【FC町田ゼルビア】大宮アルディージャ戦 ジョーカー翁長聖【2023 J2第13節】

試合前の黒田剛監督の町田に尽力した相馬直樹監督をリスペクトするコメントと、相馬監督の冒頭の両サポーターに感謝を届ける試合後のコメントは素晴らしいものでした。本当にありがとうございました。

立ち上がり考察

様子見のロングボール合戦は、町田は左サイドで大宮が右サイド、つまり同サイドに集中していた。おそらく右利きコンビのミッチェル デューク+エリキ、左利きコンビのアンジェロッティ+柴山昌也とで似たようなポストワーク+こぼれ球回収→前進orカットインのタスクが与えられていたためだろう。

両チームが初手で見せたのは別パターンではあった。町田はデュークがフリックをして荒木駿太が裏抜けからゴール前にいる平河悠を目がける作戦。大宮はやや中央寄りのロングボールを石川俊輝、小島幹敏、山崎倫がセカンドボール絶対拾うマンの姿勢を見せながらゴールに近い室井彗佑に供給する作戦だ。室井はファーストタッチから反転ターンでファウルを誘い、初スタメンとは思えない脅威性を匂わせていた。

大宮はロングボール合戦からセカンドボール回収を優位に進め、そこからサイド展開、そしてアウトオブプレーとなるのを許容しながら前進してきた。その振る舞いは昨年も見られたが、紛う方なき我々の知る相馬監督が率いるチームの姿だった。

その展開がこちらの左サイドで行われたというのがミソだ。町田側のスローインとなる場面では、翁長聖による縦や後方へのロングスローで奪取の包囲網を越すことができた。ひとつ大宮のゲームプランを崩した町田は、10分あたりからボール保持で縦とポゼッションを使い分け始める。

大宮のボール非保持はコンパクトな442ブロックを敷いていた。対する町田のポゼッション志向のビルドアップは、センターバックとセンターハーフによる3-1型。大宮のファーストディフェンスの外側を起点にして相手を崩し始める狙いがあった。ビルドアップの出口役はウイングハーフ化するサイドバックまたはインサイド化するサイドハーフであり、相手の守備を誘う立ち位置を取る。そこからダイレクトのパスで第三の選手を使いながらコンビネーションでフィニッシュへと繋ぐアタックを好む。

この可変アタックのなかで翁長のタスクは普通ではない。ナーゲルスマンが「ジョーカー」と命名したウイングバックがゴール前へ侵入する役割と類似する。

ウイングバックはライン際で縦方向の突破を試みたり、サイドからクロスを上げたりするのが通常だが、「ジョーカー」の役割は違う。
ペナルティボックスの角付近を主戦場とし、場合によってはウイングの選手よりも内側へ入って行く。神出鬼没で、相手としては非常にマークにつきづらい。ゴール前で何にでもなれるという点で、まさに「ジョーカー」だ。
(略)
攻撃ではFWになり、守備ではDFになる。「ジョーカー」は現代サッカーにおける究極のハイブリッドポジションと言っていいだろう。

『ナーゲルスマン流52の原則: サッカーを変革する若き新世代監督の、常識に囚われない“フレキシブル”思考』P24-25

16分の翁長のゴールは、直接的にはおっくんの相手ゴール前での即時奪取とアシストによるものだが、その起点となるアタックは翁長がダイレクトなコンビネーションで大外からゴール前に侵入したからこそだった。そしてゴール前へのパスを失敗した後の翁長の逆サイドへのゲーゲンプレスは、チーム原則である切り替え0秒と3秒ルールが体現されたものだった。

大宮のボール保持による反撃

前半の飲水タイム直後は町田がスコアだけでなくボール保持によっても主導権を握っていた。翁長のロングスローを含めたセットプレーは相手を押し下げる要因となった。ただ、ビルドアップの出口はスライド対応により塞がれてしまい、コンビネーションアタックは失われていた。

気温による体力ゲージの減りは早かった。後半に入るとエリキの強度低下により町田のファーストディフェンスが効かない場面が目立つようになる。そして互いに撤退守備を繰り返すなか、52分にデュークがダメージを負った辺りから大宮のボール保持に変化が見られた。

大宮はビルドアップでセンターバックの2人が自由にボールを持てるようになると、大外に開く両サイドバックを起点にワンサイドアタック+アイソレーションを展開する。ボールが進まないようであればセンバにボールを戻しやり直す。

ボール非保持で442を敷く町田はプレスバックがないため自陣4-4ブロックで守る場面が増える。大宮とシステムが噛み合うためサイドのユニットは相手と同数で対面し、センターハーフの一人がカバー役として飛び出す。センターバックも相手2トップと同数対面となるため、空いたニアゾーンをもう一人のセンターハーフが埋める形となる。大宮の侵入する動きに身体の向きが間に合わずに守る場面も多かった。54分に投入された泉澤仁をどうする問題が起きなかったのは不幸中の幸いだった。

町田にも何度か大宮のワンサイドアタックの隙を突いてロングカウンターを仕掛ける機会が訪れたが、大宮のリトリートが速く、またトップスピードで前進することしかできないため少人数での攻め上がり方に乏しさを見せた。得点の予感がするのは大宮の方だった。

67分に後半の飲水タイムが訪れた。町田はデューク→藤尾翔太、エリキ→藤原優大の交代で541に変更し、早めのクロージングフェーズに移行する。しかし再開直後に大宮のクリアボールの処理を誤り、速攻を止められずPKを与えてしまう。しかし我々が見たのは"自作自演"の残念、そこはポープ ウィリアムだった。何度もシュートを防ぎ、ビルドアップにも参加し、PKまで止めたポープは紛れもなくMVPだった。

ポープの活躍により九死に一生を得た町田は、74分に髙江麗央→安井拓也、荒木→沼田駿也の交代で落ちていた強度の回復を試みる。しかしアンジェロッティが下りる動きを中心に本来得意なセカンドトップとしての役割を果たし、町田の守備陣は引き付けられる。それによって相手の苦しい時間に嫌な守備を行うゲームプランが成立しなかった。

町田はここから20分ほど手に汗握る守備を強いられるも、最後のプレーをさせない懸命な守りにより無失点で試合を終えた。そのなかで79分に二度あった安井のタクティカルなチャンスメイクや、80分の誘導・遮断・カットのグループ守備からのカウンターは評価できる内容だとは思う。

まとめ

日中にサッカーを行うのには気温が高く、さらに3連戦の中日という厳しいコンディションのなか、相馬監督のチームらしい立ち上がりの振る舞いをかわしてボール保持で先制点をあげたのは素晴らしかった。

翁長がいつかジョーカーの役割でゴールに絡む日が来ると予想していたので嬉しいし、これからのアタックのバリエーションにも大いに期待したい。

クロージングフェーズでは、センターハーフのパワー不足を感じるのと、計算が狂い前から仕掛けられないときに、どのようにして流れをこちらに持ってくるのか。やはりボール保持に助けを求める必要があると思う。

貴方の心の中にいる神に祈りましょう。
それでは🙏


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