堀江貴文「成金」読書感想文
以外におもしろい。
素材がすき。
荒削りの青春小説という雰囲気。
ザックザックと話は展開していく。
荒削りだから、スピード感を増させている。
すごくいい点が、こういう企業モノや経済モノの闇となる部分には、すぐに暴力団を登場させて、ひどい場合はVシネマみたいなコテコテの暴力団を登場させて、ブラックボックスに詰め込んで終わりのパターンがありがちだけど、それが一切ないこと。
一切ない。
変な力学で、ごまかすことがない。
細部はともかく、動機を明快にしている。
そこがすごくいい。
頭、法、資金、知恵、才能、それらで登場人物が戦ってるところがいい。
セリフというか、語る内容も、さほどくさくない。
システムやスキームなどは、大雑把だけど、実業家としての体験に裏打ちされているのか、納得させられる。
1999年の7月の渋谷からはじまるのもいい。
ただ、当時の渋谷の様子を描くところは陳腐。
登場する街中の若者も、いかにも陳腐。
そのあたりは、ざっくりといらなかった。
そのころは、渋谷にいた若者だったから、なおさら陳腐だと感じてしまったのかも。
1999年の夏の渋谷で
その1999年の夏の渋谷では、催事販売をしていた。
軽くいえば、ファーコートのイベントセールス。
おしゃれ感でいえば、イタリア製の毛皮コートの展示販売。
はっきりいえば、毛皮コートの押し売り。
月に2度の会場には、今年の冬の新作だという毛皮のコートが300着くらいは並び、小室ソングなどが大音量でかかっている。
値札には、1着200万から300万の値がある。
理由をつけて140万くらいまで値下げするのだけど、もともとはイタリアで3万ほどで仕入れた毛皮のコート。
そんなコートが売れるのかというと、かなり売れる。
相手が買うというまで、帰さないからだった。
“ 商談コーナー ” で販売員が取り囲んで、ほぼ軟禁状態にして、ひたすら褒めちぎり、ときには威圧も泣き落としもして、それでも帰ろうとすれば土下座する者もいたりして引き止める。
その場でオリコのローンを組むのだった。
150万までは母印で組めた。
で、着せて帰す。
毛皮なので返品ができない、という理由をつけるためだ。
でも、クーリングオフという制度もある。
なので、会場は土日月で借りる。
3日間だと、訪問販売ではなくて、店舗販売になる。
クーリングオフの適用外となる。
恋愛が大流行していた
もちろん、若年の自分は末端の兵隊だ。
“ 人狩り部隊 ” の兵隊として渋谷の街でたむろして、歩く女の子に声をかける、
番号の交換して連絡もとったりして「毛皮のイベントがある」と会場にぶちこむだけで売値の30%が “ 代理店手数料 ” として手に入る。
こういったのは、バカほど成果が出せるようだ。
展示会が終わると、現金入りの封筒を立たせて見せるのだ。
そうさせることで、傘下の “ 代理店 ” も増やせた。
が、冷めてはいた。
稼いでも、自分の実力だとは、まったく思ってなかった。
変な時代だった。
街ではさかんに “ 恋愛 ” が宣伝されいて「恋愛をしなければ人間じゃない」と信じている女の子ばかりだった。
かわいくなりたい、楽しくなりたい、そんなことを求めて渋谷にくる女の子ばかりだった。
だから、どれだけ女の子に接しても、話すことなどいつも同じ。
せいぜいが2つか3つ、多くても4つほどしかない。
そこに “ 毛皮のイベント ” が、うまくはまっただけだと、当時から冷めていた。
当時の若者
本当に変な時代だった。
ただ、今を生きている若者には、それがわからない。
当時の若者には、・・・渋谷の若者に限っては、深刻さなどまったくない。
少子高齢化もないし、地球温暖化もない。
終身雇用も年功序列も、まだ、若者には信じられている。
日本は一億総中流です、貧困というのは発展途上国にあるのです、と経済学者もテレビで論じていた。
若者こそが、いちばんに消費がある層とされていた。
