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一人目 ある男の友人の独白。

「えぇ。今回の事件ですね。わかっていましたとも。
いずれは私が呼ばれる事になるだろうと。
そして彼について話さなければならないだろう事も。
いやいや・・・・全くもって迷惑ではございません。
それどころか何時かは私が語らねばならないと思っておりましたから。
彼の名誉のために。
まずは言及させて頂きますが、が世間様のおっしゃる事実は全くもって遺憾そのもの。
嘘も甚だしいものです。

あの女給仕についてですか?

いやいや酷い奴ですよ。本当に酷い。全くもって恐ろしい。
しかし発端はきっと私なのですからその点については弁解の使用もありません。
この話を語るにはまず彼の話をしなければなりません。
何を隠そう私は彼の幼馴染でありますから、彼の人柄についてお伝えしたいと考えております。
しかし私はこれでも軍属の身。名は伏せておく事が条件でございます。
まぁきっとこの記事を読む人が読めば誰かは分かるだろうとは思いますが・・・・彼はなんとも悲しい男なのです。
共に国のために思いを馳せて、軍属となってからは正に品行方正であり軍属の鏡の様な男でした。
酒もタバコも女もやらぬ。
戒律の中で生きており上官の評価も上々。

嫉妬は無かったのかですって?

そりゃ最初の頃は憎みもしました。しかしながら彼の生き様を見ているとね。

どうにも憎めないのですよ。

幼馴染ですからね彼の事はなんでも知っているのです。
何を隠そう子供の頃はそりゃ素直な子供でしたよ。
共に悪戯はやりましたがね。
その度に彼の父上にこっぴどく叱られたものですよ。ハハ・・・なんとも懐かしい思い出です。
その父上もまた酷い死を遂げて・・・家系なんでしょうかね。
因縁なのでしょうか。
血の理とは恐ろしいものです。
彼の父の死ですって?貴方も記者の端くれならば知っているでしょう?
酔っ払いを斬り殺しその場で腹を切った軍人の話。
えぇえぇ・・そうです。
酔っ払いから身を守るために仕方がなく軍刀を抜き、結果斬り殺してしまった。

そしてその場で面目を保つために腹を切った。
男の中の男というべきか。
面目を保つために死を選ぶなど。
葬式も立派なものでした。
軍の上層もまた来られましてね。
彼の母など終始平頭しておりました。
立派な軍人だったと言われては涙も止まることもなく。
しかし母とは違い彼は泣かなかったのです。

父の亡骸をじぃっと眺めておりました。

思えばその時からですかね、彼が軍人を目指そうとしたのは。
立派な軍人でしたよ彼は。
しかし血の理とは恐ろしいものですな。
あんな女給仕に出会ったばかりにあんなことになるだろうとはね。
兎に角私がお伝えしたいのは彼は私の友人として立派な男であったこと。
そして血の理に縛られた運の悪い男という訳です。」

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