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人間関係で大切なことはみんなラウンドワンで教わった 朝霞編

※引き続き登場人物は仮名です。

あるある探し

『再出発だ!!』

私は、学生時代、“転校した”という経験はありません・・・

社会人になってからも、今まで、ずーっと新店ばかりを経験、板橋も期間はあきましたが、出戻りのような状態。

純粋に違うお店に着任するのは、1年目の“西口店”以来2度目のこと。

(転校してきた人たちってみんなこんな気持ちだったのかな・・)

独特な緊張感・・

『おはようございます!!!』
元気よく事務所の扉を開ける!!
「おう!待ってたよ谷崎さん!」
『よろしくお願いします!』
渡部支配人から私は支配人を引き継ぐことになる。

元々板橋と朝霞はご近所店舗であり、同じ運営室、そして渡部支配人は、一緒に板橋を立ち上げた旧友でした。

『それにしても広いですね!!!』
「いやいや・・板橋がせまいんだよ!!」
『あっ!渡部さん!“せまい”っていったら田成さんに怒れますよ!』
「(笑)そういえば、そんなこともあったね!!」

そう、板橋はいろんなところがせまかった・・事務所・更衣室・倉庫・お店全体の規模などなど・・
立上げ当初、“せまい”とぼやくと、田成支配人が“せまい”って言うなよ!!といつも激を飛ばしているのが甦ってきた。

それでいて、全国屈指の売上をたたきだすのだから、どれだけ来場が多いか?!恐ろしい限りです・・・


朝霞店・・

埼玉県国道254号線(川越街道)沿い、少しいけば新座市、そんなところにお店がありました。

最寄駅の朝霞駅(東武東上線)からは池袋まえ直通、車でも少し走れば練馬区ということで、限りなく東京に近い埼玉といったところ。

お店の脇(朝霞市と新座市の境目)には、小川が流れていて、夏になると近所のちびっこたちがよく水遊びをしている、そんな長閑な一面もある。

「駐車場広いですね~」
『あぁ・・ほとんど満車にならないから、奥側の半分は封鎖してるよ・・』
「それがいいですね・・」
『この店、広いくせに倉庫があんまりなくてさ・・けっこー詰め込んでるのよ・・もし指摘されたらごめんな・・』
「板橋に比べたら、全然ありますから・・大丈夫です!」

板橋で慣らした私にとって、朝霞の稼働はスローモーションでした・・
平日は常連さん中心で午後に学生や若者がチラホラ、土日はファミリーで溢れかえる。
平日でしっかり準備しておかないと、土日に売上ロスをしてしまう・・

今まで私が経験してきたスポッチャのお店とよく似ている。
スタジアム店舗(スポッチャがあるお店の別名)はやっぱりこうでなくちゃ!!

私は大きな戸惑いなく、着任することが出来た!

何より、私には圧倒的“余裕”があった!

(この“余裕”をどう使おう・・)

『黒澤さん、スポッチャのフロントにいる小森さん、めちゃめちゃ接客いいね!!』
「ありがとうございます!」
『しかもさ!手が空いたら、すぐに清掃してるのね!!』
「そうですね!何かしらやってますね!」
『いやーさすがだわ!やっぱ黒澤さんが見てるだけあるわ!!』
「いや・・僕が来た時からすでにやってましたけど・・」
『そうかも知れないけどね・・黒澤さんとの信頼関係があるからこそ、あーやって前向きに出来てるんだと思うよ!』
「そうですか!ありがとうございます!」

『ボウリングのインカムいいな!!みんなで声かけがいけてるかしっかり確認してるんだね!!』
「はい!一応フロントから飛ばすよう仕組みにしてまして・・」
『なるほど!それで毎回フロントからインカムが飛ぶのね!!』

とにかく私は、目についた“良いところ”を褒めまくった!!

もちろん、気になるところ(改善箇所)はたくさんある・・
でもそれは、今すぐに手をつけなくても全く問題のないものたち・・

“出来ていないところ”を探すのではなく、“出来ているところ”を探すように心がけた!

簡単に表現すると、“ないない探し”から“あるある探し”に変えたのでした!

完全に今までとは“真逆”の発想でした。

やってみると、おもしろいようにたくさん見つかりました!!

すると周りにも変化が!

