【J1マッチレビュー】川崎フロンターレvsFC町田ゼルビア【2024 第7節】

Attack Momentum by Sofascore

策を練って臨んだ広島戦に敗北を喫した町田は中3日で次の相手、川崎フロンターレに挑む。町田は広島戦の翌日トレーニングをオフとした。リカバーよりもメンタル面の切り替えを重視。また、スタッフ陣が広島戦で浮き彫りとなった課題や次の準備に時間を当てるためと言った要素もあるようだ。

町田は広島戦とは変わって鈴木準弥を起用した4-4-2軸に戻している。川崎が4バックというのが主な理由だろう。余談だが広島戦での3バック採用はNHK「スポーツ×ヒューマン」で黒田監督が4連勝できたからこそ変化が必要であり、マンネリ化の防止や新たなチャレンジの旨を後にコメントしていた。であれば3バック相手であれば採用するのかとこの試合以降も注目していたが、5/11 湘南ベルマーレ戦においても4バックだったので、この時点で3バックの挑戦はひとまず棚上げとしたと思われる。

回帰を選択した町田に対し、川崎は試行錯誤の段階だ。第2節からの3連敗によりシステムを4-2-3-1へと変えている。更にこの試合では家長昭博の移動による左サイドのオーバーロード戦術を取り入れてきた。川崎は密集地帯で小さなパスを連打して町田の自陣守備を攪乱しながら前進を図る。

ただ町田の自陣サイド守備は狭い4-4-2ブロックを軸とするため、とりわけ不利な対面となるケースは少なかった。川崎からしたら左サイドに集結させ、右サイドバックに起用した瀬川祐輔をフィニッシュ役とする狙いのアタックだったが、オーバーロードでの突破はいままでの緩急の付け方とは異なるやり方だからなのか練度は低く、町田は川崎に決定的な場面を作らせなかった。

町田のボール保持の観点からすれば川崎のオーバーロードは棚から牡丹餅だった。町田が対川崎に用意してきたのがサイド突破からのクロス戦略だったからだ。立ち上がりから右利きの藤本一輝が縦突破+左足でのグラウンダーのクロスを上げる振る舞いは明確に仕込まれたものだろう。ただでさえ弱点である川崎の右サイド守備。そこにオーバーロードによりアタッカータイプのサイドバック起用と移動によるスペースの発生という利が生じる。川崎の諸刃の剣がどちらに効果をもたらすかの様相で試合が進む。

試合の主導権を握ったのは町田だった。川崎はオーバーロードを軸とする割にはゴールキックは蹴ってくるため、町田の自陣守備は整っている状況でショートパスのアタックを待ち受けることができた。川崎がボール前進をキャンセルし再びビルドアップを展開すると町田は4-2-4へと移行し圧力をかける。

実際には平河悠が家長のお出かけも含めてサイドのケアで低めの位置に留まらなければならなかったし、守備陣は家長をサポートし自らフリーマンとなる脇坂泰斗や脅威でしかないエリソンらのマーク交換に細心の注意を払っていて難しい状況だった。そのような中で川崎の3-2ビルドアップに対する前からの規制に連動して守備の基準点を整える仙頭啓矢のマーク交換の判断が素晴らしかったのが8分の柴戸海によるボール奪取であり、前半のターニングポイントになったショートカウンターの場面だったと思う。

川崎がボール保持で萎縮している間に、町田はカウンターからセットプレーによる攻撃回数も増やしていく。その後はオ・セフンのターゲットや仙頭の暗躍などを左サイドの相手ボランチ脇に集中させる。川崎のボール非保持はミドルゾーンでのセット守備が基本となっていて積極的なプレッシングを仕掛けてこなかった。そのため容易に地上からのボール前進が可能な状況となっていた。町田の縦志向の振る舞いに負荷が高くなるジェジエウが筋肉系のトラブルを抱えながらプレーする姿が画面に映し出される。

32分の藤尾翔太による先制点は以上のような背景から奪えたものだった。サイドバックを起点とし、ボランチがクッションに入りサイドを巻くようなスルーパスを仕掛けることによるサイドアタックは町田のメインアタックのひとつとなっている。グラウンダーのクロスはチョン・ソンリョンの守備範囲を意識したものでもあった。藤本一輝は見事に与えられたタスクをやり遂げた。

スコアが動いた後は山本悠樹がボランチとしてボールを捌く振る舞いを増やし、家長、脇坂、さらには高井幸大がボール保持で活きる場面が増えはじめる。町田は前線でボールを奪うよりも、ボール保持で後方からの単調なロングフィードを行う場面が目立つようになる。

