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100円ショップは、あの頃の幸せを奪ってなんていない

私は100円ショップが好きだ。

子どもの頃はレターセットやシール、文房具が好きだったし、高校生くらいになると、部屋をこまごまと盛り付ける雑貨が大好きで、一人暮らしを始めたときは、玄関からお風呂の中まで自分好みに飾れるのが嬉しくて仕方がなかった。

高校入学とほぼ同時に始めたファミレスでのアルバイト。お給料は何より雑貨やステーショナリーに消えた。

バイト代で小さなテレビを買ったときは、フチをハート柄のテープのようなシールでぐるりと囲んだ。雑貨も好きだったけど、そういう類も好きで今でいうマスキングテープやリメイクシートでやるようなことを、いろいろなモノでやっていた。

そんな私にとって、100円ショップの登場はセンセーショナルな出来事だった。

母に「面白いお店があるのよ」と連れて行ってもらった人生初の100円ショップ。PLAZA アオヤマとかいうお店。(いま検索したらダイソーと洋服の青山が共同で設立したらしい)

店のど真ん中に、ミニチュア雑貨がズラリと並べられている大きなテーブルがあって「全部100円なの?」と驚いた。

それからというもの、せっせと100円ショップへ足繁く通い、雑誌やネットで商品情報や活用法をチェックしては、また足を運ぶ…を、かれこれ20年近くやっている。(20年…!)

その間、100円ショップは一大産業になった。100円ショップの変容を肌で感じながら体験してきた私も、100円ショップと共に歩んできた気分だ。

令和時代の100円ショップは、2000年くらいのそれとはまるでちがう。安かろう悪かろうでもなく、きちんとしているものも多い。デザインも魅力的なものが増え、どう見てもコスパの高いものがそろっているし、モノによっては何倍もする値段の物より使い心地がよかったりする。

100円ショップで、世の中は便利になった。

たとえば、文具店にホームセンターへと回らないといけなかったような品が一度に手に入る。

「明日、学校に軍手を持って行かないといけない日だった!」と子どもが夕飯前に言いだしても大丈夫。習字で使う墨汁や半紙、三角定規にコンパスだって100円ショップがすぐに解決してくれる。

私が小学生のころ、デコボコシールやぷっくりシールが流行っていた。

デコボコシールというのは、転写式のようなシール。プラスティックやビニール素材にも貼ることができ、ふつうのプリントシールより柄が細かくてキレイだった。

ぷっくりシールは、文字通りぷっくりとした厚みがあり、ラメや色の付いた液体が封じ込められているものもあった。

休み時間には、互いのシール帳を見せ合う。クラスではもちろん、世の中でも大流行していたような気がする。

その証拠に、ファンシー雑貨や文房具が売っているコーナーには、そういうシールがたくさん売られていた。

でも、結構高かった。

1シート350円、凝ったものになるともっとした。

今なら100円ショップで充分にカワイイものが買える。でも当時は、100円やそこらで買えるのは学校の先生が使っているような、赤や青の事務用丸シール。

レターセットやノートも、可愛い絵柄の入ったものは480円とか680円とかして、ぽんぽん買える値段じゃなかった。

「わぁ…!」と心がときめいて、店頭で目を輝かせながら20分も30分も悩んだり眺めていられたりしちゃう物は、今よりずっと"高級品"だった。

それが今では。

100円ショップに、いろいろな系統のデザイン、カラーが至れり尽くせりにそろっている。

ファッション系が好きな子向けはコレがおすすめよ、ゆるキャラ好きならコレね、大人っぽいものが好きな子はコレはどう?といった具合いに。

その昔、お小遣いを握り締めながら「どれか一つだけ」と時間をたっぷりとかけて選び抜いた、とびっきり。そんなお気に入りを買えた日は、最高の一日だった。

レジでお金を払う瞬間も家に持ち帰る間も、袋を開ける時、そして使う時。そのどれもが全部、ものすごく幸せな気持ちでいっぱいになったものだ。

「あ~ん、もう。どれにしよーかな。まよっちゃう~!」

100円ショップのキラキラシール売り場で、4歳の娘がテンションだだ漏らしで言った。やっと決めたと思えば、「やっぱり…」ともう一度考え、弾むような足取り…ではなく、リアルに上下にバウンドしながら歩いて帰ってきた。

そっか、そうなんだ。

可愛いものが溢れて、しかも100円で手に入ってしまう時代。

今の子どもたちが羨ましいな、楽しいだろうなと思う反面、あの頃の何ともいえないお宝感や、使うのがもったいなくて机の奥でタイムカプセルにしちゃうあの感じを味わえないなんて、ちょっとだけ可哀想だなんて思っていたんだけれど。

可哀想だったのは、むしろ私の方だ。子どもにとって、そういう心のときめきは、きっと何も変わっていない。

そりゃ、一昔前と比べたら今の子たちの選べる種類は比じゃなく多い。

でもそんな豊かなバリエーションと目まぐるしく入れ替わる商品の中から、「コレ!」を発見してキャッチしていくお楽しみがある。

時代が変われば、楽しみのカタチも変わっていく。

だけど、たいていのことの本質は何も変わらないのかも。そうじゃなきゃ、私たちは枕草子の清少納言に頷けないし、万葉集の和歌を味わえない。

でもちょっとだけ意識して、私と同じ幸せを娘にあげたいな、とも思う。

だから私が「100円ならいっか」と買うのではなく、あの頃みたいなとびっきりのお気に入りを愛でるような体験を、娘に程よく演出できたらいいなと考えている。


2021.3.6 土曜日



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