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【読書ノート】マチズモを削り取れ

「空気を読め」という便利な言葉の呪縛に囚われ、男性社会で上手く立ち回るために小さな違和感を殺しつつ会社生活を送っていませんか?いや、もしかしたらその違和感の存在に気づいていないかもしれません。そんなもんだと幼少期から教えられてきたから。

本日読み終えたのは、読書の秋2021最後に読んだ課題図書は集英社出版、武田砂鉄著「マチズモを削り取れ」です。読書の秋最後を飾るにふさわしい書籍でした。

マチズモとは男性優位主義のこと。男性優位主義なんて書くと、「ここはイスラム圏じゃあるまいし、多少の問題はあれど男女平等でしょ〜」と思いがち。でも問題はその「多少の問題」に潜んでいるのです。

人気タレントが大手週刊誌の取材で、好みの女性のタイプを聞かれ、当たり前のように「3歩下がってついてくる必要はなくてもいいけど、2歩くらい下がっていただければ(笑)。たとえば、手料理がおいしいとか」と言い、さらには週刊誌側がそれを良かれとして掲載しても、それは多少の問題。医大の入試で意図的に女性志願者の合格ラインを引き上げても、まだまだ多少の問題。組織で女性が男性と働く際に空気を読まなきゃ生存競争で蹴落とされるのなんて、問題でさえない。

かく言う私もそういう違和感に気づかず日本で生まれ育ちました。違和感は小さなほつれのようなもので、それがどんどん大きくなってストレスや非条理の大元となります。それを言語化し続ける大切さはこの前読んだ「それ勝手な決めつけかもよ」にも書いてありました。


女性が稼ぎにくい環境であるのは周知の事実。妊娠・出産で仕事を休業し、復帰しても子供が熱を出すたびに「すみません」とコソコソ帰り、その間男性社員たちは飲みニケーションに勤しむ。女性はそもそも同じ土俵に立っていません。

そんな不利な環境の中、男性より低い給料で甘んじなければならず、ようやく独り立ちして家を借りようとすると「セキュリティ面を考えた上で」、駅近だとか1階を避けるだとか何かとコストがかかる不均衡。それを「しょうがない」レベルの議論にとどめておいていいのか、と武田さんは疑問を投げかけます。男性に守ってもらわないと生きていけない仕組みがもうそこにあるのですね。なんとも悔しい。

そのような議論になると、出てくるのが「男もつらいよ」論。

大変だ、差別だ、の総量を比較考査するわけでもなく、こっちにもあるんだぜと提示してくる限りにおいて、差異は保持される。こっちだって大変、という決まり文句は、理解ではなく、無理解の保持、あるいは培養に使われる。男と女の差異を、保持したがっているのである。

ほんとにね、痴漢や女性専用車の話になるとこの議論が出てくるのが、一番悲しい。痴漢の話をしていると、「でも痴漢冤罪もあるよ」という男の主張は、なぜ、痴漢がなくなれば痴漢冤罪をもなくなるという、皆で団結できそうな目的よりも優先されてしまうのだろう」と武田さんはおっしゃいます。敵として戦うのではなく、味方として手を取り合って戦ったほうがずっと効率的なのに、どうして結局卑劣な痴漢が得する構図から抜けだせないのでしょう。

今ある優位性を保持したいがあまりに相手側を攻撃する現象は、アメリカにも人種差別という形で存在します。私のような移民がいきなりやってきて大学へ通い、そのまま就職して元からいるアメリカ人の何倍も稼ぐようになる。その不公平さ(と思っている)をアメリカ人が目にし続けて鬱憤が溜まり、ついには逆上した結果が、トランプ前大統領の台頭でした。でもね、資本主義の社会というのは時間の経過とともに良くなっていくのが常なのだから、元からいるアメリカ人が変わることなくのんびりしていたら、アメリカ国内の移民を押さえつけたとしても、別の諸外国が発展してアメリカが落ちぶれるだけの話。争うところはそこではない、の典型的な例ですね。日本の男女差別や痴漢談義と似ています。

いや〜でもほんと痴漢はどうにかしたほうがいいですよ。2年前の夏に長女@中1を一人で電車に乗せて習い事に通わせたことがあって、どうやって車内で痴漢に気をつけたらいいかとか対処法だとか、説明に困りました。どうして変態の君たちのどうしようもない犯罪の説明責任を私たちが負わなきゃならんのだ?海外でもSUSHI的にCHIKANとして定着してしまったこの言葉、恥ずかしくて仕方ないと思いませんか?日本国内で男女がいがみ合ってる場合じゃないです。とっとと撃退しないと恥ずかしい思いをするのは私たちみんな。

さて、男女の差異と言って一番話題をかっさらうのがトイレの便座を上げたまま問題(笑)。っていうか、君たちなんでそこまで立ちションにこだわるの?

思わず失笑してしまったのが「立って小をする理由」である。その最多回答(複数回答可)が「そういうものだと思っているから」(六八・七%)で、その次に「そのスタイルが楽だから」(四九・五%)と続く。座ってする理由として選ばれている「汚れるのが嫌だから」(七一・四%)、「掃除が大変だから」(二六・二%)と比較してみると、立ってする理由の幼稚さが目立ちます。

5歳児か!

だからなのかな?そうやってがむしゃらに自分たちの地位を温存しようと全力疾走するのは?

財界のトップはいまだに男ばかりだが、経団連でダイバーシティ推進を担当するANAホールディングス・片野坂真哉社長がインタビューに答えており、聞き手が「経団連幹部にも2割を目安に女性を入れると決めてはどうでしょう」と提言すると、「規定からはいるのはおかしい。シンボリックに女性を登用すると、その人たちも相当苦労します」とインタビューが締めくくられている。

女性をシンボリックに仕立て上げてげるのはどっちだっつー話ですね。「女は数字が苦手」「女は地図が読めない」「女は感情的」って何度聞いたことか。そうやって自分をさりげなく(私から見ればあからさまだけど)優位に立たせて、男性間の仲間意識という名のもとで入口を封鎖してきた方々に、シンボリックがどうのこうの言われたくない。

と、読めば読むほど、不平等な実態を思い出す結果となり、申し訳ないほどムカムカしてくる本書。なんと著者は男性でした!武田砂鉄さんというペンネームからはどちらかわからなかったけど、感覚的に女性かな〜と思っていただけに(私自身も男性像・女性像に翻弄されている証拠ですね)、これにはびっくり。こうやって男性である自分が与えられている特権を顧みずに、社会の不平等について声を上げられる人がいるなんて、心から安心しました。こういう方がいるなら日本はまだ大丈夫!と根拠が若干薄い自信がみなぎってきました。

ここ20年、激しい国際競争で頭角を現せずにいる日本。こんな時こそ、国内で男女がいがみ合うのではなく、手を取り合って日本の勢いを取り戻したい。著者の武田さんの趣旨はきっと違うところにあるのでしょうが、私はこの本のメッセージを応援歌と受け取りました。男女差別だけでなく、「犠牲」を美徳とする運動部やオリンピックへ疑問を突きつけるなど、現代の幅広い不平等や違和感に対して疑問を投げかけるこの本は、男女問わず必読です。これから日本にかつての勢いを取り戻してほしい、と願うとき、持っているカードの半分を捨てることの愚かさに気づくきっかけになるはずです。

#マチズモを削り取れ  

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