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乳がんサバイバー 第30話 子宮と卵巣の摘出


 9センチにもなっているという卵巣の腫瘍は、悪性か良性か組織を取り検査しないとわからない、ペットスキャンも可能だが、卵巣も子宮も手術での切除が良いと言われた。

医者が子宮の摘出も勧めた理由の1つは飲んでいる抗ホルモン剤が子宮がんにかかる率が高いこと。それから出産時から子宮を支える筋肉が傷つき弱っているので、将来子宮脱になる可能性が高かったこともある。

私が躊躇した理由は抗ホルモン剤で女性ホルモンを抑える薬を飲みだして、薬による閉経で、いわゆる更年期障害になった。これが思ったよりもつらかったことだった。急に顔をオーブンに突っ込まれたようになるホットフラッシュや気分のムラ、いらだちに悩まされた。そして子宮や卵巣を切除すると、この症状がもっとひどくなるのではないかと心配だった。それに女性の器官を取ってしまうことで(もう女性ではなくなる)ような気がしたからだった。

それに手術はこれで7回目になる。麻酔での気持ち悪さや痛み、病院での辛さなどはもう十分すぎるほどわかっていた。

子宮の摘出のことを放射線科の大好きなドクターに相談することにした。

「それはね、やったほうが良いわよ、2か所も癌になるかもしれない場所を心配することがなくなるんだから」

「でも怖いんです。子宮を取ったら男になるって、ひげが生えてくるって聞いたから」と言うと豪快にがっはっはと笑い

「ひげなんて生えないって、だって私は生えてないわよ」

「え?先生もしたんですか?」

「そう、私もね子宮摘出手術してるのよ、何十年も前にね」

ドクターSは素敵な女性だ。ひげだってもちろん生えてない。ドクターに背中を押された気持ちになった。何を迷っているのだろう。リスクが少ない方がいいに決まっている。

卵巣と子宮どちらも摘出する。それでも女でなくなるわけではない。私でなくなるわけではない。生きるためには何でもしようと思った。幸い腹部切開手術ではなく腹腔手術になるという。最初に子宮は膣から取り出すのだと言われすごく驚いた。想像するとすごく怖い。それでも切開手術よりも後がずっと楽なのだと説明された。


2005年6月21日 

手術は翌日 朝から病院へ 入院することになった。チェックインをしてレントゲンを撮る。血液検査の針がなかなか入らず、腕の中ぐらい、それから親指の下あたりも3回くらい失敗。点滴の針もまた何回も失敗され、中指の下あたりでやっと入った。この場所は痛い、手術の前から帰りたくなる。

夕方からColyteという下剤を飲み始める。お腹を完璧に空っぽにするために4リットル飲む。一度飲んだことがあるので病室は1人部屋にしてもらった。まずい下剤4リットルは本当に辛い。ジュースは飲めると言われたのでジュースを飲みながら下剤を飲み続けた。

脱水になるので4時頃から水分補給の点滴をつけている。血液を薄くする注射もする。これはかなり痛かった。下剤はあまりにもひどい味で、しかもすごい量だ。飲んでも飲んでも減らない気がする。電話で夫と息子と話をする。

「ママだいじょうぶ?」

「だいじょうぶだよ!夜ご飯何食べたの?」

「あのね、マック! えへへへ」

電話を通して聞く息子の声が恋しい、早く元気になりたい。そのためにがんばるのだ。

夫も「だいじょうぶだよ、明日行くからね。君はファイターだよ、そのこと忘れないで」と言ってくれた。


翌日の21日 朝1番で手術。 ついに7回目の手術だ。

朝7時からの手術 いつもと同じ手順で全裸の上に手術着を羽織る。準備室で注射をされ廊下をガラガラとベッドで移動する。そのあたりで意識を失う。

目が覚めた途端、リカバリー室でお馴染みの吐き気に襲われる。何回もの激しい吐き気が本当に辛い。息もできない。

手術は子宮摘出手術(Hysterectomy)それから卵巣切除手術(Ovariectomy surgery)これは内視鏡手術だ。お腹に4箇所穴をあけた。おへその中と恥骨の上とわき腹に2つ。目が覚めると網でできたような下着をつけていた。

夫と息子が午後から大きな花束を持ってきてくれた。声は聞こえるけれど、目を開けられなかった。

入院中は2時間に1度血圧を測りに来る。夜1度血圧が上が79下が49になり、心配したナースから肩をゆすられ、大きな声で名前を呼ばれ起こされた。お願いだから眠らせてと思った。

翌日はまだふらついて気持ちも悪かった。朝フレンチトーストとコーヒーをいやいや食べる。歩けて、トイレに行けて、ランチを食べれたら帰っても良いと言われる。その時はあまりの具合の悪さにまさかと思った。

カテーテルをはずしてもらう。ふらふらだが、はじめて歩くこともできた。食べたら退院とわかっていたので、お昼に出たグリルドチーズサンドを無理に口に押し込んだ。夜はチキンレッグ、これもいやいや食べた。早く家に帰りたかった。そしてやっと夜帰ってもいいと言われる。


病院はもう、こりごりだ。早く帰りたい。愛する家族の待つ家に。

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