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駆け上がって堕ちていく

首の血管が波打っているのがわかる

いつもより早く、いつもより強く

誰よりも早く走れるだろう

今夜の全ての明かりは私の手の内にある

両手に握りしめたその光が、手の中でうごめく

その振動を感じた掌は汗ばんで震えている

目が乾く前に、視界の全てのものをとらえてしまうから

まばたきは余計だ

今日こそは身体を引き裂けるかもしれない

期待と喜びで身体中の血は冷え切っている

脳の深部を冷やすため

より冷静に確実に仕留めるため

握りしめた掌と、噛み続けた唇は

身体が粉々になってしまわぬよう

血を滲ませて耐えてる

こんなに力を込めて封じ込めたはずの夜の光は

小指と掌の隙間から見つからないように出ていって

たちまち元の世界に戻ってく

身体のあちこちから滲んだ血を

洗い流す雨を降らせに戻ってく

雲もないし風もない

空は捕まってしまう前に戻っただけ

星たちは残酷に明日の方へ進んだだけ

その悲しみを伝える代わりにシャワーを降らせて謝ってる

謝ってるのは空なのか星なのか

本当に謝っているのは腎臓や膵臓や脳や眼球や血管の一つ一つかも

空気と臓器たちを隔ててくれる皮膚だけがそれを知っている

(躁状態の自分の感覚をひたすらに書き殴る)

田中そう子


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