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ポピュリズムの対極にいた稀有な人物「菅義偉」という中道派総理大臣(無料で読めます・投げ銭)

大学の学友もとい悪友のLINEグループにガースー退陣のメッセージが流れ「え、マジか?!」と打ち返した。自民党総裁選を控え解散総選挙という伝家の宝刀を抜きにかかっている殺気に満ちた菅首相が退陣とは、にわかに信じられない。あの二階氏をムリクリ抑え込んで党役員刷新と内閣改造断行の報道もあった中である。続投に向けて戦の真っ只中の総理が退陣とは…。

菅義偉氏は母校からの初の総理大臣で、地方出身者が多い学費の安いバンカラ大学らしく彼も秋田からの上京者だった。母校が報道されるのは箱根駅伝で選手が棄権する時くらいな大学ゆえ、学友のLINEグループに速報が流れたのだ。

安倍内閣の官房長官時代から不眠不休が10年にもなろうとしている菅義偉氏は、昨今、いたるところで幅を利かせているポピュリズムの対極にいる人物だった。有権者や民意の歓心を糧に生まれた宰相ではない。それをわきまえ、政策に体現してきた。母校の後輩として、菅義偉氏に敬意を払い、ここに駄文の論評を書くことを許して頂きたい。

ポピュリズムの権現マスコミを完全スルー

マスコミは菅義偉氏の会見や質問への回答が棒読みだ、感情が入って無い、質問と回答が噛み合わないと騒いでいた。新型コロナが深刻化する中で、マスコミや批評家から真っ先に批判されていた件だ。

感染を抑制するには苦難を強いられている国民へのメッセージが必要だと、新型コロナ対策の分科会からも批判を受けた。

現代のポピュリズムとは滑稽である。数値だ、可視化だ、結果だ、エビデンスだ、と言いながら、その対極にある感情が入って無いと騒ぎたてる。古今東西、感情的な演説や弁論で国民が苦役を強いられた数のほうが遥かに多いのは説明するまでもない。

菅義偉氏はマスコミを完全に見下して相手にしていなかった。軽蔑すらしていたかもしれない。ジャーナリズムと権力の監視機構を放棄し、ぶら下がり会見や記者クラブで安穏と得た情報を一般市民が喜ぶように面白おかしく発信するだけのマスコミに何の意味があろうか。対峙する相手ですらない。彼は大学時代は空手部だった。

菅義偉氏が追っていたのは「結果」である。

信念に基づく「結果」。

政治家は結果で信任され歴史に名を残す。いっときのポピュリズムに流されるような政治家は、ただの日和見主義の風見鶏だ。彼はそう考えていたに違いない。

会見が棒読みでも結果がついてくれば信任され、ポピュリズムの拡声器たるマスコミはいずれそれを発信する。

しかし、そこまで到達せずに彼は次期総裁選は不出馬と表明せざるをえなかった。ただ、国民からしてみれば、劣化し惰眠をむさぼるマスコミの姿を十分垣間見ることができた。

政策に関係無い無用の長物「東京オリンピック」

東京オリンピック。先代の首相であり自身の親分が残した東京オリンピック。ポピュリズムの最たる政治家である安倍前首相が遺した東京オリンピックに、菅義偉氏はまったく興味が無かったはずだ。

国民の歓心を求める安倍前首相には意味のある東京オリンピックも、もはや政策やこの国の大局にまったく無関係であった。すでに1年延期され新型コロナと共存する形での開催でしかない東京オリンピックに何のシンボリックな意味合いも経済効果も見出だせなかった。

結果を求める菅義偉氏が興味を持たないの明らかである。彼にとって無価値な東京オリンピックにリソースを割いている余裕は無い。

主催者の東京都やJOC、IOCに任せておけば良い。旧時代的な国威発揚のように国家が介入する必要も理由も無い。しかし、東京都もJOCもIOCも、新型コロナ下の有事では組織力も遂行力も発揮出来ず日本国に泣きついた。都知事に至っては主催者の判断や責任すら放棄した。

