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The Composition on Oil

私たちは土から生まれた。
しかし、美しく舗装された都会で土に出会えるのは柵で管理された砂場の下だったりする。

都会の砂場

土に囲まれた田舎者は差別的な表現で「土人」などと揶揄されるが、その都会人は彼らが丹精込めて作った美味しい人参や大根やパクチーなどをトレーサビリティという名の監視システムに紐づけて、スーパーやネットで売り捌いては、買い漁る。
自然災害で道路が割れたり、土砂が押し寄せたり、土が少し顔を出すだけで大事(おおごと)になる現代都市。

死んだら土に埋める。
死んだら土に還る。
『土』は、墓や土葬、『死』を連想させる。
人の「死にたくない」という『死』への拒絶が、安心した暮らしを守る「都会」や、死後の救済を約束する「宗教」という幻想を生んだといわれる。文明人の思考が、望んだ究極の便利が、2000年の時を経て現実化したのが今。

砂場の下には、死の世界がある。
都会人はまるで臭い物に蓋をするかのように土を隠す。
100%回避できない『死』を知らんふりして、
今ポチったオフホワイトの美濃焼きの平皿が明日届くのを楽しみにして眠りにつく。

都会に土がない理由。
油の上でパチパチとはじけるクミンシードやカルダモン、シナモンの樹皮やベイリーフ。その香しい匂い、焚き火のような心地良い音と熱気、その黄金のように美しいビジュアルアートに、思考は無意識に奪われた。

The Composition on Oil

スパイスカレーのほとんどは、土の根っこからやってきたもの。その調理、つまり理(ことわり)が調(ととの)う作業というのは、ギターのチューニングのように、視覚、臭覚、聴覚、触覚、そして最後に食すときの味覚を通して、生命体としての在り方をデフォルトに引き戻す作用があるのかもしれない。

「不要不急とは何か」を迫られた3年前のコロナ禍以降、私がなぜスパイスカレーを作り続けているのか、なぜスパイスカレーに惹かれるのか、何となく分かってきたような気がする。

土からやってきたスパイス。
土(soil)からやってきた植物性油(oil)。
それらを火で奏でるハーモニー。
五感から本能に感応する心地よさと美しさ。
もはやそれはトリップだった。

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