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原稿

 3年前にパイロットのカスタム74という万年筆を買って以来、この万年筆を日々用いるようになり、日に日に愛着が深まってゆくのを感じています。
 今まではカートリッジインクを使っていましたが、今回、新作の『承認』という1万1593文字、原稿用紙34枚の短編小説の清書をするにあたって、はじめてコンバーターと瓶入りのインクを使いました。コンクールへ向けて清書したので、マナーとして修正テープは使えず、34枚の原稿を書くために、結果100枚弱の原稿用紙を使いました。

 このIT社会、ほとんどの小説のコンクールでは、当然データでの原稿も募集しています。
 そんな軽便な環境の中で、今回このような酔狂をする気になったのは、「万年筆で書く」という往年の文豪気分に書き上げて達成感を味わいたかったのもありますが、一度400字詰めの原稿用紙に書いてみて、果たして何枚になるのか確かめてみたかったということが第一義として挙げられるでしょう。
 結果として、一字一句、丁寧に直筆で起こしていくことで、パソコン上における推敲では決してなし得ない、とても質の高い推敲が出来ました。
 
 夏目漱石は「詩人とは自分の屍骸を、自分で解剖して、その病状を天下に発表する義務を有している」と論じています。ニーチェは「すべての書かれたもののなかで、わたしが愛するのは、血で書かれたものだけだ。血をもって書け。そうすればあなたは、血が精神だということを経験するだろう」と論じています。
 この作品は、私自身が身を以て経験した「SNS時代における承認欲求の功罪」を主題に書いたもので、漱石流に、ニーチェ流に言うならば、この原稿は文字通り「小林和真という屍骸」を解剖したものであり、「その血」を以て「病状」を天下に発表・報告せんとするものに他なりません。

 応募するコンクールは未定ですが、当面は引き続き1万字〜2万字を目標に短編小説を書いていきたく存じます。長編小説については、まずは短編小説の数をこなしてから取り掛かっていく所存です。

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