「支配人!今スポッチャでやろうとしてるのが・・・」
『いいじゃん!!やろうぜ!!』(田成さんのパクリ)

「ボウリングの競技会で相談なんですけど・・」
『どうしたの??』

社員から声をかけてくれる。

「支配人・・私の名前覚えてます??(笑)」
『もちろんだよ!!!』(えーっと誰だっけ・・・)
脳みそフル回てーん!!!
『スポッチャの川野さんでしょ!』
(ギリギリ思い出せた・・)
「すごーっい!!ちゃんと覚えてくれてるんですね!!」
『ナインボットのMCやってるところを黒澤さんと見てたからね~』
「黒澤さん、いつも私がいる時間はナインボットのポジションにするんですよ・・」
『えっめっちゃいいじゃん!!それだけ信頼されてるってことでしょ!!それに川野さんのMCすごい上手だったよ!!』
「えー本当ですか!!?」
『本当だよ!!板橋でもいろんな人のMC見たからわかるけど、川野さんはめっちゃいいよ!何よりね!お客様が楽しそうだった!!』
「うれしい!!ありがとうございます!!」

その後彼女のクオリティがさらに上がることは言うまでもない・・・

どうやったら社員と上手に情報共有できるのか・・
どう伝えたら社員が自分と同じ思いで動いてくれるのか・・・
アルバイトさんとうまく距離を近づく為どうやって話をしていくのか・・

そんなことばかり考えておりました。

私の悩みはこの“あるある探し”が全てを解決してくれました。

私が着任してやったことは、本当にこの“あるある探し”だけです!!

ところが、不思議な出来事が起きます・・

(ここはこうした方がいいよな・・あそこ汚いな・・どうにかならないかな・・)
気になっていた異常個所が、いつの間にか改善されていたんです・・

不思議なものです・・


2.6.2の法則


『渡部さん!それにしてもどの部門のアルバイトさんもしっかりしてますね!!』
「って思うでしょ・・」
『はい!思います!!』
「・・・まぁ・・そのうちわかるよ・・なぁ黒澤さん・・」
「そ、そうですね・・・」

引継ぎの時のやりとり、

(渡部さん・・あの何か含みのある表現はいったいなんだったのか・・)

ある日のこと

「も~・・(怒)」
『どうしたの??』
「また山下さんが余計なことしちゃったんで・・・」
『山下さん??』
(山下さん・・以前すごくいいなって思ったアルバイトさんだ・・)

「山下さん!!あとはこちらで対応しますが、対応する前に絶対に社員に相談してください!!!」
黒澤さんから結構厳しめなインカムが飛ぶ。
「はい・・・大変失礼しました・・・・」

『黒澤さん、何があったの??』
「す・・すいません・・・山下さんが社員に許可なく返金対応してたみたいで・・」
『そうなんだ・・いくら??』
「400円です・・」
(なんだ・・そんなことか・・・)
「山下さん、今までも勝手に対応しちゃうことがたくさんあって・・けっこー暴走するんですよね・・」
『なるほど・・それでさ、山下さんの“勝手にやってしまう”というのは、間違った対応になってることある??』
「いえ・・そんなことはないんですけど・・」
『なら・・別にいいんじゃないかな・・・』
「えっ・・いいんですか??!」
『うん・・』
「で、でも・・他のアルバイトたちには、“必ず確認するように!”って言ってるんですよ!山下さんだけOKするのはどうなんですかね・・・」
『たしかにそうだね・・』

私は、前橋の“菊池さん”を思い出しておりました。

『黒澤さんさ、山下さんってやる気が“あるない”でいうとどっちになる??』
「それはもちろん“ある”方だと思います。」
『そうだよね!私もそう思う!!逆に言うと、山下さんみたいに自分で判断したり、自分から行動したりするアルバイトって中々いないよね・・』
「そ、そうですね・・」
『だったら、特別に許可したら??だって今までも間違った対応してないんでしょ・・うちらで変に縛りつけずに、のびのびやらせてあげた方が山下さんの良さがもっと出るんじゃないかな・・』


“あいつはいつも暴走する・・”
本当はやる気があるのに、少し癖があったり、やり過ぎてしまうことを、我々はよく“暴走する”と表現してきました。

山下さんだけじゃない・・・
前橋の菊池さんもそうだった・・

そうやって、本当はすごく優れた人材を、扱う側が扱いきれずに、手放していいるだけだったのだ!!

『いいよ!黒澤さん!もしそれで、トラブルになるんだったら私が責任もつから!!』
「わ、わかりました・・・」
『逆にさ!“いつも僕らの変わりに判断してくれてありがとうございます!!”って伝えてあげていいんじゃないかな!』
「そうですね!今度伝えておきます!」

(山下さんがそんなトラブルを起こすなんてことはない!)

なぜなら山下さんは、2.6.2の法則でいう、上位の“2”に入る方であることは疑う余地がなかったからです。

“2.6.2の法則”とは、

2割上位、6割普通、2割下位として表現され、2割がやる気があり貢献度が高いメンバー、6割は可もなく不可もなく、残りの2割がモチベーションが低く、悪影響を与えがちとされている。

会社やチーム、組織など、どんな業種やジャンルであっても、基本この“2.6.2”というバランスになると言われております。

(そうか・・渡部さんが言いたかったことはこれなのか・・たしかに扱うのは難しい・・)

でも、我々がしっかりコントロール出来れば、山下さんのようなタイプの方はさらに高いクオリティの仕事をしてくれる!!

