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疼痛感受性とその個人差について

久しぶりのnote投稿となりました。
疼痛シリーズのnoteは9記事目、トータル10記事目となりました!

いつも反応をくださる皆様ありがとうございます^^

さて、今回のnoteでは「疼痛感受性の個人差」について僕が勉強したことをまとめていこうと思います。

"痛みは人それぞれ感じ方が違う"ということは誰もが想像に易いことではないかと思いますが、ではその"感じ方の違い"について今現在でわかってきていることはあるのでしょうか?そして、その様な現象に対して理学療法士として評価できることはあるのでしょうか?そんなふとした疑問から今回のテーマを勉強していました。

疼痛感受性の個人差から、脳で生じているメカニズムへの定量的な評価方法とその意義までを勉強しまとめていければと思います。

このテーマに関してキーワードになってくるのは
「ドーパミン」「COMT」「定量的評価」です

脳の話がほとんどになります。(^ ^;)

しかし、このメカニズムを理解する、あるいは知っている、そしてその評価方法の意義や根拠に基づいて考えることは痛みを訴える患者さんへのリハビリテーションを展開する上でとても重要なものであると考えています。

ですので、興味を持った方はぜひ最後までお読みいただけると幸いです!

*本記事では誤解釈・拡大解釈を含む可能性がありますので情報の取り扱いにはご注意ください。

*本記事は最後まで無料でお読みいただけます。

それでは早速本文です!

疼痛調節システムの復習


疼痛感受性についてまとめる前にまずは、疼痛の調節システムについて復習していきたいと思います。

Apkarian AV, Bushnell MC, Treede RD, Zubieta JK. Human brain mechanisms of pain perception and regulation in health and disease. Eur J Pain. 2005 Aug;9(4):463-84. doi: 10.1016/j.ejpain.2004.11.001. Epub 2005 Jan 21. PMID: 15979027.より引用

末梢の侵害受容器(Nociceptor)において生じたインパルスは一次求心性ニューロンを伝導し脊髄の後角へ

脊髄の後角(Dorsal Horn)で二次ニューロンにシナプスし、脊髄視床路を上行して視床(thalamus)へ

視床で三次ニューロンにシナプスし、視床皮質路を上行して大脳皮質一次体性感覚野(Primary Somatosensory Cortex:S1)へ

最もテキストで学習する痛覚の伝達システムは上記のようなものであると思います。しかし、上記の図のように、侵害受容器からのインパルスは先述した経路以外にも様々な領域へ投射されており、ヒトの痛みの形成に関わっています。

上行してきた痛覚情報に対してそれを検知し、適切な処置を行うために神経系には痛みを調節するシステムが備わっています。

代表的な疼痛調節システムとして
中脳辺縁ドパミン系と下降性疼痛調節系があります。

それぞれのシステムの概要と繋がりを復習します。

①中脳辺縁ドパミン系

中脳辺縁ドパミン系はMesolimbic Dopamine Systemと呼ばれ、ドーパミン投射により「報酬回路」「快の情動系」「痛みの制御」に関わるシステムです。

主な関連領域には

・中脳の腹側被蓋野(Ventral tegmental area:VTA)
・腹側線条体の側坐核(Nucleus Accumbens:NAc)
・腹側淡蒼球(Ventral pallidum:VP)
・嗅結節(Olfactory tubercle)
・扁桃体(Amygdala:Amy)
・海馬(Hippocampus:HP)
・前帯状皮質(Anterior Cingulate Cortex:ACC)
・前頭皮質(Prefrontal Cortec:PFC)

参考:半場道子 慢性痛のサイエンス 脳からみた痛みの機序と治療戦略 医学書院 P.38 39

などが挙げられます。

痛み刺激のインパルスが中脳の腹側被蓋野(VTA)に投射されると、活動電位の群発射が起こり、腹側線条体(Ventral striatum)の側坐核(NAc)に向けてドパミンが放出されます。

そして、側坐核(NAc)がドパミン投射により興奮すると、μ-オピオイド受容体と呼ばれる受容体を介した神経伝達が起きて、下行性疼痛調節系が活性化されます。

この侵害情報の入力から疼痛調節システムの駆動までの一連のシステムがMesolimbic Dopamine Systemになります。

簡略図

ドパミンが大きく関わるのでドパミンの"産生"に影響する病態や、ドパミンの"受容体の増減"に影響する病態などが存在すればこのシステムにも大きな影響が加わる可能性が考えられます。

