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探究クリエイタープログラム1期生が手掛けた「探究的な授業」の内容は? 先生の学校 × 探究コネクトコラボイベント

学習指導要領の改訂により、2022年度から高等学校で「総合的な探究の時間」が始まりました。一方で、「何から始めて良いのかわからない」「生徒が主体的に取り組めるテーマをどのように設定すれば良いかわからない」と感じたことのある先生も多いのではないでしょうか。

『先生の学校』と探究コネクトでコラボして、この「探究的な授業」をテーマにしたトークイベントを実施しました。

探究コネクトでは、2021年より主に教員の方を対象に、探究型の授業のつくり方を実践的に学ぶ「探究クリエイタープログラム」を実施しています。プログラムに参加した1期生に、参加の経緯や実際の授業デザインについてお話を伺いました。

子どもたちにリフレクションを共有。一人ひとりを知ることで、教師の声かけに変化が

イベントは、追手門学院中・高等学校で探究科主任を務める池谷陽平先生の発表から始まりました。

池谷:本校では探究科を2020年に立ち上げ、国語や英語のように探究もひとつの教科になっています。探究の授業をしているのは、中学の「総合的な学習の時間」と高校の「総合的な探究の時間」です。

探究科では“To pave the path we strive, nothing can stop our drive.”「道なくとも切り拓く、この意志を阻むものはなし」をビジョンに掲げています。既成概念に疑いを持ってやりたいことを貫きながら、子どもたちには自分の人生を生きてほしいですね。

探究科では「be original」「be creative」「be confident」の3段階でプログラムを進めていきます。中学1年生から高校1年生までのテーマは「be original」。自分はオリジナルの存在であること、自分はひとりしかいないことを子どもたちに知ってほしいです。

力を入れているのは、自分を知ること。自分がどんな価値観を持っているかを感じてもらうため、アートで自分を表現することを授業に取り入れています。

高校2年生は「be creative」。自分とは違う人が集まったとき、新しい価値が創造される楽しさを味わってほしいです。アントレプレナー教育や課題解決型学習を取り入れ、「どんな社会にしたいか」についてチームで学習を進めています。

高校3年生は「be confident」。自分で決めたテーマを探究し、プロジェクトを進めます。最終学年で、自分に自信を持って行動を起こす。こんな流れのプログラムになっていますね。

探究クリエイタープログラムに応募したきっかけは、プログラムを主催するラーンネットグローバルスクールの見学に行ったとき、衝撃を受けたからです。子どもたちの活発さに驚きました。「どうすれば子どもたちがこんなに積極的に?子どもたちが探究しながら学ぶヒントがここにありそう」と思い、参加を決めました。

ラーンネットグローバルスクールでは、子どもたちの探究心を育むため、好奇心を爆発させる「探究サイクル」が大切にされています。子どもたちが学習内容を自分で選んで、目の前のことに本気で取り組んでいるんですね。

そうして、集中してとことん学習に取り組むことで達成感が得られ、「次はこれにチャレンジしてみよう」という探究サイクルが回っていきます。この様子を見たとき、子どもたちが選択するからこそ、主体性が生まれるんだと感じました。

また、実際にプログラムを受講するなかで、安心安全な環境で受け入れられていると子どもたち自身が感じられることで、「自分を表現してみよう」と思えるようになるのではないかと気づきました。子どもたちを認めて信じることを、自分の学校の探究科の授業で実践するにはどうしたら良いかを考えました。

いち授業内で、全生徒に継続した1対1のコミュニケーションを確保するのは至難の業。それで、授業のなかでリフレクションを子どもたちに共有することにしたんです。「あなたのことを認めているよ」という空気が生まれるのではと思ったんですね。これまでも一部を紹介することはありましたが、ここまでの量を共有することはありませんでした。

すると、教員側に大きな変化が起きました。「こんなことを考えているんだ。すごいね」と子どもたちへの声かけが変化したんです。一人ひとりを知っていること自体が、子どもたちを認めていることだと気づきました。知っているからこそ、子どもたちを信じることができると学びましたね。

探究クリエイタープログラムでは、受講生がプログラムのなかで作成した授業プランを勤務校で実践し、講師からフィードバックをもらうことができます。僕が授業をしたのは、中学2年生の探究科の時間です。

自分を知ることに力を入れている中学2年生では、1年を通して「記憶プロジェクト」に取り組みます。自分の記憶を思い返したり、その記憶を新聞紙や色鉛筆などを使って再現したり、観賞会をしたり。108個のマスのなかに自分の記憶のなかにあるものを描いたり、自分の時間感覚がどのようにつくられたか振り返ったり。

プロジェクトの集大成として、掘り起こした自分の記憶だけで、仮面をつくって校内を練り歩きます。授業ではリフレクションを紹介する時間をしっかり取って、人によって感じていることが違うことを共有しました。

