるフリーデスクや、カウンターデスクの勉強スペース、キッチン、畳スペース、壁一面の本棚などがあり、好きに過ごせるリビングのような場所です。

談話スペースの奥にあるのが、音楽スタジオ。バンドの練習に必要な機材や楽器がすべて揃っています。また、1階には木のぬくもりが感じられるホールもあります。演劇やダンスの練習、発表、簡単な運動などに使われていますね。2階には、集中して勉強するための研修室や屋外バスケットコート、3階には卓球台がありますね。

—— 素晴らしい設備が揃っているのですね。ビーラボを運営するうえで、大切にしていることはありますか。

米田:「中高生の秘密基地」というコンセプトを軸に、3つの運営方針があります。1つは、ゆったりくつろげる居場所であるということ。学校や塾ではなく、家でもない場所で、自分らしく自由に過ごしてほしいなと思っているんです。

2つめは、きっかけに出会う場づくりです。音楽やダンス、スポーツ、工作など、さまざまなイベントを開催しています。専門的なスキルのある地域の方に講師を務めてもらうこともあります。自分の可能性に気づいたり、新たな興味関心を発見したり、様々な仲間と交流するきっかけを用意しています。

3つめは、挑戦のステージとして、一歩踏み出すのを応援することです。「ライブをやってみたい!」など、これまで中高生の興味関心からいろんなプロジェクトが生まれてきました。中高生自身が主役となって、周囲を巻き込み、主体的に取り組む活動を応援しています。

ゆったりくつろげる居場所でもあり、スポットライトがあたるステージでもあり、様々な中高生たちがそれぞれの興味やステップに応じて関われるようになっています。

主役の中高生のアイデアを、ユースセンターづくりに反映

—— このような施設は珍しいと思いますが、ビーラボが生まれた経緯についてもお聞かせください。

足立:文京区では、中高生の居場所づくりが以前から課題になっていました。それで、「青少年の居場所検討部会」や「青少年の社会参加検討部会」を設置して、どうしたら良いか考え続けてきたんです。

そこで見えてきたのが、中高生が気軽に集まって安らぐことのできる居場所の必要性だったんです。同級生だけでなく、異年齢の人とコミュニケーションを取る「縦のつながり」を得ることが、社会参加の意義だということも示されました。

その後、2009年に教育センター建て替えの動きがあり、その中に中高生向けの施設「文京区青少年プラザ」が設置されることが決まりました。文京区内の3000人以上の中高生を対象にしたアンケート、地域の大人との話し合いや、中高生に話を直接ヒアリングしたりして、準備を進めてきました。開設前の2014年4月からカタリバさんに運営をお願いしました。

—— カタリバが運営に関わることが決まってから、実際のオープンまでにはどんなことをやってきましたか?

米田:主役の中高生に立ち上げまでのプロセスに関わってもらって、一緒につくることをカタリバでは意識していました。文京区の学校に直接PRに行ったりSNSで情報発信をしたりして「秘密基地のつくりかたワークショップ」に参加者を募り、半年の間に約60人の中高生が参加してくれたそうです。

「愛称を決める」「空間デザインを考える」といったテーマで、ワークショップは4回開催しました。「Bunkyo laboratory(文京区の実験室)」が由来の「b-lab」という愛称も、ワークショップに参加してくれた高校生のアイデアです。

他にも、リビングの窓際にあるカウンターデスクは、スタバに憧れた中高生のアイデアです。本棚に取り付けられた小窓は、「本を探すふりをしながらスタジオでバンドの練習をしている先輩を覗きたい」という声から生まれました。そうしたプロセスを経て、2015年4月にビーラボがオープンしました。

「好き」から、主体的なチャレンジを後押しする関わりを

—— 中高生との関わりで、大切にしていることはありますか。

米田:前提として、カタリバでは「ナナメの関係」を大切にしています。ナナメの関係というのは、親や先生とのタテの関係や、友だちとのヨコの関係ではない、少し年上の先輩との関係です。利害関係の薄い私たちだからこそ、中高生が本音を話しやすいのではないかと思っています。