以上が中脳辺縁ドパミン系の簡単な復習になります。
次は下行性疼痛調節系の復習に入りましょう。

②下行性疼痛調節系

下行性疼痛調節系とは、中脳中心灰白質(PeriAqueductal Gray:PAG、中脳水道周囲灰白質とも呼ばれる)から端を発して、背外側橋中脳被蓋(Dorsolateral pont-mesencephalic tegmentum:DLPT)と吻側延髄腹内側部(Rostroventromedial medulla:RVM)のノルアドレナリン作動性ニューロンとセロトニン作動性ニューロンのそれぞれに興奮性に投射し、両者が脊髄後角のアドレナリン受容体・セロトニン受容体に結合することで同部において侵害情報の二次ニューロンへの伝達を抑制性に調節するシステムを言います。

背外側橋中脳被蓋(DLPT)を構成する青斑核(Locus Coeruleus:LC))はノルアドレナリン作動性ニューロンを含むことから脊髄後角においてはアドレナリンα受容体と結合することにより侵害信号を調節します。

吻側延髄腹内側部(RVM)を構成する大縫線核(Nucleus Raphe Magnus:NRM))はセロトニン作動性ニューロンを含むことから脊髄後角においては5-HT受容体と結合することにより侵害信号を調節します。

なお、下行性疼痛調節系については過去のnoteでもノルアドレナリン系とセロトニン系に分けて記事を挙げていますのでそちらもお読みいただければと思います^^

③両システムのつながり

侵害情報によって鎮痛効果を発揮するため両システムは機能していますが、駆動させるキーとなるのはドパミン(Dopamine)です。

腹側被蓋野(VTA)から側坐核(NAc)へ、側坐核(NAc)から中脳水道周囲灰白質(PAG)へと投射されることで鎮痛効果を発揮します。

適度なドパミンの放出は鎮痛効果の他にも達成感・多幸感などを招く一方で、ドパミン放出の過剰は統合失調症のリスクとなり、ドパミン放出の減少はうつ症状を招きます。ドパミン欠乏ではパーキンソン病のリスクが高くなります。

ですので、神経細胞内外のドパミン量の調節はとても重要になります。

ドパミン産生や受容体の種類などは後述する痛みの感受性の個人差にも大きく関わるところになるのでここも復習して行きたいと思います。

ドパミンの産生・受容体などの復習


①ドパミン産生について

カンデル神経科学より作図

ドパミン産生経路に関しては上図に示しました。
とても難解な印象がありますね。。。

ドパミンが生成されるまでにはチロシンと呼ばれる物質がチリシンヒドロキシラーゼにより水酸化され、Lドパへ。(Lドパはパーキンソン病を学ぶ際に聞いたことがある方は多いと思います)

Lドパからは芳香族アミノ酸デカルボキシラーゼにより脱炭素化され、ドパミンと二酸化炭素が生成されます。

ドパミンが生成された後、ドパミン作動性ニューロン内では小胞体にてドパミンが充填され、活動電位の発生に伴って放出されます。

小胞体から放出されシナプス前ニューロンから細胞外へ放出されたドパミンはドパミントランスポーター(ドパミン輸送体)によってシナプス前ニューロンに再取り込みされますが、そこで再取り込みしきれなかったドパミンなどはCOMT(カテコール-O-メチル基転移酵素)やモノアミン酸化酵素によって濃度を制御されます。

先ほど、神経細胞外のドパミン濃度の増加・減少は統合失調症やうつ病などの疾患にとても重要だと記載しました。

ドパミントランスポーターが行うドパミン再取り込みによる神経細胞外のドパミン濃度の調節や、COMTやモノアミン酸化酵素による神経細胞外のドパミン濃度の調節はこういったところで重要な因子になります。

ドパミンはβエンドルフィンなどの内因性オピオイドの生成にも大きく関わるため、その濃度調節に障害をきたした場合、内因性オピオイドによる鎮痛メカニズムにも影響を与えることが考えられます。

そして、ここに出てきたCOMTという物質はその遺伝子異常により、疼痛感受性の増加をきたすことがわかってきているようです。

次項ではそのCOMTと痛みの感受性についてまとめていこうと思います。

痛みの感受性について


前項でドパミンの神経細胞外での濃度調節にCOMTという物質が大きく関与しており、この物質の遺伝子異常は疼痛感受性の増加を引き起こす可能性があることを記しました。

↑オープンアクセスではありませんがこちらでもCOMTと疼痛感受性に関する内容が記載されています。

次項ではそのCOMTの遺伝子異常について遺伝子の基礎を踏まえながらまとめて行きたいと思います。とても細かい話になると思いますので、苦手意識の強い方は飛ばしてください(笑)

