【FC町田ゼルビア】決戦!大宮アルディージャ ~541撤退への振る舞い考察2~【2023 J2第23節】

今回のお相手は大宮アルディージャ。残念ながら相馬さんの町田凱旋は叶わなかった。序盤こそホームで勝利を挙げていたが、4月の第9節から未勝利が続き第16節で解任。その後はヘッドコーチだった原崎政人が監督に就任するも未勝利の状況は続いている。攻守バランスを取り戻すことが命題のようだが失点は増えている印象だ。そもそも平均失点数の少なさは屈指だった相馬さんが立て直せなかったチームに対しての荒療治であるから、相当困難なミッションだとは思う。

と言うわけで町田対策の541撤退アゲイン。5バックで止めにくる相手に対し、攻略の解を探している町田は3人メンバーを入れ替えてきた。髙橋大悟は右サイドハーフに。注目なのは松井蓮之と稲葉修土で、どちらが下田北斗の相棒で、どちらが出場停止のおっくんの代わりに右サイドバックに入るかであり蓋を開けてみなければ分からなかったが、よりおっくんにタイプが近い稲葉がサイドバックに入っていた。

なお、試合開始早々に雨天ゲームとなった。

前半

町田は1巡目の対戦と振る舞い方は異なるが左サイドで試合を進める。藤原優大が良く起点となりボール循環が行われていた。また、左サイドハーフに入る平河悠がインサイドハーフ化して降りたり翁長聖が高い位置を取るなど、同サイドの出口が2つある状況を作っていた。そこにパスが渡ると下田が加わり、小さなパスを交えてから裏抜けやクロス、そして第3の動きでのペナ侵入を狙っていた。その他、髙橋は中央レーンでミッチェル デュークのポストで降りる動きと入れ替わる形から他のアタッカーへのラストパスを狙っていた。

と、町田が自己紹介をしている最中に被コーナーキックから大宮に先制点を許してしまう。町田のコーナー守備がスカウティングされた形だ。

青:マンマーク 緑:ストーン 黄:エリア外担当

町田はゴール前でのストーンは基本3枚。ニアに1枚、中央に高さのある2枚を並べる。他はエリア内マンマークと相手のエリア外からの侵入に備える要員となる。大宮の陣形はボール周辺がキッカー1枚。エリア内に6枚。エリア外が3枚。町田はマンマークで6枚+ストーン3枚となるため、エリア外は1枚で対応することになる。ノーマークでエリア外から侵入する茂木力也には中央のストーン役が対応したいが、他の選手にブロックされフリーにしてしまった。この1-6-3の形は町田のセットプレー守備に今後の課題を提示した。

スコアが動いた後の町田は、大宮の2列目のプレスに奪取やカウンターの目的が濃くなり始めるがビルドアップユニットの自由は保たれていた。そしてサイドハーフのインサイド化の振る舞いが多くなる。大宮の5バック+サイドハーフの守備の基準点を攪乱する動きを頻繁に行っていた。ウイングハーフ化するサイドバックが高い位置を取り、3142や2242と表現されるような形で定位置攻撃を仕掛け始める。しかしサイドチェンジを含め、チャンスメイクには時間がかかっていた。ボールを右サイドに逃したときに髙橋、松井、稲葉の急造ユニットでは相手を動かすに至らずだったと思える。

左と右とで練度の違いによるアンバランスさがあるなかで36分に大宮に追加点を奪われてしまう。右からのアタックで松井からライン間にいる髙橋へパスを刺すものの、背負ってのワンタッチ回避を迎撃されてしまう。2242の形でいた町田は予防的マークが準備されていない状態で被カウンターを喰らい、ポープのファンブル(脇下の処理は難しい)を招いてしまった。

ただ町田はすぐに1点を返した。安定している左サイドでのパス交換による前進と、アタッカーのラインを押し下げる動きの相互作用により、たびたび行っていた低い位置からのクロスが功を奏する。ライン間が広い状態ではあったが、町田にはこれがあると言わんばかりにデュークはポストワークで違いを見せ、頭で繋げた先のエリキはブロックをもろともせずミドルシュートで何とかしてしまった。