ナナメの関係という立場から、ほっと安心できる関係性をまず築いていく。そのうえで、普段の何気ない会話から、本人の好きなものをキャッチして、そっと背中を押して、主体的なチャレンジを後押しする関わりをしています。

また、スタッフが中高生と関わるだけではなく、同じ趣味のある仲間とつながって活動する「サークル」という仕組みもあります。最近は水引サークルが生まれました。他にもダンスやウクレレ、イラスト、小説、筋トレなど、いろんなサークルがありますね。

ビーラボに来館する最初のきっかけは「くつろぎたい」「遊びたい」という中高生の方が多くて、はじめから「何かに挑戦したい」という子は少ないです。でも、いろんな人から刺激を受ける中で、子どもたちの気持ちがどんどん変化していくのを強く感じます。

—— チャレンジのきっかけをつくる様々なフックがはりめぐらされているのですね。

米田:東京大学大学院情報学環・学際情報学府の山内祐平研究室と協働している「まれびとプロジェクト」という取り組みもあります。東京大学の若手研究者や大学院生にビーラボ内で研究活動を行ってもらい、中高生がその様子を見たり一緒に作業したりできる機会をつくりながら、どんなふうに中高生が自分の興味関心を喚起できるかを研究しているんです。

実際に、この活動を見た女子生徒が東大生の研究内容に興味を持って、スタッフと一緒に大学の研究室に訪問した事例も生まれました。

教育業界での経験より、ある領域への専門性を重視

—— かなりたくさん大人が関わっているように思いますが、どういう体制で運営していますか?

ビーラボには15人の職員の他に、中高生と遊んだり勉強したり悩みを聞いたりする大学生や社会人のボランティアスタッフ「フロアキャスト」がいます。「明日はこのキャストの人が来るから来よう」という子もいますね。

—— 職員やスタッフの方は、フラットに子どもたちと関わるスキルが求められるのかな、と感じました。採用で大切にされていることはありますか。

米田:職員採用で言えば、まずは、カタリバが向かっている方向性や大切にしていることに共感してもらえることですね。教育やユースワークに関する経験の有無は問わず、その方のポテンシャルを見て採用しています。

もともと教員として教育業界で働いていた方もいますが、新聞記者だった方、本業でデザインの専門学校の先生や児童文学作家として活躍しつつ兼業で働く方もいます。それぞれがオリジナルの経験や背景を持って、ビーラボに参画してくれています。

ビーラボで培ったノウハウを全国へ

—— 最後に、これからやっていきたいことを教えてください。

足立:文京区としては、より多くの中高生にビーラボへ来館してもらいたいです。今、文京区に在住・在学の中高生は約2万5000人ですが、その中でビーラボに登録してくれているのは5000人ほどです。来館してもらえる中高生の数を増やして、もっと身近な居場所としてビーラボが機能していけばいいなと思います。

米田:全国で活動する方々に、ビーラボの知見をどんどん渡していきたいです。これまで培ってきた知見を一般化して全国のみなさんに渡していくのは、カタリバの新たなチャレンジです。

実際に、カタリバでは子どもたちの居場所づくりを行う団体を支援する「ユースセンター起業塾」も始めています。資金面と運営面から、地域での子どもの居場所づくりを支援し、去年はユースセンター起業塾の1期生として全国の14団体が活動を始めました。第2期生の募集も終え、新たな仲間がどんどん増えてきています。

全国の中高生には、誰かとつながって安心できる居場所をできるだけたくさん持っていてほしいです。心が折れそうなときや悩んで葛藤の最中にあるときに、学校や家だけでカバーしきれない部分で、これからも中高生を応援できたら嬉しいです。

文:田中美奈

※ビーラボでは、正社員パートタイムスタッフを募集しているそうです(2023年3月情報)。関心のある方は、カタリバHPに掲載されている要件をご確認ください。



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