渋谷109には多くの若者が向かっていて、この1999年には “ カリスマ ” が流行語になって、カリスマ店員が現れた。
ちなみに、1999年に百貨店の店舗数がピークを迎えている。
そして下降していく。
くどいけど、変な時代だった。
その一方では、どこの駅前にもサラ金の看板が乱立していて、大手の利益は松下電器産業を超えたともニュースでいっていた。
サラ金や商工ローンといった貸金業が成長産業だと、それらの社長の手腕と共に、褒め称えている経済誌もあった。
これからは “ ゼロサム社会だ ” だと誰かが言っている。
もう日本には、成長が見込めないという。
誰かが損をすれば、誰かが得をする社会になると、ビルの壁面にある大ビジョンから、路上に声に降ってきていた。
誰かが誰かから奪うという行為は、法に反してなけば、割合と違和感なく受け入れられた、・・・少なくとも催事販売に携わる者はそうだった。
大きな目でみれば、刑法犯認知件数も、過去最高数に向かって右肩上がりしていくときだった。
2年後がピークになって、あとは下降していく。
・・・ 話が飛んだ。
読書感想文だった。
変な時代があったけど、それでも社会はいい方向に進んでいるとなぜか思えた、という感想か。
いま受刑者のオマエが、もと受刑者の本を読んでいうなって話だけど。
登場人物
堀井健史
4年前に、小山と “ オン・ザ・エイジ ” を創業。
大手からは傘下入りを打診されるが、自由に開発したいがために断る。
やがて、検索エンジンのプロトタイプを完成させる。
パソコンを1000台つないだシステムも構築。
低コストのネット広告配信で、店頭公開も果たす。
が、TOB(株式公開買付け)を実行され会社を去る。
新たに設立した “ ネクサスドア ” の代表して再起を図る。
裏では、チームAKKAのリーダーでもある。
東大の学生寮を拠点として6名が活動して、LIGHT通信の傘下の、ITベンチャーの若手社長を脅している。
小山完
堀井と共同で “ オン・ザ・エイジ ” を創業して代表となる。
4年で店頭公開。
資産50億のIT社長、カリスマ実業家としてマスコミにもてはやされる。
が、1年後に堀井と共に “ オン・ザ・エイジ ” を去る。
チームAKKAのメンバーでもある。
景山照栄
株式会社 LIGHT通信の社長。
1988年に、資金100万で、北池袋の風俗ビルの一室で創業。
携帯電話販売の『LIGHTショップ』を全国展開している。
鮫島の助言により、年間売上3億円の “ オン・ザ・エイジ ” に、30億での買収を打診する。
断る堀井を説得して、10億の転換社債を実行させる。
“ オン・ザ・エイジ ” が株式公開を果たすと、10億の社債は直ちに株に転換。
35%の株を取得して、TOB(株式公開買付け)を実行。
“ オン・ザ・エイジ ” の経営権を握る。
堀井と小山は、傘下に入るのを拒んで去ることになる。
鮫島十三
元津島証券エリート。
ハードバンクで買収や投資を担う。
ハードバンクにとって、LIGHT通信は潜在的ライバルとなり、早期に傘下に収めたいという思惑がある。
堀井の動きを調査して、鮫島のほうから連絡。
LIGHT通信の買収を本格化させる。
朴一誠
株式会社ハードバンク社長。
在日差別もあって苦労して育つ。
10坪足らずの倉庫で創業。
会社は拡大していく。
東和之
株式会社アスナロ創業者。
店頭公開で80億円の資産を得たが、貿易商として財を成した両親は「たったそれだけ?コンピューターは儲からないんだな」と言い放つ。
のち、経営危機になって会社を去る。
ネタバレあらすじ - 第七の男風
※ 筆者註 ・・・ 作中のチームAKKAは6名ですが、実は7人目がいたというていの、よくわからない感想文になってます。どうやら青春を感じてしまって、物語に入りこんでしまった状態で書いたようです。目線を変えただけで内容には忠実です。セリフ部分は改行などのアレンジをしてます。3時間もあれば読める本なので、正確さを求める場合は読んだほうが早いかもしれません。
