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山崎圭一「一度読んだら絶対に忘れない世界史の教科書」読書感想文

こんな本を探していた。
“ 絶対に忘れない ” とまでは言い過ぎだけど、多くを知ることができた本。

知る以外にも、記憶の断片となっている史実が、頭の中で整理されていく本でもある。

著者の山崎圭一は、公立高校の社会科の先生。
20年近く、教えているという。

その上で、一般の世界史の教科書には “ わかりにくさ ” という大きな問題がある、と著者は訴える。

“ わかりにくさ ” の原因はなにか?

ひとつには、年号の羅列がある。
それを解消するために、この “ 教科書 ” は「年号を使わない」というのが大きな特徴となっている。

わかりやすい文章に、太文字、アンダーラインがふんだんにある。
図解もイラストも多数ある。


この本を選んだきっかけ

この本を知ったのは、回覧新聞の書評欄だった。

著者の山崎圭一は、Youtube で世界史の授業動画を公開。
総再生回数は、850万回を超える。
世界史に興味を持ち、教養の幅を広げてほしいという想いから書いた。

・・・ と記事には紹介されていた。

すると官本にあった。
青い表紙だからすぐにわかった。

最初は “ 教科書 ” とあるくらいだから、また、なんやら難しいことが書いてあるのかなと思いながら読んでみた。

すると著者は、教師のプロだった。
しかも、近代的で実践的な教師だ。

皆が、世界史のどういう点につまずいているのか?
多くの人が、なぜ世界史に興味を失っているのか?
あるいは、世界史に疑問を持っているにもかかわらず、理解ができてないままでいるのか?

それらの原因を、肌感覚で把握しているのが伝わってくる。
許されることなら、著者の高校の教室に出向いて、授業を受けたいくらいの向学心が湧いてくるほど。

同時に、昭和から平成初期にかけての世界史の授業が、残念でならない。

ただ、年号と出来事を丸暗記するだけ。

「鉄砲伝来は何年?」
「はい!1543年です!」
「正解!」

それで終わり。
ただ、それだけ。
中卒レベルで、とは補足しておく。

年号を覚えるのが、世界史の授業だと思っていた。
が、最近の教えかたは進化しているらしい。

以前の世界史が、年号を覚えるのが主だったのは、戦争に歴史が利用された反省から、歴史には解釈を交えない授業になったからだという。

単行本|2018年発刊|352ページ|SBクリエイティブ

おおまかな解説

シンプルなストーリーを先に覚える

この “ 教科書 ” では、世界史はシンプルなストーリーにまとめられている。

「一度読んだら絶対に忘れない」というよりも「一度読んだたら絶対に止まらない」と改題してもいい。
先を知りたくて、ページが進む。

シンプルとはいっても、それを求めるあまりに、ただ単に文章を平坦にしたという本ではない。

内容を簡略にしたりもしてない。
著者は、世界史の理解されづらい箇所がわかっている。

たとえば、フランス革命の後の混乱についてなどは、多めにページが割かれていて、ちょうどいい力加減で教えようとしているのが伝わってくる。

さすが教師歴20年だなと、その度に思った。

主語が変わるのを最小限におさえる

主語があまりにも頻繁に変わってしまうと、主語を把握するだけで大きな負担かかってしまう。
内容に集中しずらくなる。

・・・ と著者は教えるテクニックも披露する。

そのとおりだった。
主語を示して、多くの「どうして?」を理解させていく。

“ 中東 ” を主語としている部分などは、題名とおりに、絶対に忘れないだろうなと記憶に残る。

以下、著者による。

中東が戦場になったから、イスラム教が成立した。
中東のササン朝ペルシアと、ヨーロッパのビザンツ帝国の戦争が、商人たちの交易路を変えた。

交易路の迂回路は、アラビア半島になった。
そこにあったメッカは、商業の都市としても発展した。

・・・ なるほど。
砂漠の都市のメッカからイスラム教が広まったのは、そういう背景もあったのか。

これが昔の世界史の授業だったら、まずは年号の暗記。
語呂合わせから入る。

イスラム教といえばムハンマド。
ム(6)ハンマド(10)。
だから610年、と覚える。

「イスラム教の成立は?」
「はい!610年です!」
「正解!」

で、終わり。
語呂合わせしか頭に残らない。
昔の授業が、ものすごくアホに感じてくる。

世界史を理解するのに、年号は “ ノイズ ” になると著者がいうのが納得できた。

※ 筆者註 ・・・ もちろん、歴史の年号を覚えるのは基本だとは思っております。この本が斬新すぎたのです。

年号はあとから覚えてもいい

著者は、さらに “ 中東 ” を主語にしたまま、時代を進める。
年表の類は示さずに、世界史を教えていく。

それによると、中東でオスマン帝国が成長したため、大航海時代がはじまった。
ヨーロッパとアジアの交易路が、途絶えたからだった。
だからヨーロッパは、必要があって海路を求めた。

