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「本当に今の学校に通い続けるのがいいの?多様な学びの実践者に聞いてみよう!」イベントレポート

令和元年に約25万人だった長期欠席の小中学生は、令和4年には46万人を超え、3年で大幅に増加。保護者もリモートワークが可能になったりする中で、「本当にリアルで週5同じ場所に通わなきゃいけないの?」「ずっと都心で暮らしてきたけど、ここでの学びが本当に子どもに合っているのかな?」など、考え直した人も多かったのではないでしょうか。

今回探究メディア「Q」では、人口8200人の秋田・五城目町に教育移住した高橋今日子さん、湘南ホクレア学園理事長の小針一浩さん、東京都フリースクール等ネットワーク(TFN)事務局長の永易江麻さんをゲストに招き、多様な学びのスタイルを聞いてみる会を開きました。

子どもにあった環境を求めて、教育に力を入れた秋田県五城目町へ移住

イベントは、東京大学大学院新領域創成科学研究科に所属し、リモートワークでポストドクター研究員を務める高橋今日子さんのお話から始まりました。

高橋:元々は千葉県の船橋市で児童数1200人の大規模校に通っていました。ただ、小学校に通う長男が自律神経の乱れから朝起きられなかったり、お腹や頭が痛いと訴える日が増え、学校に足が向かない日が多くなりました。しばらく遅刻したり、給食のみの登校をしていたのですが、同じクラスの子たちが長男の状況を理解できず、小学校での居場所がなくなっていきました。

小学5年生のときには学校にほとんど行かず、家で過ごすことが多くなりました。オンラインのホームスクーリング教材なども試したのですが、その学年の学習内容を把握するためには良いものの、得意なものをとことん学びたい!という長男の意欲を伸ばすことはできなかった。

そんな時、五城目町で教育留学が始まったことを知りました。秋田は私が育った地域の一つだったこともあり、参加することにしたんです。豊かな自然と穏やかな人たちに囲まれた教育留学で、そこで生活する日々に長男が強く惹かれ、最終的に教育留学が終わって1ヶ月半経った後、五城目町に移住することに決めました。

五城目町立五城目小学校は、町の小学校が一つに統合される際、地域の人たちが全10回のワークショップを通して、どう地域の学びを見直していくかを議論した上でつくられた場所です。「越える学校」を小学校のテーマとし、教育留学もまちの境界を越えていくことから始まった取り組みです。

町の外から来た子どもたちにとっては、教育留学は五城目町のひと・もの・ことに触れる体験ができます。また、町の子どもたちにとってもメリットがあって、町の外にある考え方や価値観を学べます。他にも、小学校と地域の連携も緊密で、地域の大人も子どもと同じ空間で学ぶ「みんなの学校」という取組みもありますし、子どもたちがまちに出て学びを展開する授業も沢山あります。

中心部に町の主要な機能が集結し、周辺部にいくと豊かな自然を活用して農業や林業などの産業がひろがる町ですが、町民全体に教育はひろく「ひとづくり」「まちづくり」につながっているという理解があると感じています。子どもだけが教育を受けるのではなく、大人も学び続けられる環境づくりが進められていて、地域の人材や産業育成の土台になっているなと感じます。

入学式のスピーチはAI、積極的に活用する姿勢を見せる

続いて、湘南ホクレア学園理事長の小針一浩さんより発表がありました。

小針:元々起業家として会社を経営していたのですが、2015年生まれの息子が先天性奇形障害を持って生まれ、3歳の時に急性リンパ性白血病を発症したので、主夫となって闘病する息子を支えてきました。息子が年長のとき、やっと闘病生活が落ち着いてきたので、小学校を選ぶことに。生きていく力を養える学校はないかと探したのですが理想の学校は見つからず、「じゃあ自分でつくろう」と湘南ホクレア学園を構想から5ヶ月で開校しました。

いまの子どもたちが働き盛りを迎える2050年は、地球温暖化と環境破壊が進み、AIやARへ労働が移行し、超高齢化社会と人口減少が進んでいます。また、この30年以内に大きな地震がいくつか来るのではないかと言われています。なので、湘南ホクレア学園のミッションは「どんな世界でもサバイブできる子を育てる」こと

湘南ホクレア学園には今23人の子どもたちが通っていて、AIなどのテクノロジーの活用も積極的に取り入れています。たとえば、湘南ホクレア学園の昨年の入学式では、理事長の僕のスピーチをAIに任せてみました。

ChatGPTに感動的なスピーチをつくってもらって、僕の声を録音しておいた音声生成AIに、できた原稿を英語で読んでもらう。入学式当日はスマホで音声を再生しながら、僕がその場で英語のスピーチをしているように演出しました。その後、日本語で種明かし。これをやった理由は、テクノロジーがここまで発展していることを保護者に伝えたかったからです。

