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「役に立ってるフリ」が上手いポータルサイトにはならないと決めた|葬儀ネット集客

ポータルサイトを運営していると企業から「ポータルサイトに掲載しても良いことがない」と言われることがある。こういう時、同業者がやってきた「役に立ってるフリ」を恨みたくなる。

はじめまして、株式会社グッドオフの田中孝一です。長年企業向けにWEB領域のマーケティング/広告戦略を支援してきました。今は葬儀ポータルサイト【葬儀のデスク】を運営しています。インターネットが大好きで、葬儀業界にWEBマーケティング/テクノロジーのソリューションを持ち込もうとしています。noteでは準備中サービスの裏側などをいくつか執筆していこうと思います。

冒頭のやりとりは葬儀社から言われた言葉です。「ポータルサイトは悪い存在」と捉えている葬儀社がいるようですが、なぜそうなってしまったか?また、実は一般消費者も弊害を被っています。サイト運営者という立場で解説します。

「このクリエイティブ攻めてるね」
少し話が逸れますが、広告業ではこの言葉をよく耳にします。自社商品がベストプロダクトである、競合商品よりも優れていると知ってもらう(思ってもらう)ための表現を駆使するのは企業努力です。ルールのギリギリ、媒体承認のギリギリのところを突く、のはヒットさせるための広告マンのスキル・工夫だとも言えます。

しかしこういった努力や工夫を横目に、「ルール違反の広告表現」はしばしば起こります。

「葬儀ポータルサイト」のルール違反
ルール違反の広告表現が起きているのが「葬儀ポータルサイト」です。
普段あまり考える機会がない「お葬式」について、さらにほぼ知らない「葬儀社」の業界課題を解説し、”消費者のデメリット”についてもお伝えします。多くの方が一生のうちで経験する可能性が高いことなので、この機会に是非参考にしていただきたいです。

■葬儀業界は成長産業?

日本の死亡人口は2020年の137万人から増え続け2040年には年間168万人(1日あたり約4,600人)までに増え、生まれてくる人口よりも死にゆく人口の数が上回る時代がきます。

死亡者が増えるとお葬式の案件数も増える。そう考えて弊社はポータルサイト【葬儀のデスク】を開設した。開設にあたっては葬儀場やお葬式に対しての個人的な想いもあったけれど、もちろんビジネス的な打算もあった。

しかしいざポータルサイトを運営すると、そんな打算が吹き飛ぶほどにポータルサイトは儲けにくいし、葬儀場は不遇の時代を迎えていることが分かった。その理由は”葬儀単価の下落”だった。


日本の葬儀は、高齢化や家族の形態変化によって長期的にみて規模の縮小が進んでいる。葬儀youtuberとして著名な佐藤さんは下記のように言及している。

スクリーンショット 2022-01-13 16.16.55


なぜ案件数は増えるのに不況に陥ってしまうのか?
昨今の大きな原因は3つある。

1:「広告表現は企業努力」本当にそう?

2000年代、インターネットでユーザーを集めて全国の提携葬儀社へ依頼するサービス「葬儀ポータルサイト」が誕生した。ポータルサイトを利用することで、消費者はそれまでできなかった”複数社の比較検討”ができるようになって、葬儀社は自社でカバーしきれない”ネットユーザー集客”ができるようになった。これは大きなメリットである。

しかしいくつかの問題も生み出した。
その代表例が「偽りの広告表現」だ。

●偽りの広告表現
まずはこのイラストを見てほしい。某 大手葬儀ポータルサイトの掲載情報をほぼそのまま書き起こしてみた。

比較1

比較2

まるで”自社努力で料金を安価にできた”ように見せてミスリードしているのだ。さらに悪質なのは「追加料金なし」と表記していたことだ。必ず必要になる”火葬料”を無いものかのように表現したのだ。

これを見た消費者が「ここだけこんなに安い」と誤認して依頼をしたら必ず追加料金が発生するので国民生活センターには多くの苦情が寄せられることになった。

一方、葬儀社は自社サイトで真面目に適正価格を提示していたら相対的に”高額に見えてしまう”という実害も発生した。この偽りの広告表現を某 大手ポータルサイトは当たり前のように掲載していた。

1つの広告表現が、消費者・葬儀社どちらにとっても不幸を招く結果を生んだのだ。(もちろんポータルサイト側は想定済みだろうが...)

