ワクワクリベンジ読書のすすめ~『名文どろぼう』竹内政明著~
著者は、読売新聞のコラム「編集手帳」の6代目の執筆者である。2001年から2017年までの長きに渡って担当されてきたヒントがこの著書におさめられていると感じた。古今東西を問わず、各界の著名人の興味深いエピソードやメッセージが記載されている。
いわゆる新聞記者としてのネタ本、情報の引き出しというべきものだろう。
そんな中から特に面白かったものを、3つほど案内する。
(1)明治から大正にかけて東京帝国大学で経済学を教えた和田垣謙三教授。
「どうすればお金もうけができますか」という学生の質問に対して
「猿の毛を抜け!」と答える。
つまり、MONKEYの「K」を抜けばMONEYになる、と。
そんな気の利いた洒落で学生を煙に巻いたようでもあり、「経済学を何と心得るか」とたしなめたようでもある。
(2)黒澤明監督が内務省で脚本の検閲を受けた際、家族が娘の誕生日を祝う場面に、検閲官は「誕生日を祝う行為は米英的な習慣だ。今時そんな場面を書くとはもってのほかだ」と。
それに対して黒澤監督。
「すると、天長節を祝うのもいけないのですか。天皇の誕生日を祝う、日本の祝日ですが、あれも米英的な習慣で、もってのほかの行為なのでしょうか」と。
検閲官は真蒼になったらしい。
(3)徳川家康が浜松城を武田信玄に包囲された際、武田側は敵味方を植物に例え、松(松平氏=徳川家)は枯れていくぞ、竹(武田氏)は比類なき繁栄を見せるぞ、という句を送る。
松枯れて竹たぐひなき旦哉(あしたかな)
その句に改めて劣勢を思い知らされ意気消沈した徳川軍。
それを酒井忠次が濁点を付け替えて句を読み直し、城内に生気と戦意を漲らせたらしい。
松枯れで武田首無き旦哉
いずれもナイスな切り返し、である。
世の中にはこうしたエピソードが数多くある。それが文章を書く時に生きてくる。よい文章を書くには、どれだけ優れた情報の引き出しをもっているかということ。
大切なのは、情報を感知するアンテナの精度を高めること。どんなに読書しても感度の悪いアンテナからは知恵は生まれない。1日24時間・1年365日という時間の中で、どこまで高いパフォーマンスを示すことができるか。それが文筆家としての存在意義でもあるのだろう。
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