見出し画像

1-6.正しい視点

その観点で、ここでもう一度、遠近法の話に戻ってみたい。ようやく、何故この話を遠近法の話からはじめたかが説明できる段階にきたからだ。

遠近法はレオン・バッティスタ・アルベルティが1435年の『絵画論』の中ではじめて体系的にまとめたことはすでに紹介した。ただ、この『絵画論』の中でアルベルティが遠近法を「正しい制作術(コンストルツィオーネ・レジティマ)」と呼んだことはまだ言っていなかった。

アルベルティはあくまで正しい画法を体系化したつもりだったと思うが、結果、それは絵を見るように世界そのものを見るという見方自体を合法化してしまった。その影響下にいまの僕らもある。街中に貼り出されたポスター、テレビの画面、スマートフォンの小さなディスプレイなど、私たちは四角く切り取られた二次元平面の中にある世界を真実だと思って疑わないからだ。コンテンツが描く内容が虚構(フィクション)かどうかを疑うことはあっても、それ自体、描かれた世界が実際の世界とさほど変わりないものと受け取られているからにすぎない。

16世紀、17世紀のオランダを中心に大量に描かれた静物画が同時に空虚(ヴァニタス)を表現するものとされたのも、描かれた静物がリアルに感じられたからに他ならない。見かけにリアリティがあるからこそ、内実と見かけの構図が問題になる。その構図を用意したのが、「正しい制作術」である遠近法であったわけだ。

とにかく、実際の世界と二次元平面上のリアリティある画像の間に境目を感じなくなり、その間をシームレスに思考を行き交いさせることができなければ、デザインなど成り立たないということを、ここでもう一度、認識しなおしておきたい。デザインという思考にとっても、この遠近法の登場は大きな契機であったわけだ。

ここから先は

2,032字 / 2画像
この記事のみ ¥ 100

基本的にnoteは無料で提供していきたいなと思っていますが、サポートいただけると励みになります。応援の気持ちを期待してます。