蝶々を撮りたかった

医療系の研究施設で働いている。僕は短期転勤族だ。今の事業所は6ヶ所目。来期は北海道の転勤も決まっている。写真好きな僕にとって、そこは聖地。今のうちから腕を上げておきたい。故に撮りまくっているわけだ。仕事をしている場合ではないのである。

先日は植物園にも行ってきた。花を撮りたかった節もあるが、お目当ては別にある。蝶々だ。バタフライ。温室のある植物園には、蝶々が飛び交う一角もある。そこで蝶々を撮りたかったのだ。

動く被写体を撮るのは難しい。マニュアルカメラなら尚更だ。セオリーなら次の通りだろう。高機能なオートフォーカス機を用意し、ISO感度を上げての高速シャッターで手ブレを防ぐ。もちろん手ブレ補正のアシストも有効だ。そして高速連写で一瞬のタイミングを逃さない。動きのあるものを撮る場合は、そんな感じが正解だと思う。

それをマニュアル操作の67中判フィルム機で再現するのだ。かなりの練習と経験になるだろう。

まずはピント合わせだが、オートフォーカスがないので手動となる。だからといって被写体の動きに合わせてリングを回していたのでは間に合わない。故にある程度の当たりを付けておいて、微調整は前後の動きでカバーすることにした。

次にシャッタースピードだが、この日に付けていたレンズは75mmだ。フルサイズ換算では、40mm弱の焦点距離と同等と思われる。セオリーからしてみれば、SS1/40以上が妥当だろう。頑張って1/30だ。それ以下では手ブレの可能性がグッと上がる。

だが今回は動きのある被写体だ。本当なら1/250くらいはほしい。とはいえ現場は温室。明るいとはいえ、外と比べれば暗い。絞り開放でも1/100がやっとだ。

僕のレンズの最大開放値はF2.8。暗くはないが明るくもない。だがそこは67中判。フィルム面積はフルサイズの4倍だ。同じ開放値でもボケ量は異なる。おおよそ2段階上のものと同じになるのだ。つまりF1.4と同等のボケ量。故に絞り開放で撮ろうとすると、ピント合わせが難しくなるわけだ。

まとめると、フィルムISOは100、絞りは2.8。SSは1/100あたり。勝負はピント合わせ。目標は蝶々の眼、もしくは羽の模様。それを踏まえてオーソドックスな構図に落とし込めるのだ。

結果から言うと駄目だった。難易度が高すぎる。1ショットの経費が頭から離れず、途中での撤退となった。

やはり動いている被写体は難しすぎた。おそらく失敗したと思っている写真でも、画にしてみれば良くも見えるだろう。このカメラは素晴らしいから。

だがそれは僕の追い求める『僕の思う最高の1枚』ではない。偶然性は求めていないからだ。良さの説明も後付けになってしまう。そのような写真は望んでいないのだ。故にこの撤退は英断と言っていいだろう。

残りのフィルムは止まっている蝶々の撮影に充てることにした。都合よく止まってくれる蝶々は、なかなか現れなかったが、気長に待っていることで撮ることができた。その中の一枚は何度も見たくなる写真で、いいものが撮れたと思っている。

背景は草のみどりいろ。画角の上から下まで伸びた茎の途中で、ぶら下がるようにとまっている蝶々。何気ない蝶々の写真だが、そこに存在している理由を現象のようにとらえると、シンプルな世界の理の一端を感じることもできる。いい写真と思えた。

やはり写真はおもしろい。その景色を見たいように表現できる。もちろん技術は必要だが、その取得すらも楽しい。まだまだ僕の写真は止まらないのである。



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