にぎらずし

どちらかと言えば肉派だが、魚が嫌いなわけではない。むしろ好きだ。とはいえ、魚料理のすべてが好きなわけではない。煮魚は苦手だ。焼き魚はめんどくさい。故におのずと刺身に行き着く。だがそれは調理方法が悪いわけではない。

諸悪の根源は鮮度であろう。小売店が手を抜いているわけではない。そもそも、日常的に魚を食べられることは凄いことだ。ひとえに小売店の努力のたわものだろう。感謝している。けれども超えられない壁はある。

『鮮度の良い魚は、生より火を入れた方が美味しい』。それがすべてではないが、それが成立つほどの鮮度の良い魚は日常では出会えていない。故に毎日の暮らしの中では『魚料理の一番は刺身』となっているわけだ。

刺身はおかずの一品になることもあるが、手巻き寿司になることの方が多い。楽だからだ。酢飯を作ってしまえば、あとはネタを切るだけ。底上げ要因としてツナマヨを作ったり、豚肉を焼肉のタレで焼くことも多い。それでも楽なのだ。

牛肉を湯通しすることもあるが、それはもう底上げ要因ではない。主役になったりもする。つまり、僕のつくる手巻き寿司は適当であった。握り寿司を5貫くらいだけ作ったこともある。めんどくさくなって、途中から手巻き寿司になったわけだ。

失敗も多かった。一番の失敗は海苔の買い忘れだろう。もう一度スーパーへ出かけることもあった。枚数が足りなくなることも多い。故に多めに買うのだが、次の手巻き寿司の日には湿気っている。在庫があるのを忘れて新たに買って、在庫が増えていくこともよくあった。海苔に振り回されることが多かったのだ。

いつからか海苔は買わなくなった。必ずしも無いと困るわけではなかったからだ。お皿の上で酢飯を箸で小分に整えて、そこにネタを乗せる。そうれはもう美味い。下手な職人やロボットが握るものより美味かったのである。それを知ってから海苔は買わなくなった。生産者さんには申し訳ない。けれども、それがスタンダードになってしまった。

いまでは完全に海苔の存在は消えている。『手巻き寿司』の名前も使っていない。『にぎらずし』。そう呼んでいる。若干、家で作る寿司のハードルも下がった。海苔の価格は馬鹿にならないからだ。その分、いいネタを購入できている。

いろいろな人に話をしてみたが、なかなか評判もいい。すこしづつだが『にぎらずし』は広がりを見せている。やってみなくては分からないだろう。箸で酢飯を整えるのは簡単だ。寿司の形にすることも容易。量を調節できるところも長所だろう。いいとこ尽くめだ。

欠点と言えば、海苔の味が恋しくなることぐらいだろうか。そんなときは海苔をネタにした寿司にすればいい。それはもう酢飯のおにぎりだ。

とにかくおすすめの料理なので是非とも試してみてほしいのである。


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