年齢クイズでやらかした

医療系の研究施設で働いている。今の職場は7ヶ所目。先日に異動してきたばかりだ。僕の所属する会社は委託業務をサービスしているが、ここでの肩書は"派遣社員"だ。指揮命令系統の都合でそうなることはよくある。故にここでの上長はオーナー会社の課長になる。

課長は面白くも優しい人であった。真面目でもある。それでいて運も悪い。いつもハズレくじを引くような人。お話をしているとそう感じた。そのためか頭は坊主であった。なんとなく助けたくなる。坊主課長はそんな方だった。

坊主課長から僕への指示は複数あった。ここの施設の維持管理とシステム再構築、ならびに従業員のマネージメント。ハードルが高いのである。僕のことを勘違いしているのかもしれない。

考えてもみれば納得もできる。業界では高品質で割高なサービスを提供している会社の社員だ。しかも社員の中では数人しか取得していない上級資格も持ち合わせている。それでいて経験は群を抜いて豊富だ。書いているだけで大変恐縮する。

けれども準備はしてきた。ドラッガーのマネジメントは、エッセンシャル版だが一通り目は通した。過去の上司のやり方を思い返しもしてみた。準備は万全とはいえないが、やれることはやった。

部下は6人だった。そのうちの1人は同じ会社の後輩である。半年前からこの職場で働いているらしい。彼女は車好きであった。おかげで雑談は楽しい。食べることも好き。かなりの肉派。年下だが姉御肌。そんな肉姉さんとはすぐに打ち解けた。

肉姉さん以外はオーナー会社の社員かパートである。男1人に女4人。僕はお手伝いという名目で、1人づつ一緒に業務を行うことにした。ここの仕事は基本的に1人作業だ。そこに僕が日替わりで入ったというわけだ。

うざがられないか心配であったが、割と歓迎された。というのも皆は1人作業が詰まらないらしい。本当は誰かと喋りながら作業をしたかったそう。そこに僕が入った。僕は基本的には聞き役だ。すると皆はずっと喋ってくる。いい気晴らしになるようだ。

僕に質問が飛んでくることもある。「何歳に見えますか?」。苦手な質問だ。その人は26歳くらいに見えるが、そのまま答えることが正解ではないだろう。かなり可愛らしい人だったので幼くも見える。21歳でも通用するだろう。だが今後のことも考えて、ルックスで依怙贔屓しないスタンスも見せておきたい。僕は素っ気なく「30歳くらい?」とボケておいた。

彼女は笑ってくれた。ひどいとも言われてしまった。もちろん謝った。ちなみに年齢は26歳だった。僕の勘も捨てたものではないのである。

同じ質問を別の人にもされた。かなりの年上である。正直めんどくさい。40歳は軽く超えているだろう。性格にも難があるらしい。肉姉さんから教えてもらっていた。ここは慎重にいかないと。ごりごりの社交辞令が正解と思われる。

「30歳くらいですか?」。無理があり過ぎる。けれどもこれくらいがいいと判断した。誰でも冗談と分かるくらいの社交辞令だが、振り切ったほうがリスクは少ないだろう。彼女は笑っていた。その後もずっと嬉しそうにしていた。ほんと女性ってわからない。

トラブルは数日後にやってきた。「なんで私とババァが同い年なのw」。どうやら48歳の彼女が僕の答えを言いふらしていたらしい。それを聞いた26歳の彼女が騒いでいた。

やらかしてしまった。まさかそんなところで嘘がバレるとは。やはり嘘はよくない。何事も正直が一番だ。

そんな感じで始まった僕のお仕事。その後、部下の6人とは関係も好調と思っている。基本的には仕事ができる人達だ。僕が先頭に立って引っ張る必要もない。いつでも手助けできる準備をしつつ、注意深く見守ることにした。

この方法は過去にお世話になったリーダーのやり方である。ほぼ丸パクリ。部下に教えてもらうくらいの関係性が丁度いい。リーダーは一番できる人でない方がいいのである。故に僕もいろいろと教わった。スピードでも勝たないようにした。業務に差し支えない範囲でなるべく頼るようにしたのだ。

マネージメントは難しい。どこまで行っても部下の本心は分からないからだ。けれどもそこで疑ってはいけない。信頼を寄せるのは上司の方からなのだ。

そう考えると、あの年齢クイズはよくなかったと思う。ボケてはいけなかったのだろうか。それとも社交辞令がよくなかったのか。これは悩む。家に帰ってもそのことから離れられない。僕のマネージメントは終わらないのである。


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