後半は川崎が瀬古樹と遠野大弥を投入。家長は右サイドでターゲットマンとなる場面が増える。対面する林幸多郎は前半の競り合いでラフプレーによる警告を受けたことからも分かる通り空中戦の強みはなく、川崎にセカンドボール回収を含めた納め所を与えることとなる。川崎のその後の試合を見ていないが、家長をロングボールの納め所とするプランはチームに良い影響を及ぼしているようで、町田が教えてしまった感が無くもない。

町田は相手にひとつ起点を作られてしまうと脆い部分が露呈してしまう。その状況で起こる問題は広島戦と同じで、ボールを何とかしようとする意識や行動が起こすエラーの頻発性だ。とりわけデュエルではボールに吸い込まれ、ボールウォッチャーとなり、自分の体を上手く使えなくなる。広島との教訓により出足は改善されたものの、ボールに行き過ぎてしまい接近状態から相手に入れ替わられて前進される場面が増えていた。

66分にオ・セフンに代えて荒木駿太。セカンドボール回収や川崎のビルドアップユニットからのパスに規制をかけるチェイシング役として投入された。町田はこの頃には川崎相手に個人の裁量と根性論で戦う構図となっていた。70分、川崎陣内の被スローイン守備からのプレッシングはU字展開により不発。荒木と同じく66分に投入された小林悠の裏抜けによる決定機をプロフェッショナルファウルで阻止した谷晃生は一発退場となる。

町田は福井光輝、奥山政幸、昌子源を投入し5-3-1の布陣を敷いた。残り時間は30分近くあり、開幕ガンバ戦のアゲインが想起される。案の定、川崎にボール保持で完全に主導権を握られることになるのだが、町田はガンバ戦の時とは様相が異なっていた。

川崎の自陣ビルドアップでは5-1-3からの前プレを挑む。川崎のビルドアップユニット4枚に対しての3枚でのファーストディフェンスは当然交わされてしまうが、中央に柴戸海が鎮座することにより川崎のボール前進をひとまず外側に方向づけさせる。後方では各レーンに人を配置することで安易な抜け出しやクロスを根性で許さない。自陣ブロック守備ではファーストディフェンダーたちが戻り二度追いやチャレカバで寄る守備陣のスペース補間を行う。

そして守備陣による身体を投げ出す守備により最後の所で失点を許さない。退場者を出しながらも町田は普段の守り方を発揮できていた。後で分かったことだが、町田はガンバ戦の後に退場者が出たときの振る舞い方のトレーニングを実践したようだ。その準備の徹底ぶり、そして何よりもピッチ上の選手たちが最後まで走りぬいたことで川崎の猛攻を凌ぐことができた。

追加タイム8分も耐え抜いて町田がクリーンシートで勝利する。退場者が出た方のチームが11人のチームと同じ総走行距離数であること。ホイッスルが鳴り響いた後に座り込むホームチームに対して誰一人座り込まなかったこと。我々のスタイルがどんな揶揄をされてようが、誰もこの差を否定することはできない。

所感

期間を空けて振り返ってみたが、色々な特徴が現れた興味深い試合だと改めて感じた。まず広島戦からの改善は見られたのかという観点が非常に難しい。前述した通り広島戦はチャレンジ性が強いため選手が適応できていない側面があり、システム回帰により安定を取り戻したという印象が強い。

また、チーム戦術に綻びが生じた際の個々の局面の脆さについては全員が抱える根本的な課題であるためすぐに改善されることはなく、川崎戦でも問題として表れている。

そのような中で川崎が試行錯誤のオーバーロード戦術を採用し、試合中に浸透する前に先制できたことは非常に大きかった。課題は曖昧になった部分もあると思うが、勝ちながら改善していけることに意義がある。

何よりも勝敗を分けることになる退場者ありきのシミュレーショントレーニングの実践。黒田監督の周到さやマネジメント性がピッチの答えとして表現されていた。これが黒田ゼルビアだと言えるような特徴的な試合だった。

試合結果

明治安田J1リーグ 第7節
2024年4月7日(日)15:03KO
Uvanceとどろきスタジアム by Fujitsu
川崎フロンターレ 0-1 FC町田ゼルビア
32'藤尾 翔太

晴 / 22.1℃ / 56%
主審 山本 雄大 副審 浜本 祐介、船橋 昭次
第4の審判員 阿部 将茂
VAR 榎本 一慶 AVAR 日比野 真

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