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子どもたちのように、自分も変わりたかった。東京コミュニティスクールで、16年間教育に関わり続ける理由

探究型スクールが数えるほどしか日本に存在しなかった16年前、就活を目前に控えたインターンで開校1年ほどの全日制マイクロ・スクール「東京コミュニティスクール」と出会った永易江麻(ながやす・えま)さん。

漠然とした教育への関心は確固たるものに変わり、社会人になってから通信大学に入り直し教員免許を取得しながらも、東京コミュニティスクールに教員として就職。現在は出産・育児を経て法人事務局として働かれています。

永易さんはどんな経験を経て探究型の学び場に惹かれ、教員として、事務局として、役割を変えながらも16年間働き続けてきたのでしょうか。

「自分はこういう環境がつくりたいのだ」。探究型スクールの存在に衝撃を受けた大学時代

── 永易さんが教育に関わろうと思われたきっかけを教えてください。

実は、むしろ先生なんて絶対になるものかと思っていたんです。そんな私が教育に興味を持ったのは、大学生になってすぐに軽い気持ちで参加した、自閉症やダウン症などの障害を持つお子さんたちと週1回遊ぶサークルでの体験でした。

自分が何かできたわけでもなかったのですが、「子どもが笑ってくれたらこっちも嬉しいんだな」という実感だけは不思議と残って。ただ、そこからすぐに教育という分野への興味には結びつきませんでした。

大学3年生のときに教育関係のNPO法人に友人が関わりはじめ、私も少しだけ関わらせてもらう機会があって。自分の将来を考えたときに、「教育関係の場所で過ごした時間は楽しかったな」と意識するようになったんです。

就職活動が始まる時期だったので、教育分野でインターンシップをしようと探してみたら、今私が勤めている東京都中野の全日制マイクロスクール「東京コミュニティスクール(以下、TCS)」を創立した久保一之の会社で、外国人教師の紹介・派遣や学校教育のコンサルティングを専門とする株式会社グローバルパートナーズのインターンシップが見つかって。

私が通っていたのは東京女子大学という杉並区にある大学なのですが、当時グローバルパートナーズも杉並区にあって、「近くていいな」という単純な理由もありつつ、まず問い合わせてみることにしました。

── その時点ではTCSのことはご存知なかったのですね。

そうなんです。TCSを知ったのは面接の前日でした。代表取締役社長である久保の名前をネットで検索にかけたら、TCSのホームページが出てきて。

開いてみて「これだ!!」という衝撃が走って、それまでは漠然と教育に関わりたいと思っていたけれど、「自分がやりたかったことはこういう環境を作ることなのかもしれない」と思いました。

大学のパソコンルームで、何ページかホームページを印刷していこうくらいに思っていたのに、気がついたらとてつもなく分厚いコピー用紙の束ができてしまって。

面接当日、久保にTCSのことを話したら、久保もこの子は興味を持つだろうと思ってくれていたらしく「そうだろうと思った」と言われて(笑)。

そこから、TCSでもインターンさせてもらうことになりました。大学3年生の10月から、そうして関わり始めました。

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子どもたちのそばにいたいし、自分も変わりたい。インターンで教員免許取得を決心

── 卒業後はそのままTCSに就職されたのでしょうか。

そうですね。でも、それまでに紆余曲折あって。インターンといっても、ただその場にいて子どもと遊んだり、クラスで子どもたちが発言したことをとにかくメモするような日々で、自分にとってはとても有難い経験なのですが、その当時は自分が組織のために何かできているという感覚はまったくなかったんです。

そうこうしているうちに本格的な就職活動シーズンになり、TCSに密に関わることができたのは半年ほどでした。教育系企業に焦点を絞って就活を進めていて、当時教育事業を始めようとしていた大手飲食会社に内定をいただきました。

最初はそのままその会社に就職するつもりだったのですが、就活を終えたあと、内定先のインターンを続けるなかで、教員免許があればできることの可能性に興味が出てきて取得することにしました。それまで教員免許を取ろうと思ったことはなかったんですけどね。

内定をいただいていた会社では働きながら免許が取得できるような環境ではなかったので、悩んだのですが内定先の就職は一度諦め、教員免許の取得を優先することにしました。

そのことを久保に相談していたら、「うちの会社で働きながら教員免許取ったら?」と言ってもらい、まずはグローバルパートナーズに入社させていただくことになったんです。

同時に、TCSにも関わらせていただきました。と言っても、最初は経験もないですから、事務局や発信の補助的役割から関わり続けました。

その後社会人3年目に教員免許を取得して、そのタイミングでちょうどTCSがスタッフを募集することになり、常勤の教員スタッフとして働かせてもらえることになったんです。