他にも、湘南ホクレア学園ではChatGPTを使い、一人ひとりの興味に合わせた問題をつくってもらったりしています。今後は、VR技術を使って理科や社会を体験学習していけるようにしたいです。

都内70校以上のスクールが加盟し、学校外で学ぶための公的支援や制度を提案

続いて、東京都フリースクール等ネットワーク(TFN)事務局長で、NPO法人東京コミュニティスクール(TCS)法人事務局・理事の永易江麻さんより発表がありました。

永易:TCSは東京都中野区にある全日制マイクロスクールで、初等部と幼児部の約60名が在籍しています。2004年に開校し、私自身は2005年から学生インターンをはじめ、スクール事務局や常勤教員を経て現職につきました。TCSの法人事務局・理事のほかに、今は東京都フリースクール等ネットワーク(TFN)事務局長としても活動しています。

TFNでは、学校外で学ぶことへの公的支援と社会的認知向上を目指しています。360名を超える個人会員のほかに、都内70校以上のスクールがTFNに会員として加盟してくださっていて、日々いろんな情報交換を行っています。

設立当初にクラウドファンディングを実施し『学びを選ぶ時代〜子どもが個性を輝かせるために親ができること〜』を出版したり、昨年12月には、東京都内の学び場や不登校支援に関する情報を掲載するポータルサイトも開設したり、情報発信にも力を入れています。

認証基準を設けてフリースクール等を認証する「認証フリースクール制度」も提案しています。子どもたちや保護者の方には学校復帰を前提とせずに自分に合った教育を受けることができるなどのメリットがありますし、学校外の学び場にとっても公的支援が得られやすくなる、社会的な信頼性が向上するなどのメリットがあると考えています。

東京都では、2024年度よりフリースクール等の利用者を経済的に支援する事業が始まる予定です。学校外の学び場への経済的支援も予算化されているそうで、これからも東京都の動向をキャッチしていきたいです。

新しい選択肢は増えているけど、どれほど知られているだろうか?

それぞれの自己紹介の後は、炭谷がモデレーターに加わり、クロストークの時間に。

炭谷:最近は公立学校以外の選択肢がどんどん広がっています。私自身は1996年に神戸でラーンネット・グローバルスクールというオルタナティブスクールを開校しました。

当時はそういったスクールがあまりなく、「学校に行かないで別の場所に行くのは変だ」「親や子どもに問題があるのではないか」というネガティブなイメージが強かった。ただ、最近は不登校の子どもたちが増えてきたりして、学校以外の選択肢もひとつの教育だと認められるようになってきています。

特に風向きが変わったのが、2017年に施行された教育機会確保法です。校長の判断が必要なものの、フリースクールなどの学校以外の学びを、学校への出席として認めることができると決まった。

それまでは不登校の子どもたちを学校に戻すように促されることが多かったのですが、「別の場で安心して学べているのならその方がいい」と理解が得られるようになったんです。不登校が変なことではなく、誰にでも起こり得ることであると、社会の認識が変わってきたんですよね。

永易:法律によって多様な学びが支えられるようになってきたことが、ここ数年の大きな変化ですよね。ただ、中には公立学校ではない、多様な学び場を選ぶことに不安を覚える方もいるかもしれません。

まだまだ私の周りでも多様な学びの場の話になると「そんな場があるなんて知らなかった。公立の学校に行くか、私立の学校を受験するかだよね」と言われることが多いです。制度上で多様な学び場が認められつつある今、次に鍵になってくるのはその状況を保護者の方々にどう知ってもらうかですよね。

炭谷:ありがとうございます。高橋さんのお子さんが選ばれたのは、オルタナティブスクールではなく、公立の小学校なんですよね?

高橋:そうですね。私は公教育が不登校の子どもたちにどんな教育を施せるかという視点も大事だと思っています。先ほど紹介した五城目小学校では、ひとつのクラスの中でみんなが別々のことをやっている場面をよく見かけます。

例えば、学習進度が速い子はドリルを先取りしていたり、何か他の授業中でも例えば「今ピアニカの練習をしたい」という子たちがいればワークホールでグループをつくって取り組んでいたり、もちろん先生の提示する授業カリキュラムに沿って勉強している子がいたり。広くオープンな空間を上手に利用して自由度の高い教育が展開されていて、学校が楽しい!と思えるような、学校に子どもたちが自然と来たくなる仕組みがいくつもあります。公教育もやれることが沢山あるんだなということを学びましたね

また、本来オルタナティブスクールは「不登校だから」行く場所ではないはずです。たくさんのオルタナティブスクールができてくると学びの選択肢が増えて、子どもたち一人一人に合った教育をそれぞれが自分の意思で選べるようになる。そんな教育を提供できる社会になると良いなと思っています。

