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【全文無料公開】明治・大正や昭和初期の男の子は、戦争で勝って大将になるのがマジで夢だった。谷崎光のインサイド・アジア

(写真は『軍隊漫画 のらくろ』(キングレコード)パッケージより)


櫻井翔君が炎上した。

newszeroで櫻井翔が真珠湾攻撃に参加した元搭乗員にインタビューをした。(たぶん櫻井君が見つけてきたわけでなく局スタッフが探している。私は何もかもお膳立てされたテレビキャスターが『○○を取材しました』というたびに吹きそうになるが、まあ神輿に乗る人として意味はある)

元搭乗員「これから連合艦隊を全部やるんで、と言われ戦いに参加させてくれてうれしいな。うん、やっぱり魚雷を落としたかったから。自分のは当たってもらいたいからね(中略)。魚雷が当たったということで非常に安心しました」
櫻井「うれしい?」

ナレーション:
吉岡さんの放った魚雷でアメリカの軍艦ユタは沈没。真珠湾攻撃では、アメリカの戦艦など6隻が沈没、民間人も含む2400人が命を落としました。

「戦時中ということはもちろんなんですけど、アメリカ兵を殺してしまった、という感覚は当時は? 」

「私は『航空母艦と戦艦を沈めてこい』という命令を受けているんですね。人を殺してこい、ということは聞いていないです。従って命令通りの仕事をしたんだ。もちろん人が乗っていることはよくわかっています。しかしその環境というと、私も同じ条件です。ですけれどもそれとは切り離すと、戦争はしちゃいけないということを一番身をもってしっているのは私たちだと思っています」

(このあたりの全部の発言はこちら↑から)。

で、これの何がいけないの?
構成的に多少演出はしているが、当時の彼らの気持ちを知ることのできるいい質問である。答えもいい。
大事なのは当時のリアルを知ること。

と、私が思ったのは、子供の時に父親からある漫画をプレゼントされていたからかもしれない。

昭和初期でも男の子は戦争で勝って大将になるのがマジで夢だった


はい、それは『のらくろ』である。

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これは1931年(昭和6年、満州事変開始)から、大日本雄弁会講談社(現・講談社)の少年倶楽部に連載された田河水泡の漫画で、のらいぬの”のらくろ”が戦争に行ってどんどん出世していくという話である。

私は子供の時から本好きで、おとんはよくいっしょに書店に行って本を買ってくれた。
で、昭和9年生まれのおとん(生まれた時から戦時中)が子供の時の愛読書だったこれが、当時復刻版で出ていた。小学校5年生で自分の父親を戦争で亡くしているおとんだが、特に戦争反対の意見を聞いたこともなく、懐かしそうで大喜び。

で、小学生だった女児の私はすなおに読んだ。昔の少年が自分を投影して楽しむストーリーはどかーん、バキューン、やっつけろ、失敗と再挑戦、軍隊仲間との友情や競争で(舞台を変えれば少年ジャンプのポリシーに似てます)、のらくろ一等兵⇒のらくろ伍長とか出世して名前が代わる感じは、島耕作に似ている? 
当時は、戦争に行って勝つのはいいこと、出世の道。

あと同じく確か復刻版でおもろいぞと渡されたのが、やはり大日本雄弁会講談社の1933年の『冒険ダン吉』。

ダン吉

これは『南の島』のおろかな『土人』を日本人が治めて豊かにする、という話で、まあ子供なんで無批判に「ダン吉はえらい。土人はアホやな」と思いながら読んでいた。ダン吉のダンは弾のダンである。
当時、日本がどんどん南に植民地を広げていく戦争の状況に合わせて書かれていたわけだけど、日本だけでなく私が死ぬほど好きだった「世界一強い女の子 長靴下のピッピ」(スウェーデンのリンドグレーン作)も行方不明の白人の父親(船長)は実は南の島に流れ着いていて、土人から崇拝される酋長設定になっていた。

おとんの葬式でおじさんから取材したところによると、おとんは体格がよくガキ大将でケンカと戦争ごっこに強かった。勉強はできたがひ弱でいじめられていた弟のおじさんをいつも助けに来たとか。
どやって勝つの? と聞いたら、おとんの必殺技は、

奇襲戦法!