── 教員免許はそのまま大学で取得されたのでしょうか。

通信制の大学に入学しました。TCSで子どもたちが日に日に目に見えて変わっていく姿に感動して、小学校の6年間の大きさを実感したので、小学校教員免許状を取得したかったんです。

教育実習もやったので、その間は会社を休ませてもらって。本当にわがままを聞いていただきました。

── TCSの教員には教員免許は必須ではないそうですが、なぜご関心を持たれたのですか?

「自分も変わりたい」という気持ちがそこにはあって。

子どもたちといさせてもらって、いろんなものを見させてもらって、自分も一緒に成長していきたいと思ったし、何より子どもたちがめちゃめちゃかっこよかったので、そんな彼らのそばにいたいと思ったんです。

また、私は大学受験の時期に父親や自分を支えてくれた叔母を亡くしていて、それから「自分は何のために生きているんだろう」ということがいつも頭にありました。人と人が交わることで人が変わっていく、教育という場所に特に惹かれたのだと思います。

教育について学び、日本の教師の資格を取るためにどんな勉強が必要なのか知りたいと思いましたし、自分が免許を持つことで何ができるか試してみたい気持ちが強くありました。

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今の教育の現実を目の当たりにし、一条校ではなく全日制マイクロスクールを選択

── 教員免許取得後は、TCS以外で働くことも視野に入れていたのでしょうか。

教員免許取得見込みがたったとき、いろいろ可能性を考えてみようと思いました。一度外に出て働いてみるという意味でも公立・私立問わず一般の学校への就職も検討しました。

でも、そのタイミングで新しくTCSの教員を募集するというお話があり、「チャレンジしたい」と希望してTCSに飛び込みました(笑)。

── 教員免許を取得する過程で感じられたことが、TCSの教員になることの後押しになりましたか?

正直、そうです。私が持っているのは小学校教諭二種免許状なのですが、スクーリングでは「総合演習」という総合的な学習の時間をグループワークで計画する時間があって、そこでの出来事に疑問に思うことがあって。

先生方も素敵で、そこにいるメンバーも楽しい人たちだったのですが、例えばフィールドワークは1回しかしないといった前提があったり、TCSの感覚だとおそらくそうはならない決まりごとのようなものが何となくあって、多分私はあの場で浮いていたような気がします。

これが今の教育の現実なのかもしれないとその授業で実感したことが、TCSを選択することにつながりました。

ただ、教育実習で1ヶ月ほど公立校の中で働いて、多様なタイプの先生がいるのだということを見ることができましたし、特別支援がさらに重要になっていくことも実感できました。教員免許を取得したことは、様々なことが実感できたいい機会だったと思っています。

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出産後も子どもを抱っこしながら働ける環境で、働く

── TCSでは教員としては何年間働かれていたのでしょうか。

3年間です。クラス担任もしましたし、テーマ学習や日本語、アートクラスを主に担当していました。

私が教員になった2010年からの3年間は、東日本大震災があったり、カリキュラムの見直しも年々行っていて、久保や当時の校長市川力が語る学びに対する考え、人が学ぶということについて、できるだけ吸収して、自分のものにして、日々の学びに落としていくことに必死に取り組んでいました。

既にあったカリキュラムを参考にしながら、自分で授業プランニングにも挑戦しました。

この3年間は、今でも続いているサマーキャンプの取り組みなど、いろんな原体験にあたる取り組みを新しく始めた時期でもありました。私はそれまで、アウトドア経験はほぼなかったのですが、企画・運営も担当しながら子どもたちと一緒に富士山に登ったりもしました。

3年間の常勤が終わったあとは、非常勤としてアートクラスを担当しながらグローバルパートナーズで働き、一時期はスクール事務局のスタッフを務め、自身の出産を機にアートクラスも後任のスタッフに引き継ぎました。

── スクール事務局で働き始めたきっかけはご自身の子育てとの兼ね合いだったのでしょうか。

いえ。出産する数年前に、パートタイムの事務局スタッフが退職することになり、スタッフ募集について久保と相談している時に、これを事務局業務を見直す機会になればという話から、私がスクール事務局として関わることになりました。