その期待に十分以上に応えてくれるようになった山下さんは、ラウンドワンだけではとどまらず、化粧品会社に就職することになる・・

“自分のチャレンジしたいことが見つかった”

満面の笑みで巣立っていった・・

山下さんだけでなく、朝霞では何人ものアルバイトさんが、社会に出ていくようになります。

もちろん人材を失うことはお店の運営上厳しかったですが、しっかり目的目標を持って社会進出する。

そしてそのきっかけ作りの後押しが出来ているのであれば、それは喜ばしいことなんだと感じておりました。

当たり前のことは当たり前ではないこと

『いやー・・今日晴れて、本当に良かったですね!!!』
「ほんとだよ・・2ヵ月くらい前から予約してたからね!」

気持ちの良い青空の下、何人かはばっちりユニフォームで決まっている。けど、だいたいがジャージなど動けるような恰好だ!!

おじさんから若い兄ちゃん、女性も数名いる!

『えーっと、皆さん!おはようございます!!私、朝霞店支配人の谷崎と言います!いろいろと一方的にご案内していた張本人でございます!』
「(笑)おはようございまーす!!」(一同)

『今日はですね!!多くの方々から“野球がしたい!!”という声を多数よせられまして!この度、社内レクリエーションとして!野球大会をすることになりましたーー!!!』

特に社内で決まったレクリエーションがあるわけではないのですが、元々私が野球好きということもあり、そこに数名の社員が乗っかり、今日に至ったのだった。

こういったことが出来るようになってきたのも、“余裕”のあらわれなのかも知れません。

たまたまシフトが公休日で、参加したい者のみで集まる、にも関わらずなんだかんだで30名ほど集まっていた。

純粋に野球を楽しむも良し!みんなでワイワイするのも良し!その後好きなもの同士で食事会に行くのも良し!

目的は人それぞれでした。

もちろん私は野球を楽しむのが目的ですが、もう1つ、普段あまり会うことが出来ない社員たちを会うのも私にとって最高な時間でした。

以前一緒に働いていた社員と会ったり、

同期の仲間とも会ったり・・

『横浜からは藤田さんって来ないのかな・・』
「藤田さんは他の社員たちと一緒に来るようなこと言ってましたけどね・・」
『そっか!道混んでるのかな・・』

(川ちゃんと会うのは久しぶりだな~)

社員藤田さん、

私と同期社員で、“川ちゃん”の愛称・・というか私が勝手に呼んでるだけ。

野球を開始したのは13時、

そして17時を過ぎても川ちゃんの姿はありませんでした・・

「空条くんさ、藤田さんたちはこっちに向かってるんだったよね・・」
『はい・・“遅れる”っていうラインは来てたので、向かってるは向かってるんだと思うんですけど・・・』
「じゃあ来るのかな・・でもグランドは17時までしか使えないからね・・」
『そうですよね・・ちょっと連絡してみます・・』

残念ながら、その日私は、川ちゃんとは会えませんでした・・

その日の夜、衝撃的な連絡をもらいます・・

“川ちゃんが事故に・・”

それは、高速道路での大きな事故でした・・

テレビやネットニュースにもなるような大きな事故でした・・

たしかな情報が入ってこない・・でもニュースでは“意識がない・・”とか“かなり重症だとか・・”言っている・・

(たのむ!!何かの間違いであってくれ!!)

しかしニュースで確認した情報に間違いはありませんでした・・・

(俺があの場所で野球をやるって決めてなかったら・・)
(あの日、あの時間にしてなかったら・・)

めちゃくちゃ自分を責めました・・・

せめて自分が出来ることを全力でやろう!!

居ても立っても居られず、私は毎日近所の神社に参拝しました。

“川ちゃんが無事助かりますように!!!”

参拝を続け、1ヵ月ほどでしょうか・・川ちゃんの命が助かった!!という連絡を受けました。
他に乗り合わせていた社員たちもみんな無事でした・・(不幸中の幸いとはまさにこのこと・・)

良かった・・・しかしまだ油断は許されない・・

頭部の損傷がひどく、“社会復帰”までの目途がまだ立っていないということでした・・・

でも川ちゃんなら大丈夫!!きっとまた元気な姿で会えるはず!!!
そう思い、その後も参拝を続けました。

当たり前のように過ごしてきた日常は、当たり前ではないこと。
当たり前のように過ごせる日常に感謝をしていかないと!

そう強く思いました。

続く・・


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