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使徒が一〇発落ちてくる【ショートショート#31】

 今日も地球のどこかに一〇発のミサイルが落ちる。
 そのミサイルの強さは、直径一〇〇〇メートルのクレーターができるほどの威力だ。

 そのミサイルのことをみんなは「使徒」と呼んでいた。
 そのむかし「エヴァンゲリオン」という日本という国のアニメ映画があり、それに登場し人類を滅ぼそうとする敵を「使徒」と呼んでいた。それが謎のミサイルの名前の由来と言われている。たぶん。

 使徒は、毎日ランダムな時間、ランダムな場所に、一〇発落ちる。

 朝焼けの海に落ちることもあれば、大切な法案を話し合っている最中の国会議事堂に落ちたこともある。毎日多くの人が死んでいる。

 使徒が落ちてくるようになって、今日で三〇年になる。
 いまだに、どんな目的があって、何者がそんなことをしているのか、どこから飛んできているのかわかっていない。使徒は突然空中にあらわれ落ちる。

 使徒が落ちてできたクレーターの土地は、高値で取引される。一度使徒が落ちた場所には、もう使徒が落ちてこないと信じられているからだ。

 しかしそんなことはなく、稀に使徒が重なることがある。使徒が重なった土地はさらに高値がつく。
 使徒が落ちた土地には金持ちが住みつき高級住宅地になったり、科学的に重要な施設が建つ。

 使徒が落ちてくるからといって、不安や恐怖に怯えて暮らしている人はいなく、使徒などに興味を持つ人もほとんどいなく、使徒なんて存在していないかのように、みんなは生活している。

 それは物心ついたころから、使徒が落ちてくることが日常の世界で生きていると、人間誰しもそうなるようだ。

 そんな中、私はなぜだか使徒に惹かれていた。一日に三度使徒ニュースと、一〇回の速報がある。私はいくつかの使徒アプリをスマホにダウンロードして、最新の情報を手に入れる。
 しかし私の知人の多くは使徒アプリをダンロードしていない。
 使徒アプリは、使徒が落ちた時間と緯度経度が素早く発表される。それが国内であるならば私はすぐに現場に飛んで行った。

 使徒には独特な匂いがある。使徒の爆発の匂いといった方がいいのかもしれない。
 私が使徒を間近で経験したのは5年前の夏で、学校から一〇キロメートル離れた、比較的街の中心地に落ちた。

 高校の授業中、西の空がぴかりと光り、次の瞬間、学校の窓ガラスは全て吹き飛んだ。
 学校でも多くの怪我人が出た。私は飛んできたガラスの破片で左頬から左耳にかけて怪我をし、派手に耳が裂けた。

 爆発に熱はなく、冷んやりした突風だった。そのときはじめて使徒の匂いを嗅いだ。
 使徒の匂いは土臭かった。土の匂いなんて、科学的に合成された高級アロマでしか嗅いだことがなく、使徒のそれは明らかに天然の本物の土の匂いだと、なぜか本物の土の匂いを嗅いだこともないのに、確信した。

 それ以来、私は使徒にのめり込んんでいった。

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