学校の枠を超え、地域の社会課題に直接取り組む

炭谷:最近、教育において社会課題や地域との関わりも重要になってきています。今は少子高齢化や環境問題など課題が山積みの社会で、もう誰かが問題を解決してくれる時代ではないな、と。

受験やテストで良い点を取るために教育があるのではなく、一人ひとりが課題を見つけて行動していくことが大事ですよね。みなさんが取り組まれている事例などがあれば、教えていただければと思います。

小針:湘南ホクレア学園では「どんな世界でもサバイブできる子を育てる」というミッションを掲げていて、子どもたちには起業スキルを身につけてほしいと思っています。放課後に子どもたちが起業体験をする部活があります。

部活で僕が子どもたちに出したミッションは、「環境を保護するための起業をしてください」ということ。資本金がゼロの状態から、子どもたちは海に行って流れてきたプラスチックやグラス、流木を拾ってきて、それらをアクセサリーにして売ろうというアイデアを生み出しました。子どもたち自身がCMやチラシをつくって、既に売り上げも出しているんですよね。

子どもたちは「収益を上げながら、自分たちが環境にできることをしよう」という意識でいます。「まだ小学生だから早すぎる」ではなく、子どもの頃から自然に起業スキルを育めたら良いんじゃないかと思っていますね

高橋:五城目町では地域の大切なものを守ろうという意識が強いなと感じています。たとえば、町内に350年以上続いていた温泉が閉業してしまいそうな時、地域のベンチャー企業の方と高校生が再生のための会社をつくり、クラウドファンディングも実施して温泉を再開させたんです。そして現在は地元の企業に経営が引き継がれ、遥か昔から続き人々を癒してきたお湯を、バトンを渡すように地域で守っています。

また、高校生のようなまだ「子ども」と思われる人が何かやりたいと言ったときに「じゃあやろう」と大人も一緒になって動いてくれる。こういった人の顔がありありとみえる人づくりの事例が五城目町には沢山あって、これがいろんな場所で起こると子どもだけでなく大人も「学ぶ」意味が変わってくる気がします。

永易:TCSでは探究型の学びを大切にしています。正解のないテーマに対して、みんなで話し合ったり調べたりしながら、自分たちにとっての妥当解を考えていきます。子どもたちが社会に出たときに、自分たちで社会課題を解決できるようになってほしいという思いで取り組んでいますね。

それと、地域との繋がりという文脈でお話しすると、マイクロスクールを立ち上げる際に大事なのは、地域にあるものをいかに活用していくかという視点。前は東高円寺に校舎があったのですが、近くに大きな公園もプールも図書館もあって。今の中野校舎でも学校の周りに豊富な社会資源があります。オルタナティブスクールは地域のものを活用しなければ成り立たない側面もあるので、行政の方々と連携できると良いなと思っています。

AIの時代こそ、ますます重要になるゆとりや志

炭谷:最後に、テクノロジーについて話していきたいと思います。去年チャットGPTが出てきて、すごく大きな衝撃を受けましたよね。AIは敷居の高いものではなくて、誰もが使える時代になりました。これからの子どもたちはAIやARが当たり前の世の中で育っていく。

いい社会をつくっていくためにテクノロジーをどう使いこなしていけるかが、問われてきます。小針さんはテクノロジーを使っていろんな取り組みをされていますが、何か感じられていることはありますか。

小針:これからテクノロジーがますます発展していくのは間違いないですよね。例えば、あらゆる言語を話せて、赤ちゃんとずっと遊べるロボットが世の中に出てくるような気がするんです。そうすると、学ばせたい言語のシャワーを子どもに浴びせることができて、大人になるまでに意識しなくともいろんな言語を学べるようになる。

そういう時代で人間に残っていくのは、AIやARにできないこと。つまり、人間らしいことですよね。知識を身につけるのではなく、自分にしかできないことをやっていこうというふうに世の中が変わっていくように思います。いろんなテクノロジーのうえに、人間がゆとりを持って生きることができる時代が来るのではないでしょうか。

炭谷:大人よりも子どもたちの方があっという間にテクノロジーの使い方を覚えていきますよね。そういったときに、大人はどういったことに気をつけて子どもと接していけば良いのでしょうか。

小針:精神的な部分、つまり志の教育がこれから絶対に必要になってくると思います。それは武士道かもしれないし、三方よしという商人の考え方かもしれない。日本人が今まで守ってきた精神的な部分を育てていく必要があるのではないでしょうか。精神が未熟な状態で知識を身につけたとしても、社会のために役立つことはできない。志があったうえに知識があると、それが社会のため世の中のためになっていく。志があったうえでテクノロジーを使いこなせることに重きをおく教育が必要になってくると思います。

炭谷:高橋さん、小針さん、永易さん、今日はありがとうございました!

(文:田中美奈

小針さん、永易さんについては、過去のインタビュー記事もぜひご覧ください。


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