・・・ なるほど。
今までは、大航海時代とは、自然にはじまったという理解で止まっていた。

せいぜいが、羅針盤の発明があったとか。
あとは、造船技術の発達があって、そこにラテンノリの冒険心が結びついたとか。

そうではなくて、交易路を海に求める必然な理由があったのが大航海時代だと理解ができた。

そこには、意欲に燃えるコロンブスなどない。
意欲(149)に(2)燃えるコロンブス。
で、1492年、と覚える。

「コロンブスのアメリカ発見は?」
「はい!1492年です!」
「正解!」

などと、コロンブスの意欲と勇気だけを理由として、大航海時代を教えていた世界史の授業はなんだったのだろう?

今となっては “ アメリカ発見 ” すら否定されて、ただの侵略者となっていると新聞で読んでもいる。

ともかく著者は、年号は “ ノイズ ” だと強調する。
先に「シンプルなストーリー」を覚えてから、あとから年号を付け足すという覚え方となる。

これがいい。
年号は忘れても、頭の中の年表では「だいだいこの辺りだな」という見当がつくし、そのほうが実用的だ。

周辺の因果関係を掴む

さらに著者は “ 中東 ” を主語にしたまま時代を進める。

7世紀のはじめ、15世紀の半ば、19世紀の末といったように、ざっくりと300年や500年単位で歴史が進んでいくがまったく気にならない。

ストーリーは、帝国主義の時代に移る。
列強国が、植民地獲得の競争をしている頃だ。

そのとき、ロシアが南下の動きを見せている。
地中海の不凍港を狙っているのだ。

植民地獲得に出遅れたドイツも南下を企てる。
イラクのバグダッドまで、鉄道建設を計画していた。

これにより、ロシアとドイツは対立。
トルコのイスタンブールを突端に含むバルカン半島は “ ヨーロッパの火薬庫 ” となる。

・・・ あれ?
バルカン半島が “ ヨーロッパの火薬庫 ” となったのは、人種が入り乱れていて憎しみがあったからではなかったのか?

もちろん、それもあるだろうと思われる。
が、著者は “ 東西の交易路 ” が ” 国家の権益 ” に推移したのを理解させて、第一次世界大戦の背景を示す。
現代の世界史の先生を感じる。

つくづく、昔の雑な世界史の授業はなんだったのか?

とにかく大雑把である。
行くよ、いよいよ、第一次世界大戦。
行くよ(19)、いよ(14)いよ、第一次世界大戦。
1914年、と覚える。

「第一次世界大戦がはじまったのは?」
「はい!1914年です!」
「正解!いくよいよいよだな」

で、終了。
そんなだから、結局は、語呂合わせしか記憶に残ってない。

シンプルなストーリーから入って、関係と繋がりを理解して、頭の中で時系列ができてから年号を覚える。

一度読んだら絶対に忘れない、というのは確かだった。

1929年の暗黒の木曜は記憶する

巻末には、一応のようにして年表がある。
もし年号が気になれば参考にもできるが、数えてみると84の年号しかない。

それほど、年号を省くことは徹底している。
が、全編を通して、なぜか1ヶ所だけ、本文中にしっかりと年号が記載されている箇所がある。

世界恐慌がはじまった “ 暗黒の木曜 ” だ。
1929年10月24日と、ここだけハッキリと記されている。

それまで、古今東西を何千年と世界史を解説しているのに、なぜに “ 暗黒の木曜 ” だけが年号入りなのか?

もしかすると “ 暗黒の木曜 ” の年号だけは、世界史を理解するには覚えないといけないのか?

よくわからないが、すぐさま『1929年10月24日暗黒の木曜』だけは暗記した。

まとめ

史実を数珠繋ぎにして、シンプルなひとつのストーリーに。
ノイズとなってしまう年号は省く。

主語をブレさせずに、出来事や人物の「因果関係」と「結びつき」を浮き立たせる。

この方法で、王朝、議会、皇帝、キリスト教、戦争、革命、外交、条約、と解説される。

どこかで読んだような歴史エピソードでも、著者にかかれば、とたんにおもしろくなる。

こんな歴史の授業を若者が受けているなら、どんどんと賢くなって、自分なんかはどうなるんだろうと独居でうなだれてもいる。

世界史うんぬんよりも、現代の教員のプロの技を見せつけられて、呻る気分の読書だった。

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