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「豊かないのちのてざわりを感じて」持続可能な社会を実現するヒントを届けるKURKKU FIELDS

「子どもたちのためにもサステナブルな暮らしに興味があるけれど、何から始めたら良いかわからない」そう感じたことのある方も多いのではないでしょうか。そんな私たちにヒントをくれるのが、2019年に千葉県木更津市にオープンした体験型施設「KURKKU FIELDS(クルックフィールズ)」。

約9万坪の広大な敷地には、有機栽培を行う畑や酪農場、園内でつくられた野菜やチーズ、卵などをふんだんに使ったメニューを楽しめるレストランやカフェ、豊かな自然の中で楽しめる魅力的なアート作品、宿泊施設があります。

そんなクルックフィールズで子どもにも大人にも大人気なのが、食の魅力や循環の仕組みを学べる体験型のプログラム。今回はプログラムを担当するスタッフの伊藤雅史さんと吉田和哉さんにお話を聞きました。

循環型農業や生物多様性を、五感で味わうプログラム

—— オーガニックファームの農場長を務める伊藤さんは、10年以上有機農業に携わってきたそうですね。クルックフィールズではどんな体験ができるのですか?

伊藤:見て、聞いて、嗅いで、食べて、触る。僕らはそんな五感で味わう農業体験を届けています。例えば、トラクターで耕したばかりの畑に入ってふかふかの土に触れたり、刈りたての草の香りを嗅いだり。小麦の脱穀を体験してもらった後、挽きたての粉を使って手打ちパスタをつくったこともあります。

大切にしているのは、参加者の方が土づくり・野菜づくり・食事の一連の流れを体感できること。美味しい野菜をつくるために、土づくりは欠かせません。クルックフィールズの畑では化学肥料や化学合成農薬を使っておらず、土づくりをとても大切にしています。

参加者の方にいろんな種類の土に触れてもらって、土に籾殻や竹のチップ、堆肥を混ぜてもらう。土づくりの後は、ランチに使う有機野菜を収穫して、みんなで調理して食べる。そんなプログラムをたくさんの親子に届けてきました。

循環型農業をやっているクルックフィールズの強みを活かした、サステナビリティを垣間見れるようにすることも大切にしているポイントです。例えば、僕らは飼っている牛や鶏から出た牛糞と鶏糞を堆肥にしているので、実際に手で堆肥に触れてもらう。他にも、調理で出た生ゴミをコンポストに入れる様子を見てもらうこともあります。

—— 循環型農業を五感で学べるプログラムを届けているのですね。「生き物博士」と呼ばれている吉田さんは、生物学科で学んだ経験を活かしたツアーを行っているそうですね。

吉田:僕は場内に暮らす生き物の魅力や循環システムを伝えるツアーを担当しています。自然の魅力や価値を伝え続けること。これが僕の人生のミッションです。

場内を実際に歩きながら、植物に触れて香りを嗅いだり虫や鳥を観察したり。知識を伝えることもありますが、できるだけ五感で森を感じてもらえるようにプログラムをつくっています。時期によっては、宿泊者向けにホタルを探すツアーも開催していますね。

クルックフィールズでは、実際に現場に出ているスタッフがプログラムを担当するようにしているんです。だからこそ「つい先日あの花が咲いたんです」「先週からあの生き物が出てきました」と、日々の気づきを参加者の方と共有することができます。まとめた資料をただ読み上げるプログラムではないんですよね。

熱量の高いスタッフがたくさんいるので、スタッフの言葉を通してクルックフィールズの魅力を伝えられたらと、場内の看板もできるだけ少なくしています。看板を読むのと直接話を聞くのとでは、伝わり方が変わるので。気持ち良い空間の背景をスタッフの言葉で伝えたいですね。

—— 年間何人の方がクルックフィールズに遊びに来ているのですか?

伊藤:全体で年間10万人前後ですね。学校の行事で来てくれる子どもたちは毎年約5000人います。今までは8割が千葉から遊びに来てくれていましたが、コロナ禍が明けてから県外の学校も増えて、関西や九州からいらっしゃることも多くなりました。

サステナビリティを学びながら広々とした空間で過ごせるところを評価してもらっています。加えて、スタッフの明るさと説得力のある講義が人気です。いきいきした大人が働いている姿を見れるのも、キャリア教育上良い刺激になっているそうです。

「いつも食べられない野菜も、ここなら食べられる」

—— プログラムに参加した子どもたちや親御さんからはどんな声が寄せられていますか?

