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桜開花宣言の昨夜、寒かったので脳内銭湯した。

2020年3月14日。東京で桜の開花宣言が出た後、大粒の雪が降り出した。
桜の開花宣言が出た日に、真っ白な雪が降っている。

傘を持つ手が冷えてかじがむ。ふと露天風呂で湯に浮かぶ盆の酒をとくとくと注ぐ景色が浮かんだ。そんな経験はしたこともないし、お酒も普段呑まないというのに。寒いから現実逃避している。

あ~、温泉は無理だけど銭湯に行きたいなぁ…ぼんやりしながら温まりたい…できれば静かに入りたい…1人で行きたい気分…

でも行くなら3歳児と2人。今日は2人で行く気分になれない。諦めるしか…

それならば!
娘が寝た後に、脳内銭湯しよう。そして行った気分に浸って寝ようそれがいい!

*(21:40、娘就寝)

■脳内銭湯へ

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最寄りの銭湯まで、徒歩1分。寒くても雨でも気にならない、湯上り後の夜風が心地よい距離。60分後、この道を脱力した気持ちで歩いている自分を想うとお風呂が待ち遠しい。

靴を下駄箱に入れる。木札を引き抜く。番台でチケットを渡し、1回使い切りサイズの小さな牛乳石鹸を30円で買う。

私は、銭湯の番台で販売されている石鹸やシャンプー類が好きだ。昭和のころからそのまま放置されているようなデザインと、ドラッグストアで買えるトラベルサイズなどよりも遥かに小さいミニチュア感がたまらない。銭湯感を醸し出してくれる雰囲気。

少し前までは、眺めるだけだった。石鹸もシャンプーも持参すれば買う必要がないから。でも好きなものは買うことで意思表示しないと、販売も製造も終了してしまうのではないか。「使う楽しみ」もあるかもしれないし積極的に買おう、と改心したばかり。

今夜もミニチュアを手に脱衣所へ。服を脱ぎ、髪をまとめ、数歩先の浴場へ進む。

この時、私は一糸まとわぬ空へ羽ばたく鳥である。

背にはぜったい羽が生えていると思う。それくらい足取りは軽やか!

■贅沢のはじまり

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扉を開けると、むわっとした蒸気が裸の私を歓迎する。水圧の強いシャワーで髪と体と顔を洗う。フルコースディナーでいう前菜の時間。

レストランや旅館が分かりやすいが「自分で用意しない」というのは贅沢だ。この洗い場の清掃も、いま座っている目の前の鏡も椅子も、気まぐれに使うだけ。上げ膳据え膳。贅沢を噛みしめながら泡にまみれる。

■湯に浸かる

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このとき、忘れていけないことが一つある。それはその日初めて全身を湯に浸ける瞬間は貴重だということ。だって一度しかないから。途中で休憩を挟み再び浸かることはあっても、まだ一度も湯に浸かっていない身体を湯に沈めていくときの気持ちよさとは違う。

さぁロストバージンする時。まずは掛け湯、これは禊。そして、あふれんばかりの湯に足を、するすると浸けていくと―

じわわわ~ん…と湯の温度が、つま先から私の体内を上昇してくる。腰を落とし腕を垂らし、ゆっくり、ゆっくりと顎先まで湯に沈んでいって…

ふぅわぁ~あ、なのか、プワーーーーーーーァなのか、とにかく思わず言葉にできない息が全身から抜けていく。

(人は誰しも一つの個体…生まれた瞬間から肉体も魂も孤独だから慰めを求める…でも家族に愛され友人に囲まれ恋人と一緒になっても1対1で人は孤独…なのに生命の源といえる水に全身を包まれると、まるで大きな母性に抱かれるよう…生まれる前、母親の胎内にいたときってこんな感じだったのか…

とか、考えたりする。腕を脱力させ、水面に浮上していく感覚の心地よさ。両手両足を伸ばしてみたり、他に人がいなければ腕を縁に置いて、うつ伏せするようにして体が下から湯になびくのを感じてみたり。

途中、のぼせる前に水風呂へ。起承転結の「転」。たっぷりのお湯にもらったエネルギーを温存するかよのうに、足に被膜が貼られる感じがする。

再び湯へ。
ふーーーわぁ~~~
体中の空気が全身の毛穴から全部抜けていく
よう。ついでに頭の中のネガティブなものを吐く息に溶かして湯気にしてしまおう…

■脱衣所の時間

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浴場を出て脱衣所を満喫しよう。家と違い、テレビや冷蔵庫などが目に入らないだけで、どうしてこんなにのんびりとした気持ちになれるのだろう。

10円玉を2枚入れて使うドライヤー。年季の入ったマッサージ椅子(というより肩たたき椅子)。それらに囲まれ、濡れた髪をタオルで拭いながら、だらしのない猫背気味の姿勢でベンチに腰を掛ける。この後、一口目に何を飲むかを考えながら。

■夜風の帰り道

自宅で実家でもない、友人の家でもない。
約束のない客人たちを毎日たっぷりの湯を沸かして迎えてくれる銭湯。

毎日通っているわけでもないし、番台のおじいさんは無口。
だけど徒歩1分の銭湯の帰り道は、月がよく見えるからきっと上を向いて歩いてる。

うん、満足。湯上り気分で、おやすみなさい!


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