結果、尻拭いにリソースを割く羽目になった。尻拭いにポジティブな感情などあろうはずがない。都知事に感情的にぶつかったのは十分理解しえよう。実際に開催してみせた。

閣僚の力量不足と憲法・法律のはざまで

ポピュリズムの現代にウケの良い女性や若手を登用すべしとの助言が何度もあったのだろう。

橋本氏(五輪相からJOC理事長)や丸川氏(五輪相)、小泉氏(環境相)を閣僚に据えたが情けないまでの力量不足を晒すだけであった。橋本氏や丸川氏が東京オリンピック開催に対してポジティブに寄与した言動はほとんど無く、脱炭素の世界的潮流の中、小泉氏はポエマーとして嘲笑された。

新型コロナ感染拡大が深刻化するとロックダウンを求める声が何度と挙がるが、人権を尊重した憲法や現行の法制下では、どだい無理な話だ。感染拡大の起点の多くは飲み会や会食、二次会のカラオケ、そしてキャバクラやホストクラブ、風俗店からであるというエビデンスもあったがピンポイントで閉鎖命令など出来るわけもなかった。

矢面に立つ西村氏(経済再生担当相)が語った取引先や金融機関から居酒屋や飲食店への要請指示の案は、国家が国民に自粛や要請しか出来ない憲法や現行の法制下でのギリギリのラインだった。感染拡大の入り口となる飲み会や会食を減らす意味と効果はスルーされ、強権的で越権行為だと非難の嵐となった。皮肉にも憲法や法律を遵守しようとした結果、非難の嵐になった。

自身の権益にしか興味の無い自民党の大物は高みの見物で、野党は建設的な議論が出来るような声は無かった。菅義偉氏が「オレがやる、誰がなんと言おうと、オレがやる。オレしかいない」と強く意識する材料は揃っていた。彼は官房長官時代から10年に迫るほどこの国の舵取りをしてきた。

結果、独断専行になり、軋轢を呼び、責任をすべて背負い、国民ウケはダダ下がりとなった。独り相撲に陥った感は否めない。

各国との等間隔外交と東南アジア・台湾支援

菅義偉氏の外交手腕は未知数のまま政権を去ろうとしている。しかし、この1年で見せた外交手腕は、右派保守派の継承というより中道を貫く姿勢が垣間見れた。正論を通せば、自ずと中道になることを示してくれた。

中国韓国ロシアとは引き続き距離を変えずに刺激は避けた。 不安定な民主党バイデン政権にはハンバーガーランチが象徴するように安倍前首相より米国と距離を置いた。中国を警戒する欧州各国とは距離を縮め、海軍艦艇と自衛隊はアジア海域で演習を実施してみせた。台湾や東南アジアには、メッセージだけではなく新型コロナワクチンという実弾を送り支援した。

安倍前首相がポピュリズムで右派保守派の歓心を得ようと自らのタカ派思想を隠しもしなかった外交は結局は対米追従でしかなかったが、菅義偉氏は違った。右派保守派にも左派リベラルの双方にも媚びない、日本国は東アジアにあり、という中道路線を貫いた。

あくまで実利的な結果を追求する姿勢は地味だが国益にかなう外交手腕を垣間見せてくれた。

誰かがやらねばならぬ平時政策と有事政策の実施!!