吉田:僕らは食事も大切な体験だと思っているので、野菜を収穫した後に調理してもらうことが多いんですよね。親子でプログラムに参加してもらうと、親御さんがすごく驚かれることが多くて。

「家だとお菓子ばかり食べて、野菜は全然食べないんです。でも、ここだと残さず全部食べる。どうしてですか」って。僕らも理由がわからないので子どもたちに「どうして?」と聞くと「自分で野菜を取ったから」「自分で料理したから」「自分で野菜を洗ったから」と、いろんな声を聞かせてくれます。

子どもたちを見ていると、野菜を食べない理由は味じゃないことがよく分かります。きっと子どもたちそれぞれに野菜を食べられるようになるスイッチがあるんだろうなって。それを僕たちが一方的に決めちゃいけないなと思っています。

伊藤:「僕がオリーブオイルをかけたから、お母さん一緒に食べよう」と言うお子さんもいました。ある工程を子どもたちに担ってもらうことで野菜を食べられるようになるのなら、いろんなことをやってみてほしいなと思いますね。

スーパーにある野菜と違って、畑から取って洗って切ってと、野菜と時間を過ごすうちに、愛着が湧いてくるみたいですね。だから、全部食べられるみたいです。不思議ですよね。

吉田:例えば、大人はスーパーに並んでいる人参もここで採った人参も、両方「人参」と呼びますよね。でも、子どもたちからすると全く別物みたいなんです。

スーパーで売られている野菜は食べようとしないけど、クルックフィールズで取れた野菜は「美味しい。美味しい」と言って食べてくれる。その様子を見れるのは幸せな瞬間ですね。プログラムをやっていて良かったなと思います。親御さんも「来てよかった」と言ってくださいますね。

ここでの体験は子どもたちにとって間違いなく大きなきっかけになるんだろうなと思います。「楽しい」「嬉しい」とポジティブな感情で自然や農業と関わってもらえたら嬉しいです。僕らも子どもたちがポジティブな方向に変わることを後押ししたいし、大事にしたい。美味しい食事の背景には有機農業や循環型農業が隠れていることも、プログラムの中で感じてもらえると嬉しいですね。

自然と子どもが好き。大学で生物について学んだ経験を、子どもたちへ

—— 吉田さんはどのような経緯でクルックフィールズに関わることになったのですか?

吉田:僕は、大学院では外来種であるアライグマの研究をしていました。アライグマが日本の在来種を食べて生態系を脅かしていることが問題になっていたんです。千葉のアライグマがどこから侵入してどう拡大したかを遺伝子レベルで研究していました。

外来種について研究しようと思ったのは、外来種のウシガエルを捕まえて解剖したときに、絶滅の危機に瀕しているサンショウウオが丸々1匹出てきて衝撃を受けたから。外来種が大きな問題になっているとは聞いていましたが、「これが現実なんだ」とびっくりしたんですよね。

大学院を卒業した後は自然と関わる仕事をしたかったのですが、いざ就職するタイミングになると壁にぶつかりました。業界の方から給料が安いことを理由に就職を止められたんです。自然のために一生懸命働いている人たちの生活が厳しいことを知った瞬間でした。

それで、人々が何に価値を見出し、社会が成り立っているかを学んでからこの業界に戻ってこようと、大学院を卒業してからは3年半営業の仕事をしていました。そろそろ自然に関わる仕事をしたいというタイミングで、元々クルックフィールズで働いていたスタッフに声をかけてもらって、転職したんです。

—— プログラムの話からは子どもたちへの想いを感じますが、学校の先生になることは考えませんでしたか。

吉田:子どもと関わることは学生時代からずっと好きで、親子向けのキャンプにボランティアとして参加したり、野鳥観察のボランティアやアルバイトをしたりして、子どもたちと関わってきましたね。だから「何で学校の先生にならなかったの?」と言われることは多いです。

でも、僕は教室の中で教えたいわけじゃないんです。もちろん学校の先生は生きるうえで必要なことを教えてくれます。でも僕の場合は、教室で学んだことよりも教室の外で学んだことの方が、今の自分に活きている感覚があるんですよね。

僕に果樹栽培のことを教えてくれた師匠は、剪定作業をする時に「お前はなんで木を切るんだ」みたいな哲学的な問いかけをしてくれて。当たり前のように樹木を切るのではなく、樹木を通して自分の思考や行動に向き合うことを大切にすることを教わりました。そういう関わりから思考力は育まれるように思うんです。基礎学力は大切かもしれないですが、思考力があれば後から学んでもいくらでも挽回できる。思考力の方が大事だと思っているからこそ、先生として働くイメージを持てなかったんです。

今も仕事の中でいろんな子どもたちに出会いますが、僕にとっては自然も子どもたちも、守るべき大切な未来として愛情をもって接しています。将来を担っていく世代にいい環境を残していきたい想いは強いですね。中には、「今の季節は何がいるの?」なんて何度も遊びに来てくれる子どもがいるのも嬉しいです。

有機農業一筋で働く。農業の楽しさを伝えたい

—— 伊藤さんはどんな経緯でクルックフィールズに?

