三毛猫ミーのクリスマス 第13話 こいつらが!猫さらいだったのか!

https://note.com/tanaka4040/n/n024ea4bb2770から続く

 息せき切ってローコー邸へ到着すると、数百匹の猫たちが、平和そうに、朝ごはんを食べていた。
「どこ?どこにいるの?シャドー」
 猫たちの間をすり抜けつつ探し回ったが、シャドーの姿は見当たらない。その辺《あた》りの猫へ、
「見なかった?」
と聞いても、
「いや」
と、にべもない。隣の猫へ、
「あんたは?知らない?」
「知らないね」
と、すげない返事。別な猫へ、
「シャドーは、どこ?」
「シャドー?そんな猫、いたっけ?」

 驚いた。内気で、目立たない、灰色の猫とはいえ、存在すら知られていなかったとは。
「そうだ。ローコー大統領に話してみよう」
 あたしは、猫ヶ森《ねこがもり》で起きた出来事を伝えに、ローコー邸の中へ入った。
 折りよく、ローコー大統領とスケサーとカクサーの三人が、囲炉裏《いろり》を切った板の間で、鍋を囲み、朝食を摂《と》っていた。片隅に、見覚えのある奇怪《きかい》なゴーグルが何故《なぜ》か転がっている。

 あたしは、ローコー大統領へ、
「シャドーが、いないんだ」
と訴えた。ローコー大統領は、何か聞こえたように顔を上げたが、また、椀の中へ視線を落とした。
「ちょっと、聞いてよ。あたし、さっき殺されかけたんだ。あたしたち猫に危害を加える人間が、観光客の中に絶対いる。もしかしたら、シャドーも、やられちゃったかも」
と、まくしたてたが、ローコー大統領は、
「はて?」
と再び顔を上げ、
「猫の声が、聞こえるような……」
と呟《つぶや》いた。それを聞き取ったスケサーが、
「は。確かに、聞こえたように思います。しかし、みな、外で、朝餉《あさげ》を摂《と》っておりますので、ご覧の通り、家の中には、猫の子一匹おりません」
 どうやら、あたしの姿が見えないらしい。道理で、カラスを追い払ったあと、あたしに気づかなかったわけだ。

 枯れ草が保護色になって見えないのだろうと思っていたが、本当に見えていなかったとは。
 ブチ猫ブーと一騎《いっき》打ちになった時、スケサーが、ブチ猫ブーにだけ水をかけ、あたしに掛《か》けなかったのは、あたしが目に入っていなかった証拠。
 どうして、他の猫は見えるのに、あたしだけ、見えないのだろう?
 ローコー大統領は、椀を置き、
「確かに、猫の姿は見えんが、声が聞こえるのは、齢《とし》のせいか、空耳か」
「きっと、外の猫の声でしょう」
と、カクサーが、野太い声で答えたあと、
「御《ご》ローコー。先ほどの話に戻りますが」
「ふむ」
「ブチ猫ブーを可愛がるお気持ちは分かりますが、そろそろ、避妊《ひにん》手術するか、止《よ》すか、お決めになる潮時かと」
 三色《さんしょく》模様が証拠立てるように、ブチ猫ブーは、メスである。「オレ様」や「てめえら」と、伝法《でんぽう》な口をきく巨体の猫だが、歴とした、メスである。

 まだ避妊手術していなかったため、巨躯《きょく》を活《い》かし、手下のオス猫どもを引き連れ、我がもの顔で暴れまくっているが、避妊手術しなければ、仔猫を生み、繁殖してしまう。
 ただでさえ、捨て猫が、愛護センター送りにならないよう、毎月、百匹以上の猫を引き取っている島である。これ以上、繁殖させるわけにはいかない。
 そこへ、ローコーの妻のローバーが、お茶を運んできて、
「獣医のドクトル・ゲーに相談してみては?」
と促《うなが》した。どうやら、老婆だからローバーという名ではなさそう。ローが名字で、バーが名前。
「御《ご》ローバー。それは名案です」
と言ってカクサーは立ち上がり、
「早速、ブチ猫ブーを捕まえて、ゲー先生の動物病院へ連れて参ります。ごちそうさまでした」
と足早に出かけていった。避妊手術したら、あの利《き》かん気の強いブチ猫も、さぞかし、大人しくなるだろう。

 あたしは、避妊手術後、自分の牙で、縫合の糸を噛み切ったが、あいつも、自分の牙で、抜糸するだろうか?
 避妊手術すると、ますます太るから、噛み切ろうとしたところで、太鼓《たいこ》腹がつかえて、体を前に折り曲げられず、ひっくり返るんじゃなかろうか?
と想像していると、可笑《おか》し味《み》が込み上げてきた。
 あとに残ったスケサーが、
「御ローコー。ブチ猫ブーの他に、どの猫を捕《と》らえます?」
と訊ねた。
 ローバー大統領は、
「うむ。これが、連れて行く猫のリストだ」
と、一枚の紙を広げて見せた。
 覗《のぞ》き込むと、そこには、ざっと三十匹の名前や猫種が、一覧表になっている。
 スケサーは、一覧表を受け取り、
「では、これらの猫を捕《つか》まえておきます」
と言ったものだから、
「猫を捕まえる?」
と、あたしは驚いた。

「信じきっている飼い主が、動物愛護センターへ持ち込む猫の数は、年間三万匹」
 こいつらが!こいつらが、猫さらいだったのか!
 そういえば、あたしを虫取り網で捕まえようとした男たちも、三人組だったし、何よりの証拠に、奇怪なゴーグルが、隅《すみ》に転がっている。虫取り網も、壁に立てかけてある。
 いい人たちだと信じきっていたのに、まんまと騙《だま》された。
 猫は、驚き過ぎると、脱力して、俗にいう『借りてきた猫』状態になり、動かなくなってしまう。あたしは、体を動かせない代わりに、脳を動かして、考えてみた。
 猫ヶ島《ねこがしま》は、猫の生きた貯蔵庫で、必要に応じ、猫を捕まえ、実験《じっけん》施設へ売り払う。
 表向きは、猫の楽園だから、猫を捨てたい飼い主たちが、自ら進んで、無料で、猫を提供してくれる。ペット業界も支援してくれる。

 さらに、原材料が無料の猫の毛で、紡績業を営《いとな》める他、猫をテーマにした観光業も成り立つ。それらの事業によって、年間数十億¥、いや数百億¥が入ってくる。元《もと》が経営者らしい算盤《そろばん》勘定である。
 その計画を実現させる目的で、無人島を購入したのであれば、なんと巧妙に仕組まれた罠《わな》だろう。
 あたしは、やや動き出した体を引きずるように、じわり、じわりと、表へ、出た。
 一刻も早く、この島に棲《す》む、全ての猫たちに、教えてあげなくちゃ。

https://note.com/tanaka4040/n/n8b0f7d5553d7へ続く



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