チームに加入するときに
チームAKKAに新しいメンバーを入れるかどうか、そいつの面通しをして、皆で話し合っていたときだった。
堀井はいう。
「いいかい、金で動かされる人間はダメだ。価値のあるのは、金でしか動かない本当のプロフェッショナルか、金では動かない最高のアマチュアなんだよ」
東大駒場キャンパスの学生寮の一室だった。
ここを拠点にして、渋谷のギャルを使って、ITベンチャーの若手社長を嵌めていた。
弱みを握った相手から、トンネル会社を通して高額のコンサル料を払わせたり、教務提携をさせたりしていたのだった。
IT系ベンチャーとは大手の下請企業
小山は、今のIT業界に不満を抱いている。
今のITベンチャーの大半は『 IT 』ではない。
世間からは、インフォメーション・テクノロジーでITなどと呼ばれているベンチャー企業のほとんどが「通信サービス会社」でしかない。
電電公社が民営化してNTTになったことで、その関連サービスの需要を担う下請企業群である。
装置やソフトや携帯電話を販売する代理店業である。
ITの本質は無料にある。
フリーソフト、オープンソースだ。
通信サービスは従量制でなくて、定額制で提供されるべきであり、使い放題であるべきだ。
そこから生まれる価値に収益の源泉がなければだ。
ITのありようが不満だから、ITベンチャーの連中を嵌めている。
チームAKKAの目的は、半分にはそれがあった。
悪はより強い悪によってのみ倒される
そんなある日。
堀井は、チーム名の由来を明かしてきた。
「悪貨は良貨を駆逐する」
「アッカ?」
「グレシャムの法則だ」
「グレシャム?」
「金貨があるとする。そこで含有量が少ない金貨を流通させれば、価値が低ければ低いほど、作り手はボロ儲けする」
「・・・」
「偽物だったらもっと儲かる」
「・・・」
「悪貨は悪貨を駆逐していくのが繰り替えされて、粗悪化していき、最後には価値がない『お金』がはこびる」
「・・・」
突然のグレシャムの法則だった。
が、いいたいことはわかった。
チームAKKAの目的は『悪貨』を駆逐することにある。
「本来『お金』は誰でも作れる」
「ん」
「ところが、国家権力が後ろ盾となって、お金を独占した」
「・・・」
悪貨を作り出して、良貨を駆逐したのは国家という権力。
強いヤツが悪貨を作り出す。
悪いヤツだけが作り出してもいい。
もちろん、そのときの自分は、上記まで考えたとはいわないが、おおよそ、そういうことだろう。
「悪をたおすのは、正義の味方ではない」
「ん」
「より強い悪によってのみ倒される」
「・・・」
悪貨は、悪貨同士で、その悪を競い合う。
より悪いほうが勝ち、覇権を握る。
「悪を倒すのは、正義の味方なんかじゃない」
「・・・」
「より強い悪によってのみ倒せるんだ」
「ん」
チームAKKAの活動は、次の局面に移ろうとしていた。
やり返すことは課された義務である
青山通りだった。
LIGHT通信の景山と会った帰りだ。
堀井は、なにやらつぶやいた。
「スューマ・アウィイラム・イーイン・マール・アウィラム」
「なんだそれ」
「ハンムラビ法典の一節だ」
「ふーん」
「世界でもっとも古く、そしてもっとも有名な法律だ。目には目を、歯には歯って知ってるだろ」
「知ってる。やられたらやり返せだ」
難しくいえば、同態復習法だという。
やり返せというよりも、やられたこと以上の仕返しをしてはいけない、と規定しているとも教えてくれた。
知識はある堀井だった。
「ただ、そうすると、貧乏人が金持ちの目を潰しても、金持ちは目は潰し返せるが、殺すことはできない」
「やり返しても、やりすぎるなってことか」
「ハンムラビ法典は4000年前なのに先進的だ。が、適用はあくまでも同一身分に限られていた」