オー、リメンバーパールハーバー! 卑怯やん、と突っ込んだら、自分より強いものに勝つのはそれしかあれへんと。まあ小学生の喧嘩はそうかも。

おとんには小学生で予科練に入隊申し込みに行き、大きなっておいでと追い返された、というエピソードがある。

おとんのおとん、すなわち私の祖父は京大卒業後、友達たちとベンチャーで起業し成功していた。が、戦争末期に出征。フィリピンのレイテ島で戦死した。
彼は京大時代に志願して軍隊訓練を受けており、戦争中、民間出身なのに最初から将校だった(大卒で軍隊に一度籍があると待遇が違った。それも計算済みで大学時代に行ったそう)。
ばあちゃんは、一生将校の恩給をもらった。
当時、特攻隊など立派に死んでも階級が上がったから、出征は家族のためにもなったのである。逆に言うと逃げたり自殺すると、家族親族一族郎党が村八分状態に陥る。
ちなみに日本では空襲等の一般の死亡者には補償はないが、どちらも戦争被害者なのに問題にならない(第二次世界大戦後のヨーロッパでは民間の被害者に支給したところも多い)。



早稲田を出てドイツ商社に勤めていた母方の大叔父(独身)も中国で戦死しているが、この人も無念だっただろうな。
靖国の記録には河南省で死亡とあるが、まだ行っていない。

ニューズウィークの桜井翔氏の記事によると、彼の戦死した大叔父も東大在学中に、「学徒出陣が早くなった。どちらにしても徴兵されるなら」と、海軍主計官(物資調達担当ー当時は大権力者)に志願、訓練を受けて入隊した。が、戦局が変わり、危険地帯へ送られ戦死。
危険地帯赴任直前に一度家に帰っているが、母親は……。

そういう出征は免れえない中での損得とか、ご近所さんへの建前とか、自分たちが受ける視線とか、さまざまなものが交差していたのが戦前である。

(読んだ印象ですがこの人、育ちからしてふつうに体制側(表現が古いな)の人で炎上ネット民が思うようなタイプではないで)

私たちが知らなければいけないのは各方面のリアルな事実。

他国のほうが戦争でひどいことをやったのにー。
そうだよー。やったよー。
中国は今ウイグルでひどいことをやってる。
そうだよー。やっているよー。ウイグルは今に始まった話じゃないし、しかも人権侵害は別にウイグルだけとちゃうで。

でも私たちもやった。かつやられた。
それが戦争で、では無傷で儲かったのは誰? 

他もやったからいい、ではなく、どこの国がどこで何をやったか、をよく知りたい。人間はみんな悪いやっちゃ。さらに現地の人がどう思っているかは(その正誤とは別として)現地のふつうの人に聞かないとわからない。商売の、特に外国人はその狩り場の外国でウケることを言うから当てにならない。

中国を一人で旅するとき、いつも中国人から「○○は日本軍が戦争の時、めちゃくちゃやってるから気をつけてー」と言われる。その○○地域は多すぎるし、「母親は上海で日本軍の民間無差別爆撃を受けていて日本人恨んでいるけど気にしないで」とか。もちろん東京も大阪も広島もめちゃくちゃになったしそれは意外と中国人にも知られていない。
「え、日本も空襲あったの?」と何度聞かれたことか。「アメリカ恨んでないの? 日本人は?」とかも。私は東京の焼け跡にたつ少女のおかんの話を懐柔策にしている(実際は死体は一度も見ていないそうだけど)。

若い時に行った客船でのアジア旅行では船長さんがタイでの寄港時に、
「以前、日本人の駐在の奥さん方が3人でタクシーに乗って『スラムに連れて行って』と言った。翌日、現地の日本人学校の校庭に三人が裸で吊るされていた。皆さんは絶対に行かないように」と言った。今も忘れられない。

戦争時に日本人だけが特に残酷とは思わないが、やられたほうは忘れない、というのを忘れているようには思う。

毎年、日系企業が中国で”それをやってはいけない日”に大きなイベントをやって炎上している。先日はソニーがやらかした。


中国での注意日
5月4日(1919年) 5・4運動(反帝国主、反封建主義運動)
6月5日(1941年) 重慶爆撃
7月7日(1937年) 廬溝橋事件
8月15日(1945年) 終戦記念日
9月3日(1945年) 「抗日戦争勝利記念日」
9月18日(1931年) 満州事変(柳条湖事件)
12月13日(1937年) 南京入城(中国では「南京大虐殺犠牲者国家追悼日」とされている)
(出典:日本大使館)


許す、許さない、一般人に責任を求めるか、そして政府が煽るかは別として、やられたほうはふつう忘れないのである。

それは中国だけではなく、台湾もシンガポールもベトナムもタイも韓国も、その他日本が侵略したところはみな同じ。日本を好きでいてくれる国も多いけれども、それとは別の話。
いろんな国に侵略されてきた国には、日本はまだマシだったという比較の視点と日本からの経済援助や投資への思惑、不甲斐ない自国への嘆きがあるが、忘れているわけではない。日本の右翼の方々が勝手に美化するように、決して単純な解放バンザイなどではない。

多少風化しているエリアもあるが、やはり何かのきっかけで浮上する。親族を殺されているのである。許していても忘れないのは当たり前である。

日本人が戦争被害にわりとけろっとしているのは、自分たちはやった「強い方」にヤバッと向かわず、もっと「弱い方」に敵意を向けて意識から抹消し解消してしまう(人が多い)からかもしれない。

#桜井翔 #真珠湾攻撃 #第二次世界大戦 #中国 #日本  


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