宇宙語が聞こえたら【ショートショート#35】
宇宙からモールス信号のようなものが僕の頭の中に届くようになって、三日が経つ。
しかしまだ、その信号を解読できていない。目を閉じ宇宙を意識すると、宇宙からのメッセージが届く。
それは五感に響きわたる。音、色、匂い、味、温度、むず痒さ、ヒリヒリした感覚などで、僕になにかを伝えようとしている。なにかのメッセージだということは、直感でわかる。しかし具体的なメッセージとして受け取れていない。僕はメッセージの差し出し者に申し訳なく思う。
僕はモールス信号の本から宇宙語、ライトランゲージに関する本を何冊か購入したり図書館で借りて読んでみたが、僕に届く宇宙からのメッセージの解読にはつながらなかった。
僕はだんだんと訳のわからないメッセージに苛立ちが募り、「日本語で言いやがれ!」と椅子を軽く蹴り悪態をついた。
「いのちはかるいのです」
と頭に聞こえてきた。僕は突然の出来事に心がついていけず、その声をスルーし、いったん聞こえていないことにした。僕は落ち着くために椅子に座った。
「にんげんはとくべつではありません。あなたもとくべつではありません」
また聞こえてきた。
「いしきはげんそうです。あなたはいません。いしもありません。せんたくしもありません」
その声は捲し立ててきた。頭に届くメッセージが日本語になった途端、受け入れ難い、理解し難いその内容に、僕は混乱した。
「あなたは何者ですか?」
精一杯、冷静になり僕から出た言葉がこれだった。
「あなたです。うちゅうです。すべてです。なにものでもありません」
哲学的すぎて、いちいち理解できない。
「あなたをなんて呼んだらいいですか?」
少しずつでも声の主を理解しようと質問した。
「『わたしたち』とよんでください」
「わかりました。『わたしたち』が僕に話しかけてきた目的を教えてください」
なにかの心理学で「全ての行動には目的がある」といっていたのを思い出し聞いてみた。
「わたしたちにもくてきはありません。うちゅうにもくてきがそんざいしたことはありません」
「じゃあ、なんで僕に話しかけてるの?」
僕は揚げ足を取ってやったぞ、と意気揚々と質問した。
「わたしたちがわたしたちとはなしているということがあるだけです。あとはなにもありません」
これが質問への答えなのか? いよいよ持って『わたしたち』がいっていることが理解できない僕は、黙りこくってしまった。
「なにももとめてはいけません。なにもないんだから。りかいしようとしてはいけません。いみなんてそんざいしないんだから。いきようとしてはいけなせん。そんざいしているだけなんだから……」
『わたしたち』は僕が質問をしなくても、延々と話つづけた……。
『わたしたち』は今でもずっと、僕に話しかけてくる。僕が静かにしてくれとお願いしても、ずっとずっと話しかけてくる。
『わたしたち』が話しかけてくるようになって一年が過ぎようとしていたある朝、突然『わたしたち』の声がしなくなった。
いくら耳を澄ましても、なにも聞こえてこないし、結局、『わたしたち』がなにを言いたかったのか理解できないままだった。
僕たちは、相変わらず似たような日々を過ごしている。ただ起ることが起こっている。あの一年間が、僕たちにどんな影響を与えたのかさっぱりわからないけど、まあ、やることをやっていこうと思う。
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