①遺伝子配列の基礎

まずは遺伝子の基礎について復習して行きたいと思います。

遺伝子とは、DNA(デオキシリボ核酸)のうち、細胞の種類に応じて機能する特定のタンパクの設計情報が記録された領域のことです。染色体は、細胞の中にあって複数の遺伝子が記録されている構造体です。(MSDマニュアルより)

遺伝子は染色体の中にあり、染色体は細胞の核のなかにあります。1本の染色体には数百〜数千の遺伝子が含まれており、人体ではおよそ20,000〜25,000個の遺伝子が存在すると言われています。

遺伝子により決定される特徴のことを"形質"といい、形質には遺伝して受け継がれた異常遺伝子や、新たな変異により生じた異常遺伝子に由来するものがあります。

遺伝子型(あるいはゲノム)とは、個々人で異なる遺伝子の組合せないし遺伝子構成のことをいいます。つまり、遺伝子型とは、各人の体がどのようにタンパク質を合成するか、その結果、体がどのように組み立てられ、どう機能するのかという本来のつくりを示した1組の完全な設計図と言えます。

ヒトの間では99.9%同じ塩基配列であり、個人差は約 0.1%であると言われています。その違いは、遺伝子のある塩基の置換・欠損・別の遺伝子の挿入などの違いによるものであり、このような遺伝子の違いのうち、特に集団中に1%以上の頻度のものは遺伝子多型と呼ばれています。一塩基だけ異なるものを一塩基多型(SNP: single nucleotide polymorphism) と呼び、2〜4塩基の短い配列が繰り返される遺伝子多型をSTR(short tandem repeat)またはマイクロサテライト多型、さらにもっと長い配列が繰り返される遺伝子多型のことをVNTR(variable number of tandem repeat)またはミニサテライト多型と呼びます。これらの遺伝子多型のうち最も多いのはSNP(一塩基多型)であり、300万〜600万塩基対の個人差があると言われています。

森山 彩子ほか 痛みや鎮痛における個人差の遺伝的要因 日本緩和医療薬学雑誌
Jpn.J.Pharm.Palliat.Care Sci) 2:99_110(2009)より

では、COMTとはどういった遺伝子多型なのでしょうか?

②COMT

COMTは略さずにいうと、カテコール-O-メチル基転移酵素と呼ばれます。

カテコール系化合物を不活性化する酵素でありカテコールアミンの代謝、特にドパミン系の代謝経路においてきわめて重要な役割を果たしていると言われています。

このCOMTは、ラットにおいてはCOMTの阻害により疼痛感受性が増加すると言われています。ヒトのCOMT遺伝子における翻訳領域のrs4680G(rs4680の塩基がGからAに置換している)多型はコードするアミノ酸をバリンからメチオニンへと変化させ、これにより酵素活性が1/3〜1/4に低下することが知られています。

つまり、COMT活性が強ければドーパミンが代謝され、エンドルフィンが放出されるので、痛みの感受性が下がることが考えられます。

森山 彩子ほか 痛みや鎮痛における個人差の遺伝的要因 日本緩和医療薬学雑誌Jpn.J.Pharm.Palliat.Care Sci) 2:99_110(2009)より

このようにCOMTの遺伝子多型の存在によって痛みの感受性に個人差が生じる可能性が示唆されました。

では、このようなものに対してリハビリテーション評価として痛みの感受性を精査し、介入に結びつける方法はあるのでしょうか?

次項からはその可能性についてまとめて行きたいと思います。

痛みの定量的評価


定量的に痛みの評価する検査はQuantitative Sensory Testing(QST)と呼ばれ、感覚神経の機能を定量的に評価できる検査として痛み分野において痛みを調節する機能やその変調を評価する手段として知られています。

ここでは痛みの定量的評価についてまとめ、痛みの感受性といった、定量化が困難な印象のあるものに対する定量化への可能性を含めてまとめて行きたいと思います。

まずは痛みの定量的評価として3つの項目をまとめて行きたいと思います。

1つは圧痛閾値(Pressure Pain Threshold:PPT)
次に条件刺激性疼痛調節(Conditioning Pain Modulation:CPM)
最後に時間的荷重(Temporal summation of pain:TS)です

それぞれまとめて行きます。

①痛みの定量的評価(QST)とは

痛みの定量的評価において検出されるのは、疼痛による過敏状態(Pain hypersensitivity)であり、痛みに関わる感覚神経の機能的変化として捉えられています。