え、これ放っておいていいの?
ご心配なく。このサイト、これまで何度も消費者庁から景品表示法違反の勧告を受けて課徴金数億円の納付を命じられているほどには”悪質だ”とみなされている。(2022年1月現在、改善されていない)

●例えるなら「エンジンが無いアルファード」

某 葬儀ポータルサイトでは、ユーザーを意図的に勘違いさせている。

アルファード

想像してほしい。
中古アルファードを購入したらエンジンやハンドルがついてなかったら?当然、必要な装備は追加購入しなければならないが、その結果他社よりも高額になったらその怒りはどこにぶつければいいだろう?

大手葬儀ポータルサイトではこのやり方で「追加料金なし」と大々的にプロモーションして自社プランを販売してきた。

「いかに自社サービスをよく見せるか」は、企業努力だしクリエイティブの工夫だと思う。しかし、偽りの広告表現でユーザーを釣り上げて自社に無理やり誘導して後は知らんぷり、ではルール違反だ。消費者にとっても葬儀社にとっても、なにひとつ良いことがない。

2:葬儀ポータルサイトは「役に立ってるフリ」が上手い

2つ目は、ポータルサイトが「役に立ってるフリ」していることだ。
葬儀ポータルサイトは、ユーザーが葬儀を問い合わせてきたら該当する地域の葬儀社に送客する受付窓口的な役割がある。葬儀社は新規顧客との接触機会が得られることになっているが、これはまったくのタテマエに過ぎない。

実は、ポータルサイト運営会社は大手葬儀社の傘下企業の場合がある。つまり、ポータルサイトで集客したユーザーを「儲かる案件は自社グループ企業」に、「利益のでない案件はその他の葬儀社」に選り好みできてしまうのだ。

「でもポータルサイトってそういう側面はあるよね」という意見があるかもしれない。確かに、Amazon内ではAmazonオリジナル商品もたくさん取り扱われていてテナント企業と競争は起きているだろう。
しかし想像してほしい。例えばAmazonに注文が入った際に、儲かる商品だけをAmazonが自社販売し、儲からない商品だけをテナントショップに担当させたらどうだろう?

〜〜〜
<葬儀ポータルサイトと葬儀社のやり取り>
「うちはユーザー数○万人いますから、手数料を払うだけで御社にユーザーを送客しますよ!」
「手数料が高いなあ..」
「大丈夫です。大規模案件なら利益額も大きいでしょうから期待してください」
「そういうことなら提携します」

〜しばらくして〜

「おたくからの紹介は小規模案件ばかりで手数料払ったら利益が残らないよ!」
「そういうこともありますよ」
「大体おたく、テレビCMで”小規模なお葬式”ばかり集客してるじゃない!そりゃこうなるはずだよ!話が違う!」
「そういうこともありますよ」
「しかも、自社名を名乗っちゃダメなんてヒドイよ!これじゃ頑張っても自社評価が上がらないじゃない!」
「でも今さらウチを辞めると御社も苦しいんじゃないですか?」
葬「ぐぬぬ...。もうポータルサイトなんて使いたくない!」
〜〜〜

こういった具合に、
「役に立ってるフリ」がうまいポータルサイトによって葬儀社は都合よく利用されてきた結果、冒頭のような拒否反応が起きてしまっている。
※もちろん全ての葬儀ポータルサイトがこのやり方をしている訳ではない。誠実なポータルサイトもあるし、リスペクトしています。

3:「お葬式は小さい方がいい」勘違いと、押しつけ

さて、これまでは某ポータルサイトの問題点について述べたが、3つ目は「小さいが正義」や「不要論」についてお話ししたい。

日本人の多くは「自分の葬式は小さくてよい」と答えるらしい。また昨今は、某・インフルエンサーが「お墓やお葬式は無駄」と発言したり、”葬式は必要ない”という主旨の書籍がベストラセラーになったり何かと”葬式不要論”が語られている。

確かに、工芸品のように高価な棺は一般人には向いていないし、身内や知人がいないのにわざわざ大きな会場を借りて大規模な祭壇を設ける必要はないかもしれない。それこそ小規模な1日葬や家族葬が適切だろう。

しかし、そもそも「お葬式をすると損する」のだろうか?

