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【佐渡市地域おこし協力隊インタビューvol.4】小木町地区担当 奥野 航

『地域おこし協力隊』
その名の通り、地域おこしを考える団体に "協力する" 人を指すが、全国的に見てもその存在は勘違いされがちである。

今回より "地域おこしを考える団体" こと、佐渡の各エリアにおいて協力隊を募集した受け入れ地域の世話人にもインタビューを開始!

「どんな人がいるの?」「何をしているの?」
このインタビューは、私から見た "地域おこし協力隊という職業を選んだ仲間" をただ知っていただきたいという自己満足の備忘録である。

※世話人:協力隊が特定の地域に馴染めるように、協力隊の活動や日々の暮らしの相談などをサポートしてくれる方のこと。


私から見た、奥野 航というヒト

青すぎる海は、酔いも吹き飛ぶこと間違いなし

物腰が柔らかく、どんな人の相談でも、周囲の人の立場も含め俯瞰して考えることが上手な奥野さん。
"良い感じ" の岩があると登ったり、まだ冷たさの残る海に飛び込んだりと(だいたいこういう時には村山隊員がいる)アグレッシブな面もありながら、遊び心のある素敵な文章を書く文筆家的な一面も持っている。

そんな奥野さんは私が移住する前、佐渡案内プチツアーに付き合ってくれた人物でもある。その日は私の協力隊の二次試験の翌日だったのだが、私は両津の街で地元の方と楽しすぎる時間を過ごした結果、とんでもない二日酔いで奥野さんと対面した。今思い返しても、とても初対面の人と会うコンディションではなかったと確信している。

とにかく、2月にしては珍しい快晴日ということで、当時まだ奥野さんも行ったことが無かった佐渡北部の二ツ亀に向かうことにした。

車の揺れと睡眠不足により吐き気との戦いだった道中を乗り切ると、透明度の高い海がお出迎え。 キラキラ光るあの海の青さはヘパリーゼよりも二日酔いに効いた気がする。

そうして調子に乗った私達は賽の河原霊場を目指して岩場沿いを歩き、ついつい願集落まで歩くこと小1時間。

観光シーズンではない願集落では自動販売機さえも休止中だったが、運良く集落の方に旅館(こちらも休業中)を紹介して頂き、汗だくの私たちは事なきを得たのだった…
また歩いてあのおばあちゃんに会いたいなあ。

佐渡市 願(ねがい)集落 福助屋旅館にて、恵みのポカリと集落の方と記念撮影


重伝建の選定を目指す

学生時代の一枚

棚村:さて、さっそく自己紹介からお願いします!
奥野:小木町地区担当の奥野 航(おくの わたる)です。出身は千葉県千葉市出身で、2021年の2月に佐渡に来ました。

棚村:奥野さんは大学時代に地方創生を勉強していたそうですね。
奥野:はい。大学では音楽社会学を学ぶゼミに入っていて、フィールドワークでは山梨県 富士吉田市におけるミュージシャンを活用した地域活性化などを研究していました。

棚村:ユニークな取り組みですね! 奥野さんが佐渡市の地域おこし協力隊に応募したきっかけは何だったのでしょうか?会社員経験もおありですよね。
奥野:将来的に地方創生に関わりたいと思っていたのですが、大学卒業後は一度地元の企業に就職しました。数年の勤務の後、部署異動のタイミングで退社し、佐渡の地域おこし協力隊に応募しました。
元々離島が好きだったということと、両親の旅行好きの影響で歴史ある町並みが好きということもあり、小木の町並みに携われる仕事ということが応募の決め手になりました。

棚村:地域おこし協力隊という形で地方創生に関わることができたんですね。小木町地区担当とのことですが、どんな仕事をメインに活動されているんでしょうか?
奥野:『おぎ町並み保存推進委員会』に所属し、歴史ある町並みを残すために重要伝統的建造物群保存地区(以下、重伝建)選定を目指したさまざまな活動をサポートしています。

棚村:『おぎ町並み保存推進委員会』とはどんな会なのですか?
奥野:委員会の委員長で、私の世話人でもある岡崎さんを筆頭に活動している団体です。各地区の住民の代表や商工会の理事、佐渡市職員、市議会委員など約40名のメンバーからなり、日頃から町並み保存活動、まちの活用に関わる企画や事務作業、広報活動をしています。
岡崎さんは『町人文化の街小木振興組合』の理事長でもあるんですよ。

