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娘の初海外旅行はマカオのヴェネツィアで【母娘マカオ2人旅記録①】

荒天予報のマカオへ、いざ

大雨、雷雨、雷雨、雷雨——。

旅、となるとまず気になるのが天気だけれど、出発1週間前に見ても、3日前に見ても、前日に見ても、マカオは全日程迷いのない荒天予報だった。一緒に天気予報を見ていた娘ががっかりしてはいないかと「雨なりに楽しもうね、エッグタルトをたくさん食べるとか」と声をかけると、むしろそのほうがいいと言わんばかりに「はーい!」と高く手を挙げる。エッグタルトすなわち、ポルトガル発祥の「パステル・デ・ナタ」。娘いちばんの「旅の目的」だ。

一方のわたしは雨具を詰め込みつつ「まあ大丈夫でしょう」とタカをくくっていた。「だってこれまで海外行って荒天になったことないし」という、義務教育が嗚咽してしまうくらい、なんの根拠もない理由で。

海外に出るのは2016年ぶりだ。2017年に出産し、そろそろ娘を海外に連れていこうかと思った矢先のパンデミック。海外どころか東京から出ることもままならない日々がはじまった。——いや、どうしようもなくそぞろ神に取り憑かれているわたしは感染が落ち着いたタイミングを見計らっては知床や阿蘇、富山、広島などにふらふら行っていたし、「明け」の後も青森や軽井沢を訪ねたりはしていたのだけれど。でも、でも、「未知」はぜんぜん足りていなかった。

6月、ちょうど本の原稿を書いているときに「そろそろ海外どうですかね」とそぞろ神が肩を叩いてきた。するともう、心くるわずにいられない。抱えている本を脱稿したらできるだけすぐに出発したかったこと、ビーチリゾートではない場所に行きたかったこと、いつかまたポルトガルに行きたいと思っていたことなどをまるっと考慮して10分くらいでマカオ行きを決め、そのまま2週間後のフライトとホテルを2人分、確保した。

娘と2人旅にしたのに深い理由はない。友だちと旅行するより1人旅のほうが調整事項が少なくて楽なのと同じように、メンバーが少ないほうがフットワーク軽く動けるだろう、くらいの気持ちだった(現に、夫の予定を確認する前に「申し込む」ボタンを押せたわけで)。娘とはすでに箱根や盛岡など2人で行っていて、不安もなく自然とツーピースになったのだった。

けなせば短慮、ほめれば決断力があると言えるだろうか。いかんせん、とにかく「外」に行きたかったわたしは成田空港駅に降り立ち、カートがとおらないよう設置してある狭いバーをすり抜けたとき、それだけで胸がいっぱいになった。この、唯一無二のざわめき!

マカオ航空。ちいさな機体で日本人は少数だった。便の多い香港に行く人が多いのだろうか。

子連れ旅で特別に用意したものは、子ども用パジャマ、子ども用歯磨き粉、レインコート、靴2種(サンダルとスニーカー)、クーラー避けのカーディガン、酔い止め、絆創膏くらい。「必要だと思うものは準備しておいてね」と伝えたらあとはなんとなかなるでしょう。……という雑な荷造りだったけれど、娘はサングラスやトイカメラなどを自分のリュックに詰め、2人分の荷物はひとつの機内持ち込み用キャリーケースにきれいにおさまった。

空港の書店で娘の好きなシールブックをひとつ調達して、いざ。

3泊4日、2人分。10泊以上の旅もこれで行ったので小荷物なのかもしれない。使い勝手のいいソフトケース派。地味だけど。

マカオのヴェネツィアに泊まりまして

機内での娘は、リクエストどおりiPadにダウンロードしていた『私ときどきレッサーパンダ』を夢中で鑑賞。映画1.5本、機内食、少しだけ夕寝、目を覚ますとそこはもうマカオの上空だった。

高度を下げる飛行機の窓から外をのぞく。……ほら、雨じゃない! なにが「ほら」なのかはわからないけれど、ともかく、それだけで100点満点だ。到着後、「これで合ってるかな」とそわそわしながらホテル行きの無料シャトルバスに乗り込んだ。空港からホテルへの道は、いつも少しだけ緊張する。バスの中で「通貨はパタカ、パタカ×17円、消費税はなし」と頭にたたき込んだ。

宿泊したのは『ザ・ヴェネツィアン・マカオ』。「ホテルの中に運河があるんだって」とおもしろ半分で予約したけれど、車寄せに降り立った瞬間ほんとうに笑ってしまった。

大げさなほど豪華絢爛で、そしてどこか嘘っぽい。総工費2500億円、マカオにあるのにヴェネツィアを名乗る時点で濃赤な嘘なのだから、それは「そのとおり」なのだけど。

「きらびやか」を詰め込んだ内装には、10分でお腹いっぱいになる圧がある。立っているだけで、そのエネルギーに飲まれてしまうような。贅沢であることとおだやかであることの両立について考えながら、5歳児とは「すごいね、金ピカだね」とだけ言葉をかわした。

しかし後に「ここにしてよかった」と心底思うことになる

部屋に荷物を置き、ホテルのあるエリアをぐるりゆっくり散歩する。ウェストミンスター宮殿とビッグベンを模した「ホテル・ロンドナー」、実寸の1/2のエッフェル塔が建つ「ホテル・パリジャン」、そしてわたしたちが宿泊している「ヴェネツィアン・マカオ」は隣接している。ここに来た日本人の2〜3割は東武ワールドスクエアを想起するのではなかろうか、と思ったけれど、それは娘には伝わらないので黙っておいた。

七色に輝くエッフェル塔を眺め、首を回してビッグベンを見上げる。蒸す夜風は、東京よりもやや重たい。

ロンドン、パリ、ヴェネチア、マカオ——いったいここはどこなんだろう。このふしぎさも、娘はまだわからない。ひとりふわふわとした気持ちのまま「とくべつね」と夜食にエビシュウマイを食べる。
それでも夜食を食べ終わり、青島ビールをすべて流し込み終えるころには「ついに来たんだな」という実感がじんじんとわいてきた。
「明日にそなえて寝よっか」。すこしだけ眠そうな娘に声をかけ、部屋に戻った。

②へつづく

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