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田中英光(著)『さよなら』を読む。


私の残された人生の中でどれだけの文学者に出会うことができるだろうか……。知らない作家がまだたくさんいる。そしてまだ出会ったことがない作家は、何に悩み苦しみ、どのような生き方をし、なぜ死んでいったのか。

今のこの伝達スピードの速い時代に、ただ広く浅く広げるだけでなく、深く掘り下げ、まだ人々に知られていない作家に光を照らし、世に知ってもらうことがとても重要なことだ。

田中英光の名を知らなかった。林正彦の写真集『文士の時代』に太宰治と同じポーズで撮った写真が載っている。太宰治に見出され、熱狂的に師事していた。田中は太宰治の墓の前で睡眠薬を大量に飲み自殺したのだ。

私は田中秀光の小説を読んだことがなかったので調べてみると、幸いなことに「青空文庫」にあった。『さようなら』という短編を読んだ。強烈な内容だ。

太宰治の絶筆である『グッド・バイ』と同じような小説を書きたかったのだろう。短いしプリントしてすぐに読めるのでぜひ読んでいただきたい。太平洋戦争が二十歳位なので中国大陸での戦争の様子が生々しい。

田中が今まで出会って「さようなら」した人々のについて、そして自分の「さよなら」について書いてある。

最近私は宇野邦一の『ジュネの奇蹟』を読んだ。
その中でジャン・ジュネが日本を訪問した時に、「さよなら」の言葉の響きに大変感動したエピソードが書いてあった。みずみずしい母音の響きにびっくりしたのだ。田中は「さよなら」を良い言葉ではないと書いてある。フランス人のジェネは感動した。言葉から受け取るイメージが全く違う。

二人の人生も大きく異なる。田中は1913年生まれ、ジュネは1910年だから、3歳しか変わらない。


田中は戦争でヤケになり、上官の命令のまま、発砲を繰り返し銃剣で刺した。ジュネにはその経験は無い。どちらかというと逃げ回っていた。

田中は睡眠薬中毒になり、自殺した。ジェネは平和活動に従事した。その差はなんだろうと思う。究極的にはフランス人と日本人の差だろう。

私はこの差は「依存と自発」であると思う。農耕民族である日本人は上位者に逆らえない。狩猟民族であるヨーロッパ人は一人でも生きていく。

依存型である日本人の陥りやすい罠についてよくよく考えてみる必要がある。その悲劇について目を開いて見ておく必要がある。

この小説はそのことを私たちに教えてくれる。


青空文庫にあります。
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