棚村:いつ頃からこの活動は活発になったんですか?
奥野:2007年、新潟大学の調査によって小木町地区は歴史的建造物の残存率が県内1だと分かりました。その後、町並み保存の機運が高まったことを受け、2018年6月に当団体が発足しました。

棚村:新潟県内で1番!すごいですね!
奥野:他にも『風待ちの会』『小木湊まちなみの輪』『小木まちづくり協議会』など小木には町のことを愛し、考える方がたくさんいらっしゃいます。住民の意志から活動が始まっていることも理由にあるのか、重伝建の選定までのスピード感も全国的に見てもかなり早い方ですし、とても素敵な町だと思います。

棚村:これはぜひ選定されたいですね!
奥野:新潟県内で登録されている重伝建は、実はお隣の宿根木1カ所のみ!相川金山の世界遺産登録も注目されていますが、金の積出港として開港した小木港のある小木町の重伝建選定も注目して頂きたいですね!


地道な広報活動が実を結び

棚村:今年の3月に大きな発表会が開催されたと伺いました。
奥野:そうなんです! 2年間かけて行われていた『保存対策調査』が終了し、3月22日にあゆす会館で開催された報告会には100名近くの方にお越しいただきました。

棚村:保存対策調査とはどんな調査なのでしょうか?
奥野:保存対策調査は、「小木町の歴史的価値を明らかにすること」「保存と活用に向けた基礎資料を作成すること」を目的に実施されるもので、重伝建指定のためには必ず経験しなければいけない過程です! 宿根木も昭和55年度に調査を行ったそうですよ。

棚村:この調査の中で、奥野さんはどんな関わり方をされているんですか?
奥野:調査員の方が行う調査ではご自宅の中を見せて頂くので住民の方へのアポどりや、見ただけでは分からない所有者の家の歴史などの聞き取り、また、報告書の巻末に掲載する『連続立面写真』の撮影のお手伝いなどをしています。一番は、広報誌を作成していることですね。

棚村:『おぎ 町並み保存通信』のことですね。
奥野:はい! 広報誌では活動内容、小木の町並みの価値、重伝建の制度などについての周知を目的に発行しています。重伝建に選定されるということは暮らしている土地に制限がかかるというデメリットと感じられる面もあるので、ちゃんと知って頂くことが大切なことですね。

棚村:地域住民の意思をまとめるのはとても大変な過程だと感じます。
奥野:活動についての説明方法は委員会の中でも長い間課題ではあったそうですね。あゆす会館で説明会を開催したり、各町内の集会所での小さな説明会を繰り返したり、それでも不十分ということで戸別訪問をしたり。その中で活動について質問をした時に「広報誌をみて知っていた」と言われたことは嬉しかったです!

棚村:ちなみに選定が決定すると委員会はどうなるのでしょうか?
奥野:選定後の活動は未定です。2024年の1月に申し出をして、決定が5月頃。私の任期満了が2024年1月なので、最後まで見届けることができてよかったです!

町並み保存活動の資金集めとして制作した、まち歩きサコッシュとガイドブック


協力隊を募集した代表者に話を聞いてみた!

岡崎 拓夫さん(写真左)

協力隊になるにはそもそも地域団体からの希望があってこそ。 ということで、今回から募集を希望された団体側にもインタビューを行うことにしました! 今回は奥野さんの所属する『おぎ町並み保存推進委員会』委員長で、奥野さんの世話人である岡崎 拓夫(おかざき たくお)さんです。

棚村:団体で協力隊を募集しようと思ったきっかけを教えてください!
岡崎:小木町地域の持続可能な発展のため、重伝建の選定を目指すおぎ町並み保存推進委員会の事務局を中心とした保存活動に協力してもらいたいと思い、募集をしました。

棚村:実際に奥野さんを協力隊として受け入れてみてどうでしたか?
岡崎:奥野さんは着任当初より地元住民以上に活動内容を理解されていました。その後の住民の説明会等でも外から来た若者が話すことによって、地域の価値の納得感を与えていましたね。

棚村:なるほど、移住者の存在がそういった役割になることもあるんですね! 新しい視点でした。
岡崎:地元ではどうしても男性中心の活動になりがちな中、地域の子どもや女性にも対応してくださり、その後の保存活動の進展に多大に貢献してくれています。選定に不可欠な地道な空き家調査などで得た資料も蓄積してくれていますね。

棚村:最後に、地域おこし協力隊の制度についてどう思いますか?
岡崎:当地域では過去3名の地域おこし協力隊を受け入れており、重伝建選定の道筋が見えるところまで来ることができました。感謝しかありません!