●「人を呼ばないお葬式=小額になる」という勘違い
家族以外を呼ぶお葬式をした場合、もちろんその接待費などが増える。しかし接待費の大半は「香典」で返ってくる。
つまり、お葬式の規模を大きくすると手出し金額が高額になるかというとそんなことはない。小規模なお葬式は「一見 安価に見える」だけの場合がある。(もちろん内容や仕様によるので一概には言えないがそれは逆も然りだ)

●「お葬式は小さい方がいい」というミスリード
「お葬式はできるだけ質素にしてほしい(=金額をかけてほしくない)」この勘違いは日本人らしい清貧な性格にハマっている美しき勘違いではあるが、やっかいなのはこの性格を利用してポータルサイトが「小さい方がよい」とテレビCMなどで大々的にプロモーションしてしまったことだ。

もちろん小さいお葬式が適している家族もいるが、前述のとおり「小さい方がよい」訳ではない。それが「不当に自社サービスに誘導するための方便」だったらなおさらだ。意図的にミスリードしているのだ。

●葬儀規模の縮小は良いことばかりではない
儀社ポータルサイトが生み出した歪みや過剰な価格競争によって葬儀単価は下がっていった。それに加え近年の葬儀規模縮小が相まって、儀式を簡略化する人が増えている。
後者は時代の変化という点で、葬儀社は受け入れなければならない。葬儀単価が下がるのも消費者にとって喜ばしいことだ。しかし其の実が、「安く見せているだけ」「集客するための不当な見せ板」だったら、とても容認できないだろう。

長い目でみると、誠実に適正価格で丁寧なお見送りをする葬儀社が淘汰されいくことになる。そして消費者は最期のお別れの時間を創る機会がなくなるのなら、誰かがどこかで歯止めをかけなければならない。

■お葬式は「やった方がいい」

最後に主観的な見解を述べるなら、お葬式はやった方がいい。ずばりそれは私が好きだから。好きというと語弊があるけれどお葬式でしか感じることのできないあの経験は得られ難いものだと思っている。

「爺ちゃんともっと話しておけばよかった」
「あの人の遺志をついで頑張ろう」
「人はいつか死ぬ。だから自分の生きがいを見つけよう」

お葬式という場は、何かを後悔したり、何かを契ったり、奮起したり、悲しみを癒す以外に、儀式の中で時間をかけて自分の生き方に多くの意味深さを与えてくれる特別なシチュエーションだと思う。

一方で、お葬式がなかったらどうか?
コロナウイルスが猛威をふるった2020年春、親しい知人の葬儀に参列できなかったからか、いつまで経ってもその人が亡くなったという実感がまるでわかなかった。

それはそれで寂しさが紛れる部分もあったけれど、人は人の死をきちんと実感することでそこから多くの思いをはせるものだと思う。その儀式としての葬式に参列できなかったことで、感情の行き場をなくしてしまったように感じた。

家族葬(身内葬)でも1日葬(お通夜無し)でも、弔いの場は様々だが、たぶん、お葬式は「残された私たちにとって」必要なのだ。

面白いデータがある。自社で10代の若者向けにアンケート調査をおこなったら、約半数が「お葬式とお通夜は必ずしなければいけない」と回答した。若者はお葬式に対して宗教的(心情的?)な価値観を思いのほか重んじているような結果になった。

20歳未満の若者120名アンケート(2021年 葬儀のデスク調べ)>

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【まとめ】葬儀のデスクは「役に立ってるフリ」はしないと決めた。

インターネットは本来「情報の格差をなくす」「便利なプラットフォーム」という便利で社会貢献度が高い存在意義があるのに、ネット葬儀業界においてそれが蔑ろにされてきたようです。

これまで1年間ポータルサイトを運営する中で、様々な葬儀社からご意見や業界の問題を聞いてきた。その中で、よくも悪くもビジネス的な打算はなくなっていきました。

適正な葬儀を消費者に提供したい。そして、志のある葬儀社の経営継続を支援したい。そこで弊社のポータルサイトは「手数料無料」にした。

これにあたって自社のステークホルダーから様々な反対意見もあったが、葬儀送客以外で収益性を確保できる戦略も説明し納得してもらえた。

という訳で、葬儀社は集客装置としての【葬儀のデスク】を大いに活用して自社集客してもらいたい。そして手数料が無くなった分消費者に還元される仕組みを加速させていただきたい。

このように、葬儀というものはインターネットの悪い部分が露呈して、葬儀社も消費者も不利益を被る事態になってしまった部分もありました。しかし私の大好きなインターネットは、本来とっても便利で役に立つものだと信じたい。

<率直な業界意見をツイートする考える葬儀屋さんが当サービスに言及>

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たしかに、業界の末席にいる私がどれほどこの事態を改善できるか、まだ未成熟な部分はあるが、意義のある大いなる挑戦だと思っています。

プラットフォームとして、ユーザーファーストであることは抑えつつ今まで培ってきたWEBマーケティングのノウハウを生かし、葬儀社にもメリットがあるサービスを提供し、ともに事業成長をしたいと考えています。

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