授業後にラーンネットグローバルスクール代表の炭谷さんからもらったフィードバックは、「子どもたちが自由に取り組むことで個性が出てくる。それが、その子のやりたいことに近い可能性がある。それを見て初めてその子を知る」というものでした。この言葉に衝撃を受けました。

枠を設ける前に、まずは子どもに自由に取り組ませてみる。そうでないと、その子自身が見えてこないということです。授業をつくる段階だけでなく、フィードバックをもらうことで更なる気づきがありました。僕らのプログラムもひとつの枠になっていたのではないかとハッとしました。今、この学びをどう今年度の授業に活かすかを考えています。

「本質的に学校は何をする場か」を多くの方々と考えていきたい。そんな想いで、僕は活動しています。みなさんと一緒に考えていけたら良いなと思っているので、ぜひ探究クリエイタープログラム2期生に応募していただけたら嬉しいです。僕もメンターとして参加します。一緒に頑張っていきましょう。

子どもの姿からデザインする、「子ども主体」の授業。子どもが学び合う時間に

続いて、大阪市立敷津小学校で研究主任を務める荒石将司先生より発表がありました。

荒石:13年間警察官として働いた後、平成28年4月に教師になりました。最初の2年間にしていたのは講義型の授業でした。当時を振り返ると、授業がわからず困っている子どもたちをフォローしきれていなかったと思います。

そんななか、2つの出会いがありました。ひとつは、平成30年に出会ったある校長先生です。その校長先生から「すべての子どもの学びを保障する」というお話を伺い、子どもの学んでいる姿から授業をつくることを教えていただきました。子どもが授業のどこで学びに深く入っていき、どこで学びについていけなくなっているか。そのことをよく観察することが大切だと学びました。

もうひとつは、炭谷さんが書かれた『第3の教育』との出会いです。子どもたちを管理したり放任したりするのではなく、適切に関わってナビゲートしていくことを学びました。そのために、教師は子どもたちに自己選択の機会を与えたり、子どもにどうなってほしいかをイメージしたりする。当時、すごく感銘を受けたことを覚えています。それで、ラーンネットグローバルスクールが行う「探究ナビ講座」を受講し、探究クリエイタープログラムにも1期生として参加しました。

探究クリエイタープログラムで実践した授業では、「より安全な登下校とは何か」を課題に設定しました。「総合的な学習の時間」で授業をしたのですが、大人が考えても答えが出ないような内容ですよね。誰も答えがわからないので、全員が学び合えると考えました。

授業の成果は、主にふたつあります。ひとつは、子どもが自発的に学び始めたことです。私は指示は出さずプリントやデータが載った資料を配っただけでしたが、「こんなに事故が起こっているんだ」などと子どもたちが反応して、学びが始まっていきました。なかには、授業が始まっても気持ちが乗らない子どももいましたが、友だちの声を聞いて学びに入っていきました。それが大きな成果だったと思っています。

もうひとつは、授業後に子どもが主体的に行動してくれたことです。授業の翌日から、今まで遅刻していた子が、時間通り登校するようになりました。授業で私が目当てを示したわけではありませんし、「明日から決まりを守りましょう」などと言ったわけでもないんです。でも、主体的に考えて行動してくれたんですよね。

授業中の子どもたちの様子を振り返ってみると、授業のなかで子ども同士がつながって、お互いの登校について話していました。変化が子ども同士の会話のなかで起こったことは、大きな成果だと感じています。

探究の授業づくりで意識したポイントは3つあります。ひとつは、授業をデザインすることです。私はデザインとプランという言葉を区別しています。教師のプランで授業をつくるのではなく、目の前にいる子どもから授業を創造しデザインしていくこと。子どもが主体であることが、大事だと思っています。現状の公教育では、まだまだ先生が主体になってしまっているように感じますね。

もうひとつは、課題設定です。子どもたちにとって身近なものは興味も湧くので、大事だと思っています。また、大人でも答えがわからないような難しい課題を選んでいます。すぐに答えが出ない課題設定ですね。「身近」「興味」「難しい」のポイントを押さえて、課題を設定するようにしています。

最後に、探究クリエイタープログラムで出会った1期生との協働を意識しました。最初はひとりで授業を考えていたのですが、ひとりだと既に知っていることのなかで考えるので、自分の思考の枠を超えにくいように感じます。

でも、同期生のみなさんと協働すると、自分の知らない話をしていただけて、新しい領域に踏み込んでいけるんです。未知に出会って、大人の私も探究しながら授業をつくっていく。こうした協働が大切なのかなと感じました。

今年度も「探究的な学び」を軸に、すべての子どもが学び合う授業を実践していきたいです。それと、子どもたちだけではなく、学校として先生同士も協働的に学びあって探究しながら授業をつくれるような教師集団を目指したいですね。また、地域や保護者のみなさんとともに学び合う学校づくりにもチャレンジしていきたいです。