『暮らす関わり方』を目指して

『小木のこと♪知らNight!』イベントで

棚村:『小木のこと♪知らNight!』や『たらい舟・さざえ祭り』など、イベントというソフト面でも活動されている奥野さんは、地域との連携がとても取れている印象があります。
奥野:ありがたいことに協力隊という立場ということで、商工会や観光交流機構や小木のサービスセンターの方々からお声がけして頂くことが多いですね。自分の席が小木商工会の中に設けて頂いたことが大きいと思います。商工会にいると町の色々な人に会えるのが嬉しいですね。

棚村:任期中に大変だったことはありますか?
奥野:暮らしの面で言えば太平洋側出身だったので、気候に慣れるまでが大変でした。冬場の天気が悪い日が続くと辛かったですが、2・3年目で慣れてきましたね。それと小木港の運行休止は本土へのアクセスが不便になり大変でしたね。町からも活気が無くなったように感じました。

棚村:仕事面でも何かありましたか?
奥野:大変だった、とは少し違うかもしれませんが、着任当初を振り返ると、自分の熱量が変に空回りしていたなと思いますね(笑)

棚村:と言うと?
奥野:協力隊あるあるかもしれませんが、着任当初は地域のアレコレに対してもっとこうしたほうがいいんじゃないかという『何かを目指す関わり方』をしてしまうと思うんです。
私も観光客増加のためにGoogleマップの口コミを充実させた方が良いなど色々と提案したのですが、地域からはしばらく様子を見て、町や人に慣れてからの方がいいよと言われて。

棚村:何かを目指す関わり方… 私もしていたかも(笑)
奥野:そんな時、着任1か月後にあった地域おこし協力隊の初任者研修で、地域の人の話を聞いてから関わり方を考える『暮らす関わり方』の方が地域にとっては良いと教えて頂きました。

実際に地元の飲食店の方々がやりたいと発案した佐渡芋汁鯛御膳の提供は、私も企画会議から参加させて頂き、広報係として関わりました。重伝建の活動同様に、地域から声が上がった企画は継続する傾向があり、現在でもそのメニューを販売しています。

ウラニワについて奥野さんが書いた記事はこちらから

棚村:全員が積極的に楽しみながら活動するのが一番ですよね!そんな奥野さんの任期中の一番思い出深い出来事はなんですか?
奥野:ウラニワ』のエピソードですね! ここは着任してすぐに見つけて素敵だと感じた場所なのですが、日頃から「あの場所をなんとか活かせないか」とあちこちで口にしていたんです。
そうしたら町の方によって荒れ放題だった竹やぶを整備して頂いたり、アースセレブレーションに合わせてライトアップして頂いたりと…  とにかくとても感動する出来事でした!

棚村:素敵なエピソードですね! 地域との繋がりや信頼があるのだと改めて感じました。奥野さんの活動はまだ続きますが、退任後の予定は何かありますか?
奥野:古い町並みや町屋を活用すると考えた時に、色々な構想を立てたりすると思うのですが、それをカタチにするための仕事をしていきたいと考えています。

棚村:最後に小木で一番好きなスポットを教えてください!
奥野:照覚寺(しょうがくじ)』から見る景色です! ここから見る景色はとても素敵ですよ。『光善寺(こうぜんじ)』の小さな狛犬もお気に入りなのでぜひこのどちらも訪れてみてください!

照覚寺からの一枚でお別れです




重伝建の選定までの想いを繋ぎ続け、それがカタチになる歴史的瞬間に立ち会える奥野さん。 任期満了までのあと約半年、地域の皆さんと駆け抜けてください!

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