立ち上がりから町田のボール循環に対しての大宮のサイドハーフとウイングバックのカバーリングは機能していた。ただ、ミドルゾーンを越えて押し込まれた際の迎撃能力が高くはなかった。町田の裏抜けとアーリークロスの対応で2,3列目のライン間にはスペースが生じていた。大宮側からすれば不安が残る形で試合を折り返すことになっただろう。

後半

前半の町田は右サイドのユニットが機能しているとは言えなかった。ボール保持を続けることになる状況で、ハーフタイムに稲葉→安井拓也、髙橋→荒木駿太の入れ替えを行う。

ボール保持時の並びは3バックをベースに変えてきた。2バックからの可変に時間がかかるなら最初から3バックにしてしまおう作戦だ。ハーフタイムで3バックに変更したのは相手の混乱を図ったからだと黒田剛監督は語る。ワールドカップ日本×ドイツでの戦術変更の記憶がよみがえるコメントだった。

この修正により、右サイドに移った平河にボールが届きサイドからのチャンスメイクが増えることとなる。2,3列目のライン間や裏を狙う立ち位置をとる選手が増えたことで、大宮はどの高さもピン留めされる形となり迎撃に出るのが難しい状況となっていた。町田の右サイド側で安井のビルドアップとボール前進のタスクを行ったり来たりする振る舞いや、松井のサイドバック兼アタッカー化の動き、そして平河や2トップを含めたコンビネーションが効果的になる。大宮が町田のボールを奪える雰囲気は前半以上に無くなり、我慢と一発を狙う展開が続いた。ただ大宮が適応しきれない時間帯で同点に追いつきたかった町田ではあった。

町田が追いつくのは終盤に最後の手を打ってからだった。75分に翁長→太田宏介、下田→藤尾翔太の交代。藤尾がトップ気味のインサイドハーフに、セカンドボール回収に長けた荒木がセンターハーフ気味の位置に降りて325に近い形となる。松井はほぼアタッカー化してチーム全体でリスクをかけてきた。相手をゴール前に完全に押し込んだ形から中央で第3の動きを絡めるアタックも表れた。そして出たのは困ったときのセットプレー。79分に太田の高精度クロスのクリアがファーに流れ藤尾が放ったシュートが枠外にいたエリキに当たってゴールに吸い込まれた。ゾーンで守る外側にクリアボールがこぼれたのが千載一遇のチャンスだった。

同点で終えたい大宮は2,3列目のスペースを狭くした守備全振り状態で凌ぐ選択を続けた。町田は相手を押し込み、ボール循環からアーリーな展開やポケット攻撃からクロス連打を行う。松井の動きは最後まで効果的だった。逆転弾が生まれたのは後半自重気味だった左サイドからのアタックであり個の力が加わるグループアタックだった。藤原の持ち運びと太田のパスゴーによる囮からペナ角で囲みをもろともせずカットインを行う藤尾。デュークとのポストワークを使い、時間とスペースを与えてもらってシュートをゴールに突き刺し試合を決着させた。ダイレクトシュートを決めた直後に一瞬片手でガッツポーズを行うシーンは、シュート練習でも見られるイメージ通りのときの習慣だった。

おわりに

大宮は541撤退に加えてデザインされたセットプレーで町田を対策してきた。その奇襲に加えて不慣れなボール保持でミスを多発する町田の右サイド。これはさすがに詰んだかと思ったが、後半見事に修正してきた。そこで活躍した面々が神戸や川崎でボール保持を鍛えてきた安井や松井であったり、我が軍で命題となるポスト役から解放された藤尾だったりするのが面白い。とにかく走り回るワンダーボーイの荒木も効いている。藤原もボール保持をそつなくこなす汎用性をみせていた。交替や新加入の選手がチーム全体のレベルを上げた印象を覚えとても素晴らしかった。

大宮の守備全振りは悪くなかったが、迎撃するための仕込みが不足していた感じはする。ビルドアップ妨害の2列目に対して絶えず数的不利を作られたところを改善したいところだ。と言っても勇気を持ってセンバが迎撃に加わってデュークとエリキに対して同数で守る訳にもいかず困難な状況だったというのは分かる。そこを踏まえてのボール非保持の振る舞い。それはボール保持と同様に実に奥深いものであると改めて考えさせられる試合でもあった。劇的でした。

貴方の心の中にいる神に祈りましょう。
それでは🙏

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