私が子ども中心に学びを考えられるようになったのは、人との出会いがスタートでした。探究クリエイタープログラムでは、いろんな先生方と出会えます。建前ではなく本音で子どもにとって良いことを話すことができるんですね。これを機に、みなさんがこのプログラムと出会えたらと思っています。

探究クリエイタープログラム2期生を募集しています

最後に、放課後タイムとして質問の時間が設けられました。現役の先生や教育に関心のある方から、イベント終了まで次々と質問が。当日の様子を一部ご紹介します。

質問者:学ぶ範囲が決まっている教科学習に比べて、探究学習はゴール設定が難しいように感じました。どのようにゴール設定をされていますか。

池谷:全体で共有するゴールはない方が良いと考えています。全体としては、子どもたちが没頭してやりたいことができている状態が一番ですね。そのプロセスのなかで個々の目標が見つかっていくので、それに僕らがどれだけ寄り添っていけるかだと思います。

どれだけ一人ひとりのことを知って、尊重してあげられるかがポイントですね。先生一人に対する子どもの人数が多いという課題もありますが、個々に向き合う方法を僕らも探究していくことが大切だと思います。

探究科では、高校3年生でそれぞれの子どもたちが自分のプロジェクトを持って探究を進めます。興味のあることに取り組んでほしいので、メンタリングの時間をつくって生徒と一対一で話すようにしていますね。それで、子どもたちが探究するテーマを決められるように関わっています。

質問者:講義型の授業から子どもたちに問いを渡して待つスタイルに変えるとき、怖さがあったのかなと思いました。当時どのように感じていましたか。また、授業中の子どもたちとの関わり方もお聞きしたいです。

荒石:子どもたちを観察することが大切だと教えてもらってから、特に怖さもなく、むしろこのスタイルに出会えて良かったと思うようになりました。例えば、沈黙も「今集中して考えているんだな」と思えるようになったんですね。

授業中は児童用の机と椅子を置いて、子どもたちと同じ目線に座って一人ひとりを観察するようにしています。私のなかで子どもたちと関わるときのルールがあります。何をしたら良いかわからず困っている様子のときや、あまりにも違う方向に話が進んでいるときに、関わるようにしているんですね。

でも、子どもたちが困っているときも、少し待つことを心がけています。周りにいる友だちと関わってほしいので、友だち同士をつなぐような声かけをしています。子どもたちの集中力が切れてきたり「わからない」という声が全体から聞かれたりしたら、私の出番になることもありますね。でも、そのときも全体に質問をして、また子どもたちに考えてもらう。それから、私はまた子どもたちの様子を観察する。そんな授業をしていますね。

池谷 陽平
追手門学院中・高等学校、探究科主任、中1学年主任。大阪府立箕面高等学校で8年間の経験を経て、教育の本質を追求することを決意。現職において「探究科」を立ち上げ、独自のプログラムを開発中。日本や、それぞれの学校文化の中で、子どもたちが生きる教育を創造、実践することに喜びを感じる。また、先生がチームで働く環境作りにも力を入れている。現在は初めて中学を担当し、教育の可能性を実感しながら挑戦中。

荒石 将司
大阪市立敷津小学校教員。元警察官。交番勤務をはじめ、他県出向や新任警察官の育成、企画調査等多岐にわたる職務経験のなかで、教育の重要性を痛感し、転職。『第3の教育』に感銘を受け、探究ナビゲータ講座を受講。現職では、学級担任、生活指導部長、研究主任、学年主任を経験。今年度も5年担任、研究主任として、すべての子どもが学び合う授業、同僚性でつながる教師集団、地域・保護者と共に学び合う学校を目指して研究活動に取り組む。今春からは新たな立場で、すべての子どもの学びを保障する学校づくりに挑む。

池谷陽平先生と荒石将司先生は、メンターとして探究クリエイタープログラム2期にも参加します。
5月11日(水)、5月24日(火)の20時から21時には、探究クリエイタープログラム2期の説明会を開催します。今回のトークイベントで興味を持ってくださった方はぜひご参加ください。

▼説明会申し込みフォーム

今回のイベントでコラボした『先生の学校』は「きょういく」を探究し、創造するコミュニティです。先生の学校メンバーは、月額495円で過去イベントの動画アーカイブを視聴できたり雑誌「HOPE」が年3回送付されたりと、多くの特典があります。ぜひサイトをご覧ください。



\探究ナビ講座のサイトがオープンしました!/


探究コネクトは、「ほんものの探究学習を日本中の子どもたちに届ける」ことを目指して活動しています。メンバー会費は、現場へのサポートや記事制作・イベント等の活動にあてさせていただきます。ほんものの探究学習を日本中の子どもたちに届ける仲間になっていただけませんか。


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