【FC町田ゼルビア】決戦!大分トリニータ ~前プレ不発で何が出来るか~【2023 J2第24節】

町田は大宮戦で活躍した安井拓也と好調を維持する松井蓮之が先発に。出場停止空けのおっくんも戻ってきた。大分は10名近い負傷者情報、前節のアウェイ磐田戦の帰路で交通渋滞、悪天候など試合準備に影響を及ぼす事象が重なっている。そのような中でのミッドウィークゲームで、渡邉新太に今シーズン初先発の機会が与えられた。

前回の対戦では町田のハイプレスが大分のビルドアップとアタッカーのユニットを分断させるほど効いていた。それ以降の試合でも相手に対策されカスタマイズを強いられた大分。上位対決でありながら雪辱戦でもあるゲームに町田はどう挑むのか注目していた。

大分のボール保持・前半

大分のボール保持は442。ビルドアップフェーズは2バックにセンターハーフのアンカー化の動きがベースになっている。ゴールキーパーを含めて菱形ビルドを行う。ボール前進フェーズは2枚のセンターハーフとインサイドハーフ化する渡邉と降りてくる中川寛斗での中央3レーンによるボックススタイルへと移行する。町田のセンターハーフ脇のスペースに立ち、ウイングハーフとなる松尾勇佑、高畑奎汰を加えたW型で速攻の展開を作る傾向があった。大分が疑似カウンターと言われるアタックを好んでいるのは変わりない。

町田はファーストディフェンスで主にステイを選択した。ビルドアップを得意とする西川幸之介とセンターバック間は前回に比べて高さが保たれており、ハイプレスを回避しやすい構造だった。なのでプレッシングはときどきにして、数的不利のリスクを保有することなく相手センターハーフへのパスコース遮断を優先した。ボール保持で自由を得た大分のセンターバックは運ぶドリブルを織り交ぜながらサイドからの攻略を図る。町田のサイドハーフは中川の下りる動きを規制するために中央封鎖を優先しつつ、サイドにスライドして迎撃に出る運動量を強いられていた。その状況を一方的にさせなかったのが翁長聖で、守備ラインから飛び出してのサポートや裏のケアなどの対応で大分のボール保持の局面を終了させていた。

大分の一方的な試合展開にならなかった他の要因として、町田のゲーゲンプレス回避が機能していたことも挙げられるだろう。中川がボール保持で降りる構造上、ボールを後方に戻せば即時奪回に来るのは伊佐耕平の単騎プレスになるので横へのドリブルとパス循環をすれば容易にリトリートさせることができた。そこから縦やポケットへの攻撃を選択してセットプレーを織り交ぜることでこちらも脅威を与えていた。余談だが町田は3:50くらいのコーナーキックで前回の対戦で決めたのと同じトリック(サイドは逆)をフェイントとして活用するデザインプレーを仕込んでいたが、大分のトラウマとなったかは定かではない。

町田のミドルゾーン守備を把握した大分の次の手は上夷克典のインサイド化だった。中川との上下動の連携で安井の守備の基準点を攪乱させ松尾にボールが渡るようになる。その振る舞いはクラモフ山形の川井歩に近い動きだった。町田は自陣ブロックに後退するケースが目立ち始めるが、相手のチャンスメイクの部分で体を張って跳ね返していたのは流石だった。DFはペナルティエリア内をゴールエリアの幅で守る。ボールサイドにはサイドハーフとセンターハーフのチャレカバで対応する。逆サイドから中央に絞る献身的な安井の貢献度は、荒木駿太の動きを上回っているかもしれない。

先制したのは町田だった。大分は上夷のいる右サイド側だけでなく左サイドから効果的な侵入が可能か模索したのが仇となった。縦に刺してきたパスをチャン ミンギュの迎撃で得たセットプレー。下田北斗のクロスをエリキがフリック。デルランが処理しきれずこぼれ球に即座に反応したミンギュがゴールを叩き込んだ。シュートまではいかないものの良い展開を導き出せそうだった大分にとっては、色気を出してしまい痛恨の一撃と言える失点を許して前半を折り返すこととなる。

大分のボール保持・後半

ハーフタイムに渡邉→藤本一輝、伊佐→サムエルの交代を行った大分。ビルドアップでは池田廉が降りて縦パスを繰り出す形を見せる。ターゲットは始めから高い位置を取る上夷のようだ。また中川の下りる位置がボランチ位置まで低くなり池田と入れ替わる動きも見せた。ミドルプレス継続の町田は中川に対してマンマーク気味に付くよう修正をしてきたが、ファーストディフェンス辺りで入れ替わる中川・池田に縦パスを入れられないようにしつつブロックに戻っていった。結局は前半同様に松尾にボールが渡り、グラウンダーのアーリークロスからサムエルにあわやゴールの場面を作られたのを手始めに危険な場面が続いた。センターハーフの池田と野村直輝による中央レーンでの縦関係は5人のアタッカーの潤滑油となっていた。

最大のピンチは52分に訪れた。大分のリスタートからのビルドアップで上夷が一気にサイドバック裏まで駆け上がりサムエルとのコンビネーションからポープを交わす。そこから3連発のシュートを浴びることになるが、ポープが飛び出したことで帰陣の時間を作り出していた。そして戻ったディフェンス陣が身体を投げ出して守りぬき最終的には残念、そこはポープ ウィリアムだった。その姿はまさに黒田哲学の真骨頂だったと言える。

町田は手を打つのが早かった。57分に安井に代わり荒木を投入し運動量を維持を図ると次第に試合は硬直化する。効果的だったと思われた上夷のアタッカー化に質が伴っていないためだ。古より偽サイドバックの弱点は偽サイドバックという諺がある。複雑な可変は相手を剥がせなければ時間の浪費であり不慣れな位置からのミスを発生させ、そして3列目での空洞化やミスマッチを生む。右サイドのボール前進から町田のミドルゾーン守備に引っ掛けてしまった大分は再び左サイド要因でビルドアップのミスをする。そして3列目に戻したところをエリキが奪い独走から追加点を挙げる。

この時点で試合は決着していたかもしれない。大分の精神的ダメージはそれくらい大きかったと思われる。町田のミドルプレスや自陣ブロック守備からのトランジションは、大分の偽サイドバックや縦関係のセンターハーフの位置的な欠点を突き長短のカウンターが発動する場面が増えてきた。さらには大分の前プレも回避して前進する。何でもできるを目指す町田を前に大分は詰んでいた。猛攻を喰らった後半の立ち上がりと比べ、60分以降の町田の被シュートはわずか1本だった。大分はファウルが増え始める。そして87分、ペナルティエリアの脇で得たフリーキックで西川がファンブルしこぼれ球吸い寄せマンのミンギュからアシストを受けた翁長が3点目を奪い正真正銘試合を決着させた。

おわりに

町田がセットプレーからスコアを動かし主導権を握ることができたのが大きいという前提があるけども。

現代のサッカーはボール保持を志向するチームが多いがその実が整わないことはよくあることだ。そして後ろにボールを戻す場面でミスをしたら、残りはベクトルが後ろとなっているビルドアップユニットとキーパーしかいない状況が生まれる。そのリスクを覚悟しながら振る舞われる大分の攻撃に対して、町田は決死の守備と交代策で凌いで一発に繋げた。この駆け引きに感嘆し歓喜できるのは、このサッカーをそして勝利を信じている者や理解している者だけかもしれませんね。まあ大分がボール保持にトライし続けるのであれば、我々は喜んでボール非保持にトライし続けるし学び続ける。それだけです。

貴方の心の中にいる神に祈りましょう。
それでは🙏

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