薄力粉でうどんを打った

医療系の研究施設で働いている。暮らしている場所は田舎だ。冬になると雪も積もる。車のタイヤもスタッドレス。けれども僕はドライブが好きだ。ノーマルタイヤの方が気分はいい。燃費もいい気がする。だから春を前に交換してしまった。もう雪は積もらないだろうと。そんな予測は外れるものだ。

その日は土曜日。実家へ帰るために朝早くに起きた。準備を済ませ玄関のドアを開けると、そこは銀世界だった。まさかこの時期にこれだけ積もるとは。天気予報もチェックはしていなかったのである。

急遽、実家帰りはキャンセル。土日の巣ごもりが決定。車はノーマルタイヤ。おそらく1mmも動けないであろう。膝上まで積もっている。僕の家に長靴は無い。徒歩での移動も制限されたのだ。

食糧問題が浮上した。さすがに明日には雪も融けるだろうが、今日の食料はなんとかしないと。家の食料在庫は乏しい。運悪く米も少ない。3食は足りないだろう。だが薄力粉はあった。最近ハマっている揚げ物のせいだ。そうなると料理の選択肢は一つである。うどんを打つことにした。

本来うどんは強力粉で打つものだ。多く含まれるタンパク質があのもちもち感をつくる。故にタンパク量の少ない薄力粉はうどんに向いていない。それは知っている。だがこの非常事態を乗る切るためには、それでうどんを打つ必要があったのだ。

薄力粉をボールに入れ、粉の1/2量の水を加えた。塩も適当に入れた。あとはひたすら捏ねたのである。小麦粉ボールは段々とツルツルになっていった。10分ほど寝かせてから薄く伸ばした。場所が無かったのでテーブルを拭いて、そこで行った。麺棒が無かったので、菜箸で伸ばした。打ち粉となる片栗粉も無かったので、薄力粉で賄った。

細く切って、すぐに茹でる。びっくり水は3回おこなった。茹であがったら水で洗う。長さも細さも歪なうどんが完成した。

醤油を掛けて頂く。普通に美味かった。心配していた”コシ”もしっかりしている。薄力粉でも大丈夫なようだ。それにしても美味い。良い粉を使ったわけでもなく、良い醤油を使ったわけでもないのにだ。手打ちうどん恐るべし。自炊は何しても美味しく頂けるようだった。

多かったので2食分となった。ただ時間を置いてからのそれは味が変わっていた。”コシ”が想像以上に弱っていたのである。伸びただけではない。ゆるゆるなのだ。これが薄力粉うどんの特性なのか。味は悪くはないので完食は出来たが、あまり好んで食べたいと思えるものではなくなっていた。

その後、余裕のある時にうどんを打つようになった。強力粉で打ってみたが、やはり薄力粉のそれよりも大分美味かった。焼うどんも作ってみたが、それも格別であった。

結果的に料理のレパートリーは増えた。薄力粉は非常食として在庫するようにもなった。雨降って地固まる。実際に降ったのは雪で、打ったうどんは柔らかくなったが、僕の料理系男子としての腕は上がったと思う。

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