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revival

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過去作を掘り起こして掲載します。三本立ての名画座のイメージで。名画にはほど遠いですが……。
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宿題〈加筆修正版〉

【小説】

 

※本作は、2014年4月にnoteに掲載した作品の加筆修正版です。

 

 

 世界から嫉妬というものがなくなれば、どれほど平和で生きやすい世の中になることだろう。戦争や犯罪は、つきつめればすべてが嫉妬というやっかいな感情に起因する。

「幸せとは優越感だ。他者との比較の上にしか存在しない」

 そう言った高校の友人は、大学在学中に自ら命を絶った。遺書には「私の内に棲む嫉妬と

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環状線の終着駅

【詩】

 

「どうしようか」と少年は思う

もう二周半も環状線に乗り続けている

その電車から降りることができずに

この広い街をぐるぐるとまわっている

高層ビルのあい間を縫い

谷の底に集まる人びとを見おろし

西へ行く特急とすれ違い

北へ行く快速列車と並走して

丘の上の墓地を眺め安堵する

まわりの人は入れ替わり立ち替わり

少年だけがシートに腰かけたまま

早送りの映像のなかで

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9歳の彼女はそのとき

【小説】

 

 彼女はそのとき9歳で、産まれて間もない末の妹を背負い、6歳になるすぐ下の妹の手をひきながら、抱えきれないほどの荷を背負う父母のあとを懸命に歩いていた。

 少し歩を緩めれば、父母との距離は離れてゆく。自分ががんばらなければ、妹たちとともにこの地に置き去りになるかもしれない。彼女は弛みそうなおんぶ紐を右手でしっかりと握りしめ、左手で次女の手をひいて汗だくで歩いた。

 自分たちが

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分断された夜

【詩】

 

分断された夜の片方を

白く太ったねずみがカリカリと

規則的なリズムでかじっている

もうじき夜が明けるというのに

かりかり、かりかり、

かりかり、かりかりと

もう片方をかじられやしないかと僕は

そんな心配ばかりで眠れずにいる

子供のころからときたまやってくるそいつは

赤い眼をして遠巻きに僕を見つめる

何か言いたげにカリカリしながら

分断された夜の片方をかじりなが

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遠ざかってゆく

【詩】

 

思いは遠ざかってゆく

わずかなベクトルの相違が時のなかで

悲しいほどにあっけなく姿を変えるよ

今日はお酒を飲んでないので聞いてくれ

何が大切で何が優先なのか

同じ入口で出会い違う出口を目指す僕ら

それは仕方のないことだと知ってる

一時の感傷 これも恋と同じよな鬱屈

目をつむってやりすごす強風

違う場所に立って吹かれる風 思いは

思いは遠ざかってゆく

 

ta

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忘れてしまっただけなんだ

【詩】

 

いつものカウンターで最初の一杯を飲む

まだ外は明るく少しだけ罪悪感を覚える

アルコールが空腹の胃で吸収されすぐに

脳のある機能を麻痺させまた別の機能を

日常とはまた別のsenseを目覚めさせる

グラスの氷指でかき回しながら探してる

霧のなか形を成さない粒子を凝視してる

曲が鳴る連続写真のような光景が浮かぶ

二杯めの9千キロを旅してきた酒を飲む

考えるべきことはたく

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