「・・・」
「だからな、この法律では、自分が相手の奴隷でないのなら、目を潰されたときには相手の目を潰して、奴隷でないことを証明しなくちゃならない」
「・・・」
「わかるか。潰さないかぎり、それは奴隷と一緒なんだ」
「ん」
対等である以上、やり返すことは課された義務である。
やり返すことで、それを証明しなければならない。
「戦争だよ、戦争。殺されてもいい」
「・・・」
「だから殺されてもいい」
「そっか」
やり返す相手は、LIGHT通信の景山か。
勝てるかどうかはわからい。
が、自分は腹を括った。
成金は攻める
ハードバンクの鮫島に食事を誘われていた。
こちらの動きを調べて、鮫島のほうから連絡がきたのだ。
鮫島の話は、もっともなことばかり。
堀井は、ただ、うなづいて聞いている。
ハードバンクの朴社長と、アスナロの東和之を比較しての話になっていた。
「成金は攻めるのだよ、どんなときでも」
「・・・」
「負けそうだから、相手に喰われそうだからといって決して逃げたりはしない」
「・・・」
「いいかね、 ” 歩 ” は強いのだ。ひたすら前に進むしかないからだ。敵陣に突っこむしかないからだ」
「・・・」
朴社長と、LIGHT通信の景山は同じだという。
“ 成金 ” あるいは “ と金 ” でもあるというのだ。
「相手からしてみれば、これ以上の脅威はない。 “ と金 ” になるしかない」
「・・・」
「そう我が身の定めを知る “ 歩 ” は強いのだよ」
「・・・」
LIGHT通信の主力事業である、携帯電話販売の違法性をマスコミが公表するように堀井は差配していた。
公表されれば、世間にLIGHT通信バッシングをおきる。
景山には経営者失格の烙印を押される。
「新しい、生まれたばかりの『世界』には成金が求められる。朴社長は感覚的にそれを悟ったのだ。だから東を虫けらのように踏み潰した」
「・・・」
「少しでも隙を見せれば、腹に食いつく蛭のような男を選んだ。私も同様だろう」
「・・・」
公表されれば、LIGHT通信の株価は急落する。
あとは、鮫島が買収に動くのだ。
「成金の性は悪だよ。いいか、悪なのだよ」
「・・・」
「きみに足りないのはそこだよ。だからマヌケな顔を晒して会社を追い出されるんだ」
「・・・」
「きみは、まず、成金を目指すべきなのだよ」
「・・・」
堀井はぐっと呻いた。
反論できなかったのだ。
ラスト3ページ
チームAKKA のメンバーが、久しぶりに集まった。
渋谷の雑居ビルの一室だった。
メンバーは、それぞれに進むことになっていた。
チームAKKA は解散しない。
しばらくは活動休止だ。
堀井は、メンバーをそれぞれ見つめた。
「3年後」だと口にした。
目論見とおりに、LIGHT通信は経営危機に陥っていた。
景山は、会社を去ることになっている。
目的は達したのだ。
が、すべては、鮫島の画策だったことも知った。
今回のLIGHT通信の経営危機もそうだったし、買収されたオン・ザ・エイジだって、鮫島の仕掛けだった。
鮫島は、ハードバンクでのクーデターも考えている。
また、ヤマト・ザイケイグループの買収にも動くことも予見される。
3年後だ。
次は鮫島だ。
3年後には、鮫島にやり返すのだ。
メンバーとは、しばらくの別れをして、それぞれが退室していった。
堀井は窓の外を眺めている。
メンバーが立ち去った先を、ぐるりと見渡した。
渋谷だった。
その名の通り谷間にある。
彼らは、坂を登って、この谷底から出ていったのだ。
次に彼らと再会するとすれば、その場所は “ 谷 ” ではなく “ 丘 ” になるはずだ。
谷を上がった先には、六本木ヒルズの建設が進んでいる。
堀井は、その方向に向いた。
指を拳銃にして「ロック・オン・ヒルズ」とつぶやき人差し指で撃ち抜く。
ふと横をみると、傍にいる妹がキョトンとしていた。
「なにしてるの?お兄ちゃん。子みたいだよ」と言って笑いかけていた。