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玉ねぎを長ねぎにして食べるまでの記録

2020/5/4
一週間ほど前に近所のスーパーで買ってきた大袋の玉ねぎ。

なんの変哲もない玉ねぎたち。

良く見ると袋の中に「緑」がいることに気づいた。おかしい。この袋の中に緑があるはずがない。

手を突っ込んでまさぐってみると、中から新芽がこんにちはしている玉ねぎが出てきた。

自分が食べるはずだったものに「命の萌芽」を見て、私は恐怖と罪悪感を覚えた。

私はこいつを数年前に流行った「ど根性大根」をオマージュして、「こんにちは玉ねぎ」と名付け、育てることにした。

どこまで育つかはわからないが、あわよくば玉ねぎと長ねぎのキメラのような野菜にして、食べてやろうという魂胆だ。

ピッタリサイズ。


2020/5/5
一夜明けた。
こんにちは玉ねぎの様子を見る。

確実に育っている。

花輪くんの前髪のごとく、ピンと立ち上がった先端に生命の力強さを感じざるを得ない。

持ち上げてみると、根が生えようとしていた。

ちょっとだけキモいと思ったが「お水!お水だ!わ~い!」と喜びながらにょきにょきと伸びていく根を想像したらほっこりした。

あと、水に玉ねぎの出汁が出ていて笑った。


2020/5/6

明らかに伸びている。伸び率がやばい。
昨日までのお前はどこに……?


・2020/5/7

すごい勢いで伸びている。
ちょっと想像してたのと変わってきた。大丈夫だろうか。


・2020/5/8

前日まで曲がっていたのに、急にまっすぐになる。
あと、背が伸びてきてテーブルに置くにはちょっと邪魔になってきている。

数日ぶりに持ち上げてみると、根がさらに伸びていた。

「何かに似ているな~」と思ったらリリスの下半身だった。エヴァの。


・2020/5/9

テレビが見辛くなってきたので場所を移す。
なんだか横にも広がってきた。

根も相変わらずすごい。


・2020/5/10

茎の部分が長くなってきた。
いわゆる「白ねぎ」の部分が頑張っている。


・2020/5/11

なんというか、先端に玄人感が出てきた。


・2020/5/12

昔を思い出したかのようにカーブし始めた。


・2020/5/13
北海道には遅めの春が訪れ、外は桜が咲いていた。

こちらも桜に負けず劣らずのたくましさ。


・2020/5/14

異変が起こった。

何かを威嚇するかのように、突然横に広がったこん玉(「こんにちは玉ねぎ」は長いのでこの日からそう呼ぶことにした)。

原因はもしかしたら、こいつかもしれない。

茂った豆苗。

茂り豆苗からもこん玉の方に触手が伸びているので、もしかしたら寝ている間にくさタイプとくさタイプの激しい戦いが繰り広げられていたのかもしれない。

しかしこのフォルム、なんだか見覚えがあるなと思って、両者を縦に並べてみた。

シシ神様の登場シーン……?


・2020/5/15
茂り豆苗は昨日の夕飯で食べたので、またひとりになったこん玉。

警戒を解いたらしく、少し落ち着いた感じになっていた。

しかし長ねぎ感が強くなってきたな。


・2020/5/16
またまた異常発生。

ひとつの葉が、何かを求めるように横に延びていた。

まるでシシ神様からデイダラボッチに姿を変えてしまったようだ。
首を持っていった人。これを見ていたら返してあげてください。

あと、玉ねぎの部分が小さくなっていた。

ギャッ

すっかり長ねぎ部にばかりに気をとられていたが、玉ねぎ部もだいぶ変化していた。

外皮がグジュグジュになっていて腐りそうだったので、剥くことにした。

剥いた。


・2020/5/17

こん玉が意気消沈したように萎んでいた。
昨日皮を剥いたのが裏目に出たか?

もしかすると葉が重くなり、それに耐えきれなくなったのかもしれないので、断腸の思いで葉を切った。

切った葉。個人経営の芸能事務所のロゴみたいになった。

頑張ってくれ……。


・2020/5/18

すっかり覇気を失ったこん玉。
皮を剥いたのと葉を切られたことで、一時期の勢いをすっかり失ってしまった。


・2020/5/19

どんどんダメになるこん玉。
そろそろ潮時だろうか。


・2020/5/20

また萎んでしまったこん玉。
このままどんどんダメになる予感がしたので、今日食べることにした。

今までありがとう。こん玉。
君の命、いただきます。

しかし、ここだけ見たら立派な長ねぎだな。
成功ではあったかもしれない。


可食部の確認。

玉ねぎ部、けっこうグズグズになっていたので、剥いたら小さくなってしまった。


・玉ねぎ部


・長ねぎ部


・おまけの小ねぎ部


すごい。ひとつの玉ねぎからの三つのねぎが誕生した。

二兎を追う者は一兎をも得ないが、一ねぎを育てるものは三ねぎを得ることが判明した。


今日はこいつをスープにします。

こうして



こうして



こうしたところに



こん玉を入れて



煮込む



さてどうなるものか……


こうなりました。

どういうシステム?

どうやら玉ねぎ部が上にスライドしたみたい。
そうなるのか。


出来ました。


「こんにちは玉ねぎのスープ」でございます。

味は、なんというか、まあ、想像通りでした。
ごちそうさま。

(完)


~ ~ ~ ~


・2020/5/27
こん玉との別れから1週間が経った。

手間の割には拍子抜けするほど玉ねぎの味だった。

しかし、私は恐れていたのだ。
こん玉の生命力を。

そのまま育てていては、いつかこの家ごと飲み込まれてしまうような生命力。

だから、内心私は安堵していた。
自らの好奇心とエゴから始めた実験に終止符を打てた事を。

そんな事を思いながら、ふと玄関先の玉ねぎネットを見てみる。

……なにかある。

そうか……これは……。

まだ終わっていないのだ……。

(END)

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