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企業が求める「就活生」

私の就活生時代の話をしたい。

ある企業では、三次面接の前からメンターの方がついてくださることになっていた。初めてメンターの方とお話をしたのは、電話口でだった。帰り道、突然鳴り出した着信に、慌てて応答した。

まず、前回の面接を突破したことに対する祝辞、そして今後の選考フローの説明、現在の就職活動についての質問などが10分程度続いた。

最後にその方から、「よかったらインスタグラムをフォローしてください。」と言われた。

私は情報過多になると判断力が鈍るのが嫌で、LINE以外のSNSはやっていなかった。そのため、「すみません、インスタグラムをやっていないんです。」と正直に答えた。

その瞬間、スピーカーの向こう側から、「ふっ」と嘲るような笑いが聞こえた気がした。

…私が聴き間違えたのか?別の感情で微笑を浮かべたのを、私が悪いふうに受け取っただけなのか?真偽のほどは今となっては闇に葬り去られている。しかし当時の私には、「インスタグラムをやっていないなんて変なやつだな」「もっと必死こいて就活に関する情報取っていけよ」という含み笑いに受け取られた。

この経験から、私は以下の2つの疑問を抱いた。

  1. 就職活動において、あらゆる情報源を網羅しなければならないのか?

  2. SNSをやっていない若者はレベルの低い人間なのか?

そして、私はこれらの問いに対して、NOと答える。(もちろん、ここまでの書きぶりから見受けられるように、この出来事に対して憤りを感じているため当然そこには否定の気持ちがあるわけだが。)

まず、前者に対する私の反論は、「個人でも企業でもSNSの利用方法などといった些細な多様性は想定した上で情報を発信するべきだ」というものだ。包括性の観点で話すならば、人々(特に発信者)はSNSの利用率には世代間、コミュニティ間で差があることを承知の上で、可能な限りどの人にも均等な情報を提供するように努めるべきだと思っている。情報の格差を利用するという観点ならば、多様性があるからこそマーケティングにおけるターゲット層が絞られていくわけである。そのため、良くも悪くも多様性があることは前提としなければならないと思うのだ。

そこを、どちらかというと均等に与える必要があるであろう情報を特定のSNSでだけで発信し、それをしていない就活生を貶す姿勢はいかがなものだろうか。無論、私のような情報弱者には「用はない」というメッセージならば異論はない。私は共感できないのみだ。

後者の問いに対する反論は、「自分にとって必要な情報を取捨選択できる人が幸せな生活を送ることができると私は考える」というものだ。

SNSは今や強力なマーケティングツールであり、自己の表現場所である。そのため、多くのSNSを頻繁に利用する人ももちろんいるだろう。一方で、何か大事なもののために情報を可能な限り遮断している人もいるだろう。どちらかが良い悪いではなく、それぞれの哲学と情報リテラシーに基づいて判断すれば良い話だ。そうして判断している人が心地よい生活を送っていると、周囲を観察するなかで、感じている。また、様々な書籍などでも似たような主張をしているものが見受けられる。

そのため、全ての若者に対して「SNSを使いこなしているはず」「そうしているべき」「そうしてデジタルネイティブとして私たちに恩恵を与えてほしい」と思うのは道理が通っていないと思う。

そう思っているのならば、私はできる限り距離を置くのみだ。


このような調子で、私はこの出来事に対して悶々とする数日を送っていた。これだけ聞くと、「あぁ。就活ってやっぱり嫌だな」と思うかもしれない。しかしこの出来事から私は、

「自分は可能な限り多くの人を理解するように努める人間になりたいのだな」

という信念に気づくことができた。

その結果、その後に理念に深く共感する企業が見つかり、内々定をいただくことができた。熱い思いを面接でも語ることができた。(その出来事を話したわけではない。この経験をきっかけに、この信念に基づいた過去の自分の経験が芋づる方式で掘り起こされたためそれについて話した。)

怒りというものはかなり強烈な負の感情であるだけに、背後には自分の強い思いや信念、価値観が潜んでいる。それらを知ろうとすると自分の怒りに対してもう少し寛容になれる、他人にも寛容になれる気がする。

アンガーマネジメント、というものが研修などでも実施されている。それだけ重要だということであろう。その中には相手の価値観と自分の価値観の違いに気づき、許容範囲を広げるワークも含まれることがある。

だから、就職活動中に怒りを感じる経験があっても、それを良い機会として、自らの譲れないもの(スピリチュアルっぽくいうと使命)を発見できるならば、案外悪くないのかもしれない。それはきっと、将来の自他の深い理解に繋がっていく。

と思ったという私の就職活動中の一コマでした。




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