── では出産後しばらくは、どのように働かれていたのでしょうか。

私自身の希望で、出産5ヶ月後ぐらいから事務局業務を少しずつ復帰していきました。時々子どもと一緒にスクールへ行き、抱っこしながら会議やパソコン業務をしたりしていましたよ。

子どもが動くようになってからは大変な部分もありましたが、私としては自分の子どもと一緒にいながら社会と関われるありがたい時間でした。

まさに、東京コミュニティスクールという名前にもある通り、赤ちゃんからお年寄りまでいろんな人が交わる中で、大人も子どもも学び育つコミュニティだなと思います。

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かっこいい子どもたちや本気の大人に勇気をもらって、関わり続けた16年間

── では改めて、事務局としてのお仕事内容を教えてください。

TCSにはスクール事務局と法人事務局の役職があって、私は現在、法人事務局として働いています。

スクール事務局では子どもの出欠席や学費、教材や物品・施設等の管理業務はもちろんですが、子どもの状況やスクールの方針を踏まえた上で保護者とやりとりしたり、イベントの企画運営に係る手配や交渉もします。スクール運営・子どもの学びのためのサポート業務は幅広く、入学希望やスクールに興味を持つ一般の方々の対応も行います。

一方で法人事務局では、NPO法人として毎年度自治体に提出すべき事業報告書の作成など、組織運営に必要な業務を担当しています。

たとえば、NPO総会開催のための資料の準備や、新公益連盟というNPO法人や社会的企業のアクションチームの加盟団体として必要な業務、助成金の申請も担当分野です。

そのほかプロボノやインターンシップの受け入れなど、保護者や子どもたち以外の方たちとの関わりも担当しています。

── 事務局として子どもたちと接されている今、どのようなことを子どもたちに感じていますか?

クラスも担当していませんから、教員当時と比較してしまうと関わりがほとんどなくて、寂しいなと感じています。

でも、TCSで子どもたちの成長をずっと見守っていると、たとえば友だちとの言い合いとかを含めていろんな出来事を体験して、卒業するころにはTCSの教育理念をまるで体現するように子どもたちが変わっていく過程に本当に感動します。

また、子どもたちとは卒業後も同窓会で会えたり、TCSに手伝いにきてくれたりして、一緒に活動できることも面白いです。

卒業生とは、高校生や大学生ぐらいになって当時を一緒に振り返ったりすることもあって。当時のことをよく覚えてくれてたり、「(TCSは)自分のことをよく見てくれていたよね」と言われたりすることもあって、子どもってすごいなって思います。

── 教員としても事務局としても、TCSでのお仕事はどのような経験に支えられていると感じていますか? 

久保、前校長市川はじめ、スタッフみんなから、子どもを信じるということはこんなに力強いことなのかと学ばせてもらいました。そうした大人たちの姿を間近でみて勇気をもらえていることが大きいですね。

子どもと向き合うことに一生懸命すぎる、伝えたい想いと熱さがある人たちがそばにいることで、「自分も負けてられないぞ」と思うことができました。

あとは、子育てしていても思うのですが、子どもが今どういう認識でいるのか、何を感じているのかということそのものにとても興味があるんです。それがこうして働いている理由に一番つながっていると思います。

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多様な人に教育現場に関わってほしい。必要なのは、いろんなことや自分の変化をおもしろがれるかどうか

── 最後に、こんな方に探究型スクールの事務局が向いているなどありましたら教えてください。

今のTCSスタッフには本当いろんな趣味、キャラクター、年齢の方たちが集まっていて、それはとても素晴らしいことだと思っています。

多様な方に教育現場に携わっていただきたいですし、あるとすれば、自分も変わりたいと思えるかどうか、いろんなことをおもしろがれるかどうかなのではないでしょうか。

もちろん事務的なお仕事の得意不得意が判断基準になってくることもあるかもしれませんが、学びに興味を持つという前提は教員も事務局も一緒だと思います。

最近は外でTCSのことを紹介する機会も増えてきて、そのときには子どもが今どういう状況にいるのか議事録を読んでちゃんと吸収しておいたり、自分自身が教員時代に学んだ視点があってこそ話ができます。

事務局といっても、同じ学び場を共有する人間で、役割が教員とは違うだけ。現場への理解や興味は必要になってくると思いますよ。

── ありがとうございました!



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