QSTには大きく2つのタイプがあり、1つはstatic QSTと呼ばれ、標準化された刺激に対する反応性を評価する検査です。痛覚以前の感覚刺激から痛み(痛覚刺激)に変わる瞬間の閾値(圧痛閾値)を調べる方法が一般的です。

もう一つはDynamic QSTと呼ばれ、中枢性疼痛調節系の機能変化を反映する評価です。これには時間的荷重(Temporal summation of pain:TS)と条件刺激性疼痛調節(Conditioned pain modulation:CPM)などがあります。

②圧痛閾値(PPT)

圧痛閾値(PPT)はミニアルゴメーターと呼ばれる機器を用いて、痛覚に満たない感覚刺激から刺激をスタートし、徐々に刺激を強めていき、それが痛覚として感じられたところを圧痛閾値として評価します。 

圧痛閾値に関する臨床研究として、慢性頚部痛患者に対する徒手療法/運動療法/対照群で治療期間別に圧痛閾値・視覚的痛み強度(Visual Analogue Scale:VAS)・頸部機能障害尺度(Neck Disability Scale:NDI)の効果を比較した研究があります。

この研究によると、徒手療法・運動療法・対照群を介入1週・4週・12週と計測すると、徒手療法群と運動療法群では12週目においてVASとPPTは対照群と比較して有意に改善を示したと報告しています。

本研究の結論では運動療法群は徒手療法群に比べ早期に頸部の障害を改善し、徒手療法群は運動療法群に比べ早期に痛み知覚を減少させるとしています。

北見公一 脳神経外科外来での痛みのとらえ方 脳外誌 17巻3号 2008年3月
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jcns/17/3/17_KJ00004872865/_pdf

上記の論文ではドパミンD2受容体数が減少している人は侵害刺激に対して強く反応すると報告されています。

ドパミンD2受容体は線条体から大脳基底核出力核である淡蒼球内節・黒質網様部へ投射される基底核ループの中で、間接路において多く発現していると言われています。

間接路におけるドパミン受容体の減少によって腹側淡蒼球や腹側線条体が関与する辺縁系ループなどの機能低下をもたらす結果、行動選択や意思決定・対処行動などにも影響する可能性を示唆する内容の文献もありますがまだまだ個人的には難解な部分ですので今回は割愛したいと思います(^ ^;)

間接路から視床への投射は直接路と比較して、より抑制性に働き、視床から大脳皮質への興奮性投射の活性低下の方向へ働きます。

これらの詳細なメカニズムはまだまだ勉強不足で理解できていないところが多いですが、パーキンソン病や強迫性障害(OCD)の神経回路と痛みの感受性の関係性の中で重要になってくるのではないかと考えています。

そして、侵害刺激に対して強い反応を示すということは、定量的評価として圧痛閾値が低い結果となった患者に対して、ドパミンD2受容体数の減少という病態を考慮する根拠になるのかもしれません。その辺は今後の自分の学習課題としたいと思います。

次項では下降性疼痛調節系の定量的評価の指標として検討されている条件刺激性疼痛調節(CPM)についてまとめて行きます。

③条件刺激性疼痛調節(CPM)

CPMはDNIC様の現象と説明されることがあります。

DNICとは広汎性侵害抑制調節(Diffuse Noxious Inhibitory Controls)のことで、離れた部位の侵害刺激(条件刺激)により、 下位脳幹を経由して脊髄後角・三叉神経脊髄路核尾側亜核V層の広作動域(wide dynamic range)ニューロ ンが抑制されることで痛みの伝達を抑制するメカニズム。

https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjop/13/1/13_117/_pdf/-char/jaより

とされています。

つまり、これまでにまとめてきた中脳辺縁ドパミン系から下行性疼痛調節系の内因性鎮痛メカニズムが適切に働いている状態であればCPMの数値が正常値を取りますが、これらの鎮痛メカニズムに機能不全が生じて適切に機能していない状態ではCPMの数値は正常値から逸脱する結果となることが考えられます。

CPMが下行性疼痛調節系の中でも大縫線核(RMg)は関与せず、延髄背側網様亜核(subnucleus reticularis dorsalis:SRD)を含む下位脳幹を経由するとし、DNIC/CPMは、RMgが関与するとされる内因性オピオイドペプチド系、セロトニン系、ノルアドレナリン系に代表される下行性疼痛抑制系とは異なるものと考えた

といった経緯も過去にはあった様ですが、現在はCPMは

1:DNIC/CPMは下行性疼痛抑制系が関与する
2:CPMは下行性疼痛抑制機能を評価できる
3:CPMは急性および遷延性術後痛発症リスクファクタースクリーニング検査とし て応用できる可能性がある

