浜矩子「通貨を知れば世界が読める」読書感想文
通貨といえば、FXがよかった。
株もやるし、先物もやったし、投資は好きでもある。
それらを踏まえて思うことは、熱くなる人や、前のめりになる人は投資に向かない。
やめたほうがいい。
相場なんて、誰がやっても、上がるか下がるかの50%の話なのだから、やれファンダメンタルズだ、やれテクニカルだ、あれやこれや前のめりになるのもよくない。
いったんインしたら、あとはドンッと構えるくらいの気持ちでないといけない。
三国志の諸葛孔明は、戦場では羽毛扇子を手にして自身をあおいでいる。
冷静になるためだ。
彼は、その重要性をわかっていたといえよう。
己のルールに沿って、静かに事を運ぶのだ。
・・・え、結果ですか?
ええ損しましたよ。
しっかりと。
すぐ熱くなって、取り乱して。
はい。
この本を選んだ理由
受刑者となって、骨身に染みて自覚したことは『運がない』ということだった。
50%の確率でも、確実に外していくのが自分だ。
たぶん、世の中で大成している人は、この50%の確率をものにできる人なのだ。
そう信じれるようになっている。
「たぶん大丈夫!」が「やっぱり大丈夫じゃない!」となるのが、今までの自分だったと反省している。
とにかくも、官本室で手にとってみた本。
“ 1ドル50円時代 ” というサブタイトルが、ひと昔にも感じるが、初めての著書となるが、たまには文芸作品ではない本をと借りてみた。
読み終えた感想
“ 矩子 ” と書いて“ のりこ ” と読む。
で、おもしろい。
通貨で世界を知るというより、歴史を知るでもいい。
通貨のおさらいができる、といった内容。
“ 1ドル50円時代 ” というのは、ただの煽り。
新書のタイトルによくある煽り。
1ドル1円だとやりすぎだから、なんとなく50円くらいにしておこうといった程度のものだと思われる。
そもそも、エコノミストがいうことなど真に受けてないから、そんなものだろうと予想していた。
エコノミストなど、もっともらしく後付けで言ってるだけ、と過去にFXで大損した者は言ってみる。
とにかくも、人気エコノミストという著者。
通貨をわかりやすく解説する。
貨幣に足が生えると通貨になる。
限られたコミュニティーの中で用いられていた貨幣が、いろいろなところで通用するようになると通貨としての要素が強くなる。
そうして通貨は「信用」と「金融」という2枚の翼を得る。「信用」で通貨は動きやすくなった。
金が金を生むという「金融」の仕組みが発展した。
そう述べる著者は、通貨の成り立ちから現在までを “ 基軸通貨を巡る大河ドラマ ” として書いていく。
最初の主人公は「金本位制」となる。
幕開けの場は、中世ロンドンのシティ。
ワーグナーの代表作である「ニーベルリングの指輪」というオペラの場面も重ね合わせる。
そんな盛大な雰囲気で、通貨の成り立ちからの歴史を解説していく。
不思議だ。
自分にとっては、安易な擬人化は白けることがほとんどなのに、ましてや通貨の大河ドラマなんて確実に白けるだろうに、なぜかこの流れがおもしろく感じる。
そして終盤には、基軸通貨という存在そのものが、今まさに幕を閉じんとしているように思える、と記す。
“ 1ドル50円時代 ” という状況は、ドルが基軸通貨としての役割を終える、と予見している。
浜矩子が解説する通貨の歴史
ちなみに著者は、元三菱総合研究所のロンドン駐在員。
ドルは基軸通貨ではなくなる、円が隠れ基軸通貨である、地域通貨と国内向け通貨そして共通通貨が必要だ、という自説も述べるが、メインは通貨の歴史となっている。
9世紀 - イギリス・アルフレッド王の庇護の元、シティが築かれる
1694年 - イングランド銀行の設立。戦費調達のためただった。
1697年 - 金本位制の確立。ポンドは世界通貨となる。
1815年 - ワーテルローの戦いでイギリスがナポレオン率いるフランスを破る。
1818年 - 金本位制の復活。戦時下では、敵国への金の流出を防ぐため、しばしば金本位制は停止された。
1914年 - サラエボの銃声。第一次世界大戦勃発。イギリスは、アメリカから戦費調達する。
1929年 - 世界恐慌。イギリスはブロック経済圏を形成。参加国の通貨はポンドに固定された。
1931年 - イングランド銀行が金本位制を放棄。ケインズの「マクラミン報告書」が大きな役割を果たす。
1936年 - 三国通貨協定。アメリカとフランスも金本位制を放棄。アメリカの主導がはじまる。
1939年 - 第二次世界大戦勃発。ドイツ軍がポーランドに侵攻。
1944年 - アメリカ・ニューハンプシャー州ブレトンウッズで会議開催。ポンドの基軸通貨が終わる。ドルとIMFと世界銀行を軸としたブレトンウッズ体制がはじまる。
1967年 - ポンド危機。14%の通貨切り下げ。ポンドは完全に基軸通貨の役割を失う。
1971年 - ニクソンショック。ドルと金の交換停止。ブレトンウッズ体制崩壊。通貨の供給量を調整する方法になる。主要通貨はすべて変動相場制に移行。
1979年 - ボルガーショック。FRB議長の名にちなむ。インフレ対策のために、従来の金利調整だけではなく、通貨供給量の引き締めを行った。
1981年 - レーガノミクス。レーガン大統領が行った施策。インフレ抑制のために、財政金投入と大幅減税で需要喚起させた。ドル高高金利へ。
1985年 - プラザ合意。ニューヨークのプラザホテルでG5が交わした合意。ドル高是正へ。
1987年 - ブラックマンデー。ニューヨーク株暴落。ベーカー財務長官の「ドルが大暴落する」との発言をきっかけに。日本のバブル経済が衝撃を阻む。
1993年 - マーストリヒト条約発効。EU成立。ユーロ創設へ向かう。
1999年 - ユーロ誕生。
2008年 - リーマンショック。
本書の発刊は2011年。
それからは結局のところ、サブタイトルにある “ 1ドル50円時代 ” など訪れる兆しもない。
が、通貨と大河ドラマとの組み合わせが軽妙で「まあいいか」と思ってしまう読書だった。
もし、著者が通貨の小説を書いたのだったら読んでみたい。で、今度こそは投資をするときは冷静になりたい、でも、やめたほうがいいな、やっぱりちょっとだけ、いややめよう、などと独居でウネウネしている。