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「映画かよ。」の解説かよ。 Ep42 グリーンカード|勝手に解釈すればいい

2023.4.3 update
(写真は全て駒谷揚さんから提供)

 3シーズン目に入っている、駒谷揚制作・監督によるYouTube短編映画シリーズ、「映画かよ。」。Ep42「グリーンカード」が配信されている。

Ep42 グリーンカード

 映画オタクのミノル(伊藤武雄)は、いつも映画に関するモノの調達を依頼しているスズカ(佐々木しほ)から珍しく呼び出された。中国人のファリン(璃娃=Reiai)と偽装結婚しろという。ファリンの書いた脚本が映画会社に売れて、監督の依頼もあるのだが、就労ビザが切れてしまうため、ビザ延長のための面談に婚約者として赴き、もしそれがうまくいかなかったら結婚しろという。「映画のためだったら何でもするわけじゃない」と断るミノルだが、脚本を読んでしまい、その出来栄えに感動して、協力を申し出ることに。だが、ファリンは、「私は面食いだ」と言い出し、ミノルの申し出を断る。

 「映画かよ。」は分解すると、ストーリーという縦糸と、「映画かよ。」の要素という横糸があったら、縦糸が長く細め、横糸が太く短め、という組み合わせとなる。「映画オタクによる、映画オタクのための、映画オタクの映画」がウリのこの短編映画シリーズでは、この横糸こそ、映画のシーンやストーリーのパロディーという要素であり、その太さこそが生命線。映画オタクが観ると、そこに共感したり、突っ込んだりできる面白さがキモとなるので、「あー、おもしろかった」でキレイに観終わるパターンがほとんどだ。

 今回は完全にストーリードリブンで、縦糸が長く太めで、横糸は短く細いのだが、シャープに切り込んでいる。「映画のためならなんでもする」というストーリーを動かす根本の動機は究極的なオタクのものだけれども、ストーリーの流れ自体は直線的で、いつもの「やっぱり、そっちに行くんかい!」という展開も少ない。こういう作り方もありか、という新しさを感じた。

ミノルが男前に見える珍しいエピソード

勝手に解釈すればいい

【ここからネタバレ】
 メインとなるのが外国人のファリンの話である。また彼女は優秀なクリエーターだが、行動が突飛で、ミノルいわく「ろくでもない性格」だ。この設定が彼女の考え、行動力を予測しずらく、観る側を煙に巻くように作られている。だから、観る側の解釈が多様に成り立つ構造になっている。

 それゆえに、個人的に、大々的に、勝手な解釈をしてみた。そう思ったのも、これまでにはない、「あれ?」というミノルの行動があったからだ。脚本をやぶりながらミノルが泣くのだ。この涙は何なのか。このシーンがあるがゆえに、本編にはないフラッシュバックが頭の中で勝手に流れて、一気にストーリーの伏線を回収した。

 スズカは、ファリンの才能が埋もれてしまうのがもったいないと勝手に気を回し、ミノルに偽装結婚を依頼したのだとしたら。とはいえファリンは、最初から断るつもりでミノルと会ったのだとしたら。ミノルは写真を見てファリンを気に入り、脚本の出来うんぬんではなく、実はただ会いたいと思っただけだったとしたら。そして、ファリンもミノルと直接会って興味を持ったとしたら。でも、その先には、国に帰るという未来が待っているから、期待させないように、破天荒な行動を取り、嘘をついているのだとしたら。ミノルはそれを見抜いていて、それでも純粋な好意から、最後まで彼女に協力したのだとしたら。ファリンが脚本を捨てる際に、「書いたときの私はもうどっかにいっちゃった」と言ったのは、諦めるための言葉だとしたら。言葉にせずとも、二人がたがいの好意を感じ取っていたとしたら。彼女の未来に対して、何もできない悔しさからミノルが泣いたのだとしたら。でも、手紙というわずかな希望で、未来がつながっているという意味でのあのラストだとしたら。

 完全に恋愛映画。男が昔の女を不器用に思い続ける話が、ウォン・カーウァイ映画っぽいなと思った。ミノルがトニー・レオンに見えてきて、最後、届いた手紙をミノルが見つめているシーンでは、フェイ・ウォンが歌うクランベリーズのカバー曲「Dreams」が、ダダダーンとかかった。

 Ep 42 恋する惑星 でよくないか?

 ミノルが脚本をやぶりながら泣いたのはなぜなのか。クリエーターの駒谷揚監督に聞いた。

 「解釈次第だけど、彼女の残念な思いに共感したというか。(ファリンが脚本を捨てた理由は)日本を無条件で大好きだった自分が書いたものを今読むと、『これは違うな』って思ったのではないか。ミノルはそれがいろんな意味で残念だったのかなと」

 あれ。ミノル、「単にいい人」説? 自分の解釈と全然違うぞ。

 「この映画を観たほうが良いか否か」という議論がある。小説、音楽、絵画、アート作品、何でもいいけれども、多くの人からの評価が高いものを指していうのなら、そういうものがあるのかもしれない。ただ、本来、映画もアートも、それぞれの作品と自分だけの関係性が一番楽しいものではないだろうか。だから良いも悪いもない。勝手に解釈すればいいのだ。

「映画かよ。」のリファレンス

【「映画かよ。」公式YouTubeサイト

「映画かよ。」ウィキペディア

駒谷監督はこんな人↓

駒谷揚監督インタビュー(Danro)

「映画かよ。」に関するレビュー↓

トリッチさんによる
カナリアクロニクル」でのレビュー

Hasecchoさんによる
「映画かよ。批評家Hasecchoが斬る。」
YouTube「映画かよ。」のコミュニティーページで展開

おりょうSNKさんによる
ポッドキャスト「旦那さんとお前さん」

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