大野由夏 内因性疼痛調節機構の解明とその臨床応用の可能性 ―動物からヒトへ 急性および慢性疼痛コントロールを目指した トランスレーショナルリサーチの軌跡―

と結論づける報告などもあります。(上記引用論文)

具体的な測定方法として"慢性疼痛患者に対する簡便かつ多面的な疼痛感作評価法の開発HP"では(以下抜粋)

CPMでは、ミニアルゴメーターとペインクリップを使用します。ミニアルゴメーターを用いてPPTを測定しますが、刺激側とは反対の耳垂にペインクリップを挟んだ状態で測定します。挟んだ対側の耳垂の痛みの強さはVASで60mm以上になるように調節を行います。ペインプリックは数種類(挟む力が異なる)あるため、条件刺激の強さを調整できます。条件刺激がない時とある時のPPTの増加量または増加率をCPMとして記録します。

この様にミニアルゴメーターで圧痛閾値を測定している部位が、関係のない他部位の侵害刺激によって疼痛が調節される現象を評価しています。

なお、ヒトにおけるDNICに関する研究において、DNIC現象はDNICほかさまざまな呼称が用いられたことから、ヒトにおけるDNIC様現象をconditioned pain modulation(CPM)と呼ぶことが2010年Yarnitskyらにより提唱されました。以降臨床研究において「CPM」が一般的に使用されています。

最後は、TSについて記載して行きます。

④時間的荷重(TS)

時間的荷重(Temporal Summaion of pain:TS)は主に中枢性感作の状態を反映した評価であると言われています。

中枢性感作とは痛覚の上行性伝達において、脊髄後角ニューロンの興奮閾値の低下と入力に対する反応性の増大が生じている状態のことを指します。

これには、グルタミン酸受容体であるNMDA受容体やサブスタンスP受容体であるNK1受容体の活性化、ミクログリアの活性化による脳由来神経栄養因子(BDNF)の放出など様々なメカニズムが関与します。

そんな中でTSは、連続的な痛み刺激によって痛みが経時的に増悪する現象をみる評価です。

つまり、一次侵害受容ニューロンを介して侵害刺激が繰り返し脊髄に入力されることで、脊髄後角において二次侵害受容ニューロンである広域値作動性ニューロン(WDR)の興奮性が高まるワインドアップ現象を反映していると考えられています。

TSの測定方法としては、

TSでは、ピンプリックを使用します。ピンプリックは刺激部位に対して垂直に刺激を加え、刺激の速度は1回/秒の速さで一定に刺激します。ピンプリックを刺激部位に押し込むと、「カチッ」と落ちる音が鳴るようになっていますが、刺激を一定にするために「カチッ」と音が鳴る前に持ちあげます。測定は、1回目刺激後の痛みの強さ(VAS)と10回連続刺激した後の痛みの強さ(VAS)を聴取し、10回連続刺激後のVASと1回刺激後のVASの差(10回連続後のVAS-1回目刺激後のVAS)をTSとして記録します。

慢性疼痛患者に対する簡便かつ多面的な疼痛感作評価法の開発HPより

とされています。
この引用元のHPでは写真を用いてわかりやすく掲載されていますので、参考にしてみると良いと思います。

このように、長期的な痛み状態においては中枢性感作の助長や内因性鎮痛システムの機能不全などからドパミン代謝に関与する遺伝子異常まで様々な要因で個々人の疼痛感受性に影響を与える可能性がわかってきました。

そしてそれに対する定量的な評価についてもその可能性について開発・検討が続けられています。

まとめ


今回のnoteでは痛みの内因性鎮痛メカニズムの中でドパミンの産生・機能に関わる遺伝子の異常から疼痛の感受性の個人差に関わる内容をまとめてきました。

これらは目には見えない現象であり理学療法の中でそれを評価することは困難なことだと個人的には考えていましたが、メカニズムに基づいた定量的評価の開発・検討が進んできていることで、この様な脳内メカニズムに対して定量的に評価できる可能性が示唆されてきています。

疼痛の評価はこれまでVASやNRS・質問紙表などを用いた患者主観的な評価が主なものでしたが、この様な定量的評価が十分な根拠の元で実施できるとこれらを包含した評価の実施により患者様の疼痛管理・介入に大きな意義をもつのではないかと考えています。

このnoteが日頃リハビリテーションに従事するどなたかの参考になれば幸いです^^

最後までお読みいただきありがとうございました!

p.s.
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