伊藤:僕はもともと学校の先生になりたかったんですよ。教育に関心があったので、大学生の頃は森のようちえんや森林教育について調べていました。その中で北欧の教育が注目されていることを知って、北欧系の本を読み漁っていたんです。

そのとき、ちょうど外苑前にレストラン「kurkku kitchen」がオープンしたんです。お店の名前を見たとき「『kurkku』ってフィンランド語だ!これは何かある!」と、運命を感じました。それで、大学4年生のときにスタッフとして働き始めたんです。

「kurkku kitchen」で働く中で、有機野菜の美味しさに感動しました。野菜の生産者やシェフがいきいきと働く姿に衝撃を受けて、農家ってカッコ良いなと思うようになったんです。それで就職予定の内定は蹴って、農業の道に。千葉県鴨川市の農家で1年間、自然農法の修行をしました。

そんな中「kurkku kitchen」を運営する株式会社KURKKUで農業を始めるという話が出たんです。「立ち上げメンバーとして参加させてください」とお願いして、農地探しチームとして活動に加わりました。茨城に行ったり長野に行ったり。当時は関東を中心にあちこちへ行きましたね。それで、今クルックフィールズがある木更津にたどり着いたんですよ。土地を開墾するところからスタートしましたね。

—— 伊藤さんはクルックフィールズの歴史を見てきたわけですね。

伊藤:そうですね。僕は有機農業一筋で働いてきました。農業をするチームが最初に立ち上がって、そこからレストランなど、いろんなサービスが生まれていったんです。

ここでつくった野菜はプログラムの中でも使いますし、スーパーにも出荷しています。僕をはじめとした農業集団がここには沢山いて、第1次産業から第3次産業までのメンバーがチームになってこの場を盛り上げているんですよね。

ここの代表の小林(※音楽プロデューサー小林武史)も、ここにはすごく思い入れを持ってくれてるし、「今朝飲んだ農場自家製のトマトジュースめっちゃ美味しかった」と電話をくれたりします。

クルックフィールズは2019年にオープンしましたが、徐々にお客さんが増えて、体験プログラムを届ける機会も増えて、僕も念願叶って屋外農場ティーチャーになれたんです。農業が大好きなんで、子どもたちにはプログラムの中で農業の楽しさを味わってもらいたいですね。

子どもたちが、本気の大人たちに出会える機会に

—— 最後に、クルックフィールズの魅力を改めて教えてください。

吉田:自然を見たければ、東京にも奥多摩町やあきる野市など、いくらでもそういう場所はあります。でも、クルックフィールズは自然だけじゃなくて、農業や食が一緒になっているのが面白いんですよね。

自然があるだけだと、なかなか環境保全は自分ごとになりにくい。「自然環境を守るのは、それが結局人類のためになっているから」と言われても、なかなかピンとこない方が多いのではないでしょうか。でも、農業や食が関係してくると、明確に自分の生きることにつながるからこそ、環境に興味を持ってくれる人が増えるんです。

農業も食も自然も、何ならアートも、全部がひとつの場所に集まって、すべてが循環でつながっている施設は珍しい。これが僕らのアイデンティティですね。

伊藤:手前味噌ですが、スタッフがここをよりいい場にしているんですよね。素敵な土地にひとが集まってきたのではなく、自分たちでいい場所をつくりあげていったんです。吉田くんが入社してくれたから活かされた木々たちがいて、吉田くんが自然の素晴らしさを伝えてくれるからこそ主役として登場できるようになった生き物がいます。

何ならこれから入るスタッフによってまだまだクルックフィールズの可能性は広がっていくと思っています。僕はスタッフとお客さんとでこの場を一緒につくっている感覚があるんです。スタッフがつくり、お客さんが喜んでくださるから、この場が成り立っている。一緒に「演奏」をしているような感じがするんですよね。

吉田:僕ら以外にも、お菓子職人もいれば食肉加工のプロもいます。スタッフは本気の人たちばかりです。本気でいいものをつくりたいし、本気でここをいい場所にしたいと思っています。子どもたちが、そんな大人に出会える機会にもなるかもしれません。いろんな方たちに、ぜひ一度遊びにきてほしいですね。

—— ご飯も本当に美味しくて、気持ちのいい場所ですね。ありがとうございました!

■クルックフィールズ公式サイト

■クルックフィールズ×探究コネクトで10月1日にイベントを開催

10/1(日)に、クルックフィールズと探究コネクトがコラボして「サステナビリティを親子で学ぼう!KURKKU FIELDS×探究コネクト 秋の特別プログラム 」を行います。申し込みは下記のpeatixより、先着順で受け付けています。


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