見出し画像

龍平の顔に落書きした【ショートショート#41】

 龍平が僕をバカにするから、顔にマジックで丸メガネを描いてやった。それでもお前使えねえ、と言ってくるから、鼻毛とオデコに縫い目も描いた。僕はそれを想像している間、龍平の言っていることが全く気にならなかった。

 顔にメガネと鼻毛とオデコに縫い目の落書きをされているのに、しゃべり続けているやつの言うことにいちいち腹を立てることはできなかった。僕は龍平を哀れな目で観察していた。

 「お前、なにニヤニヤしてるんだよ!」
 と肩を殴ってきても、痛かったけど怒りが込み上げてくることはなかった。それでも気づくと僕は龍平のお腹にコンパスを何度も突いていた。龍平の白いTシャツのお腹の部分に、赤い点々がどんどん増えていった。

 龍平がお腹をおさえてしゃがみ込んだから、今度は背中を刺していった。赤い点々が均一になるように気をつけて等間隔にコンパスを突き刺した。

「龍平、お前言い過ぎだ! いい加減にしろ!」
 とクラスのリーダー的な存在のリエ子が言った。

 リエ子は背も高く力も強かった。龍平はうるせーよと言ったが、リエ子に頭をはたかれてそそくさと自分の席に戻った。

 僕はありがとうと言いコンパスを筆箱に仕舞った。黒板の上にある灯りを眺めながら、龍平を刺した手の感触を思い出していた。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?