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【読書ノート】Homegoing

Yaa Gyasi著のHomegoingを洋書で読みました。Homegoingは帰郷という意味です。18世紀の西アフリカ(アシャンティ帝国、現在のガーナ)で同じ女性から生まれた2つの家系をたどる物語です。1人の娘はアフリカに滞在し、もう1人は奴隷にされてアメリカに連れて行かれます。各章では、アフリカとアメリカを行ったり来たりしながら、新しい世代の新しい子孫のストーリーが語られるスタイルです。

いや〜、この長編を英語で読んで流れをつかむのには、ちょっと苦労しました。付属の年表を片手になんとか迷子にならず、7世代にわたる壮大な歴史小説に身を置くことができて、特別な気分に浸った1ヶ月でした。すでにロスで、ガーナに帰りたい(←行ったことないけど)。

ふたりの姉妹エフィアとエシ

ガーナで、同じ母の元で生まれたふたりの姉妹エフィアとエシ(お互いを知りません)から話は始まり、それぞれの子孫たちへと移ります。子孫たちのストーリーは独立しているのですが、始まりはその姉妹、そして最後はアメリカに住むそれぞれの子孫がガーナを訪れると言うふうにまとまっています。7世代にわたるドラマを、一人の人間が見届けることは不可能ですが、それを読書という形で擬似体験できるなんて、これこそが読書の醍醐味ですね。

エフィアは、英国の奴隷貿易の一環としてアフリカに来た白人男性と結婚し、妹のエシは米国で奴隷として売られていきます。そしてエフィア側の子孫は主にアフリカで波乱の人生を送り、エシのほうはアメリカの奴隷制度、黒人差別を生き抜いたのです。

エフィア側の子孫

エフィアの息子「クエイ」は奴隷価格に関する取引をするために、イギリスから母親の村に戻ってきて、そこで政略結婚をすることになります。「クエイ」の息子「ジェームズ」は、奥さんを捨てて、祖父のアサンテ王の葬儀で出会ったアコスアという最愛の人と駆け落ちをします。その結果生まれたのが、「アベナ」。「アベナ」は不幸な結婚の末に娘「アクア」を出産。「アクア」は火事の悪夢に悩まされ、それが日中の仕事の疲れと重なり、パニック症を起こし、自分の家に放火してしまいます。この火が呪いの象徴となって、小説のあちらこちらに散りばめられることになります。その火事から重傷の末に助け出された息子「ヤオ」は母親との縁を切り、教師になります。その後、身の回りの世話をお願いしていた女性と結婚し、「マージョリー」が生まれます。「マージョリー」はアラバマ州で育ちます。白人には黒人だと距離を置かれ、黒人グループには白人のように振る舞っていると距離を置かれる毎日なので、誰とも特につるむことなく、読書に没頭します。毎年夏にガーナに戻り、祖母である「アクア」と過ごす時間が大好きです。

エシ側の子孫

エシ側の子孫はさらに過酷です。エシはアフリカから米国に連れて行かれ、奴隷として売られます。その後生まれた娘のネスはさまざまなプランテーションで育つことになります。ネスは別のアフリカ人奴隷サムと結婚し、「コジョ」という名前の息子が生まれます。家族3人でプランテーションを脱出を試みますが捕まってしまい、必死に息子の「コジョ」だけを逃げさせます。「コジョ」はメリーランド州で暮らしています。その頃「Fugitive Slave Act」(逃亡奴隷法)という法律が施行され、1つの州から他の州へあるいは公有の領土へ逃亡した奴隷の返還が可能となり、それと同時に妻と息子の「H」が姿を消します。「H」は無実の罪で投獄され、その後も鉱山で働きます。「H」の娘「ウィリー」はニューヨークに引っ越し、息子「ソニー」が生まれますが、まもなく結婚生活は破綻しました。「ソニー」は母親との確執があり、そして仕事先のジャズクラブで薬物を紹介されたことから中毒に陥ります。人生の底辺に陥った「ソニー」は母親の元に戻り人生を立て直し、「ソニー」の息子「マーカス」はスタンフォード大に通っています。

な、長い・・・。こうやって書くと流れが見えますが、読んでいる途中はかなり混乱しました。家系図が本についてくるので、それを見つつ、そしてあらすじが書いてあるサイトをカンニングしつつ(恥)、すべてを理解した次第です。

最終章

最後に交わる姉妹エフィアとエシの子孫が、マージョリーとマーカスです。大学院で出会ったふたりは打ち解け、祖国ガーナへ旅を共にします。ガーナで、マーカスとマージョリーはどちらもケープコースト城、奴隷貿易のシンボル的な場所、の歴史を学びます。最後にマージョリーは祖母から受けついた石のネックレスをマーカスに渡します。それが2家族間の和解のシンボルだったのです。

私が汲み取ったメッセージ

努力は報われる、なんてきれいごとがどれだけ薄っぺらいことかはみんな分かっているけれど、どうしてもいい結果に終わる努力だけが讃えられます。でも実際は報われない努力のほうが多くて、世の中は不公平。この話を読んでいると、先祖から伝わる歴史や長年の家庭環境というのは、下手するとどんな努力を飲み込んでしまうんだな、と虚しくなります。

Evil is like a shadow. It follows you.

エフィアが、息子「クエイ」がイギリスから奴隷価格に関する取引をするために村に戻ることを知ったときに言った言葉です。Evil、悪や呪いはこの物語全体のテーマですね。この呪いが子孫代々の人生であらゆる影響を与えているのです。悪が影のようだ、と喩えることで、エフィアだけでなく、いくつも先の子孫である「アベナ」や「ヤオ」の人生にまで、呪いがつきまとっていることが表現されています。

その呪いというキーワードが独立した短編小説のように見える14の章(つまり14人の主人公)をうまくつなげている部分です。じゃなきゃ14人ともそれぞれの重すぎるドラマがあって、それぞれの物語で感情移入をするので、最終的に混乱してしまいますから。愛、親子関係、不貞、アイデンティティ・クライシス、奴隷貿易・民族間戦争、階級社会、薬物中毒などなど、とにかく盛りだくさん。でもその悪とその後代々つきまとう呪いがテーマとなり、巧妙に登場人物とその祖先たちが入り組むので、構造的にも独特の深みがあったように思います。

あと14人それぞれが抱える問題が、その時々の社会事情と共に変質していて、その辺の歴史がビジュアル的に理解できると、昨今のBlack Lives Matterのムーブメントを考える上で役立つと思います。どうしてこの差別が生まれたか、進学率や犯罪率に必ず人種が関係するのはどうしてなのか、頭では分かっていても、こう言う世界(たとえ小説の中であっても)に身を置くことによって、それがどれだけ根深い問題なのかを、深いレベルで理解することことができます。そう言う意味では、長編で大変ではあるけれど、今こそ多くの私たちが読むべき小説だと思いました。

何よりも、歴史小説好きの人にはたまらない一作です。

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