菅義偉氏の政権は総選挙で信を問うたわけでも、自民党総裁選で他の候補者を蹴落として勝ったわけでもない。安倍前首相の辞任から、自民党の重鎮たちのさじ加減で首相になった。

彼はそれをわきまえて、誰かがやらないとならない政策を断行し続けた。支持率にも票にもならないが、やらねばならないことはある。ポピュリズムとは対極の政策だ。

・福島原発処理水の放出決定
・日本農業技術を守る改正種苗法成立
・自衛隊基地や原発を守る重要土地取引規制法
・数が多過ぎる地銀再編
・不妊治療の保険適用
・後期高齢者の医療負担1割→2割
・RCEP署名
・デジタル庁創設、押印廃止
・こども庁準備スタート
・携帯電話料金引き下げとSIMロック禁止
・開かれたアジア太平洋構想の拡大
・沖縄への配慮と対話
・北朝鮮を理由とした敵基地攻撃能力棚上げ
・温室効果ガス2050年ゼロ化表明

新型コロナ有事でも結果を出した。

・信頼性の高いワクチン種の全国民2回分調達
・高齢者へのハイスピード接種完了
・2021年9月時点で世界5位の接種回数
・GOTO政策による経済活動活性化

無論、すべてがうまくいき100点などあり得ないし、失策もあった。しかし、国民が実感するレベルでの政策断行も数が多かったのではないか。

アベノミクスやアベノマスクと比較すれば、菅義偉氏が行ってきた政策は地に足ついた政策で、遥かに国民目線だった。

筋を通した自らの退き方・次期総裁選不出馬

安倍前首相をはじめ、これまでの総理大臣は任期途中で辞任したケースが多かった。しかし、菅義偉氏は支持率を下げながらも任期途中で投げ出さずに最後まで総理大臣に留まれるように奔走した。つまり次期総裁選に勝てるように奔走した。

しかし、万策尽きて、自民党大物の権力争いから外れ、彼は次期総裁選に不出馬することを表明するに至った。

冒頭のLINEのやり取りでは退陣・辞任のニュアンスが強いメッセージ文だが、正しくは任期は全うする。次期総裁選に不出馬を決めただけだ。途中で投げ出さない菅義偉氏の退き方は、筋を通した形だ。

ポピュリズム全盛の世の中では、実績や政策より選挙に勝てる雰囲気やイメージの総裁が求められる。また、正論で臨んだ結果、中道を貫いた菅義偉氏に保守派や右派は味方しなかった。意味のある負け戦なら挑んだであろう彼は、そっと目を瞑り、次期総裁選不出馬を表明した。

そして、支持率の低迷していた自民党の顔は変わる。菅義偉氏では選挙に勝てない、議席を大幅に減らし下野もありうる状況は、総裁選で選出された新しい顔により払拭されるはずだ。菅義偉氏は、最後の最後まで結果を追求した。自民党が衆院選での大敗を免れるような形で、振り上げた拳を下ろしたのである。マスコミが騒ぐ権力への固執とは遠い退き方であろう。


いかがであろう。菅義偉という政治家は、近年、稀に見るポピュリズムから対極に位置しつつ中道な総理大臣であったことが分かる。それゆえ、短命に終わろうとしている。しかし、彼の実行してきた政策は口先だけでない実利を伴う政策ばかりである。国民が肌で感じる政策も多々あった。最後は自民党の衆院選大敗も防ぐはずだ。

高齢者の両親はファイザー製、中年現役世代の私も妻もモデルナ製のワクチン接種を2回完了している。大切な子ども達が生きる将来を残すために脱炭素化は推進されていく。現役世代の負担を減らすために後期高齢者の医療負担は引き上げられた。保険適用で不妊治療が受けやすくなり子宝を授かった家庭もある。ガラパゴスで事業者優位の携帯電話事業は利用者優位になった。北朝鮮をダシにした安直な敵基地攻撃能力保有は実施せず、安全保障は外交により欧州を引き込み中露を牽制した。

結果を出すのが政治家だ。結果で信任され、歴史に名を残す。保守派右派に媚を売らずに実利、つまり結果を追求した菅義偉氏は、やはり、昨今では稀有な総理大臣であった。もちろん、ポジティブな意味で。

これまでの短命政権とは明らかに異なる政策実行力を、国民はいずれ評価するはずだ。

おしまい。

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