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「パレスチナは国家である」 YES? NO?

突然ですが、問題です。

「パレスチナは国家である。」YES? NO?

この問題に即答できる方は、国際政治のプロと言って良いでしょう。非常に難しい問題です。今回は国際法の側面から見た「パレスチナ問題」について投稿します。

パレスチナは国家か?

パレスチナは「国家である」と言えるのでしょうか。以前、「独立国家を創るための5つの要素と4つの能力」を投稿しました。

国際法上、「国家」の要件は1993年に署名されたモンテヴィデオ議定書(国家の権利および義務に関する条約)で示されています。条約では「領土、住民、政府、他国との関係を持つ能力」の4つを国家の要件としています。

パレスチナは4要件を満たしているか?

パレスチナは「領土、住民、実効的な政府、他国との関係を持つ能力」の4要件を揃えているのでしょうか。順番に検討します。

・領土
パレスチナに領土はありますが、変動しています。しかし国際法上、領土の国境が確定している必要はありません。少なくとも「領土」が存在していれば、国家の要件を満たします。(例えば、「サイバー国家」は領土を持たないので、国際法上の「国家」として認められません。)

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・住民
パレスチナには西岸地区に約280万人、ガザ地区に約170万人、計約450万人が住んでいます。住民の人数に明確な規定はありません。例えば、ツバルは人口が約1.1万人しかいませんが、国家として認められています。パレスチナは十分に要件を満たしています。

・政府
1994年のパレスチナ解放機構(PLO)とイスラエルとの間の「オスロ合意(暫定自治政府原則の宣言)」によって「パレスチナ自治政府」が設立されています。

・他国との関係を持つ能力
パレスチナは国際社会で着々と「国家化」を進めています。2011年にパレスチナは国家として認められていない組織として史上初めて、国連の主要機関であるユネスコに「加盟国」として参加しました。さらに、2012年11月29日には国連総会においてパレスチナを「オブザーバー組織」から「オブザーバー国家」に格上げする決議案が賛成多数で承認されました。つまり、パレスチナは国連で「国家」の扱いを受けています。2019年5月の時点で、国際連合加盟国(193ヶ国)中、137ヶ国がパレスチナを国家承認しています。「他国との関係を持つ能力」は満たしていると考えて良いでしょう。

上記のように、パレスチナはモンテヴィデオ議定書が定める4つの国家要件を満たしています。それでは、なぜパレスチナについて議論があるのでしょうか。

「パレスチナは国家である」と言えるか

4つの国家要件を満たしているパレスチナを国家と言って良いのでしょうか。そもそも国際法上の国家には二つの考え方があります。

1. 創設的効果説(Constitutive theory of statehood)
創設的効果説は、「国家は、他国家から承認を受けることにより、初めて国際法上の主体として存在することになる」とします。したがって、「国家」として認められるためには他国からの国家承認が必要です。日本はパレスチナを国家承認していません。つまり、4つの要件を満たしていても、あくまでパレスチナは国家ではありません。日本から見るとパレスチナは「未承認国家(又は非承認国家)」です。したがって、最初の問題に対する答えは「創設的効果説にしたがい、日本の立場ではパレスチナは国家ではない」が正解です。

2. 宣言的効果説(Declarative theory of statehood)
宣言的効果説は、「国家は、事実上、国家としての要件を満たした段階で、国際法上の主体として存在する」とします。パレスチナは4要件を満たしています。宣言的効果説では他国からの国家承認も必要ありません。つまり、最初の問題に対する答えは「宣言的効果説にしたがえばパレスチナは国家である」が正解です。

国際法学者は宣言的効果説を取る場合が多いのですが、実際には創設的効果説を下に議論されるのが現状です。現実問題として、国際社会という「社会」の中で、他国からの承認を受けていない国家は「国家」として成り立たないからです。

創設的効果説の問題点

しかし、創設的効果説には問題があります。国家承認は国家4要件が判断に基準ではありません。では、判断基準は何か。ほとんどは政治問題が判断材料です。したがって、創造的効果説の国家承認は非常に主観的です。

さらに、創造的効果説には何カ国から国家承認を得れば「国家」なのか線引きがありません。例えば、1967年にナイジェリアで「ビアフラ共和国」という国が独立を宣言しました。しかし、ビアフラ共和国を承認した国はたった4カ国でした。承認した国が4カ国だけでは、国際社会では国家とは言えません。このビアフラ共和国は独立から3年後にナイジェリアに戻りました。一方、パレスチナは130カ国以上に承認されています。十分に国家であると言えそうです。しかし、イスラエルやアメリカは承認していません。

つまり、創設的効果説は国際法上の「国家」について明確な答えを出していません。したがって、現在の国際法は宣言的効果説を選ぶ場合も増えています。

日本の国家承認基準

では、日本はどのような基準で国家承認をしているのでしょうか。日本の基準は以下です。

国際法上、一般に、国家承認の要件については、ある主体が国家としての要件を充足していること、すなわち、一定の領域においてその領域に在る住民を統治するための実効的政治権力を確立していることが必要とされている。また、我が国としては、当該主体が国際法を遵守する意思と能力を有しているかについても考慮することとしている。

前半はモンテヴィデオ議定書に定められた国家要件を要求しています。しかし、後半は独自の基準として「国際法を遵守する意思と能力」の有無を挙げいます。

そもそも国家承認は必要か?

そもそも日本とパレスチナの間で、国家承認は必要なのでしょうか。実際、国家承認をしていない国家とも外交関係は成り立ちます。例えば、2012年5月3日から、日本政府はパレスチナ日本代表事務所長を「大使」という名称を用いて外交活動しています。また、国家承認をしていなくても、条約を締結することがあります。国際法上は条約を締結する主体は「国家」ですが、事実上の国家として取り扱うことで条約を締結することはできます。つまり、国家承認は無くても外交関係は成り立ちます。

しかし、パレスチナの国家承認は国際社会の大きな問題の一つです。パレスチナを含め未承認国家は国際法の真空地帯になっており、武力衝突が頻繁に起きています。なお、未承認国家については以下の本がオススメです。

国家承認と平和

先週、モロッコがイスラエルを国家承認しました。今年に入り、アラブ首長国連邦(UAE)、バーレーン、スーダン、モロッコといったアラブ国家が続々とイスラエルを国家承認しています。

国家承認が必ずしも平和や安定に繋がるわけではありません。国家承認により逆に地域情勢が不安定化する場合もあります。イスラエルとパレスチナの問題については、下記の動画がオススメです。英語ですが、イスラエル人とパレスチナ人が率直に議論を交わしています。

今回の投稿がパレスチナ問題を考えるキッカケになれば幸いです。

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