見出し画像

安野たかひろさん、俺のとこまで下りてきてくれ

2024年7月7日の東京都知事選挙。
僕は、最後まで安野さんと小池さんで迷い続け、小池さんに入れた。

安野さんはスマートで、好感度も高く、人柄も良さそうだった。

しかし、東京都出身・開成・東大・AIエンジニアというスーパーエリート経歴が、どうしても僕の在野精神を刺激したのである。

僕はド田舎出身の公立育ちである。
中学受験など県内に存在せず、塾といえば公文式かそろばん教室、地元の同級生は2割が中卒である。
安野さんが昼下がりのスターバックスでcoffeeをたしなんでいるだろう時、僕は近所の河原に自生するグミとイチジクをもいで食べていた。
鉄緑会がなんぼのもんじゃい、クワで殴れば人は死ぬんじゃという田舎魂が、僕の手を、いまだどこかに土の香り漂う百合子へと導いた。

こんな理由を安野さんが読んだら心底呆れるであろう。
しかし、事実である。
あまりに垢抜けた経歴は、時に人を卑屈にさせる。
おそらく、僕のようにルサンチマンゆえにどうしても安野さんに投票できなかった人間は少なからずいるはずだ。
この引っ掛かり、モヤモヤを忘れないためにも、安野さんに感じたことをここに書き記しておく。

安野さんの開票結果分析

安野さんの開票結果は、非常に傾向がわかりやすかった。
全体得票率は2.3%。地域ごとの得票率は以下である。

区部:2.6%
市部:1.5%
西多摩郡:0.4%
島部:0.7%

23区での得票率が優位に高く、それ以外では低い。
東京都の有権者のうち69%は23区在住なので、他の地域での得票率が低くとも、全体の2.3%は獲得できたわけである。
そして、23区での得票率は以下の通りである。
千代田区:4.8%
文京区:4.8%
中央区:4.5%
港区:4.1%
渋谷区:3.9%
目黒区:3.6%
新宿区:3.3%
品川区:3.3%
台東区:3.1%
豊島区:3.1%
中野区:3.0%
杉並区:2.9%
世田谷区:2.9%
墨田区:2.8%
江東区:2.7%
=====23区得票率平均ライン======
北区:2.4%
荒川区:2.4%
大田区:2.2%
練馬区:2.2%
板橋区:2.0%
葛飾区:1.5%
江戸川区:1.5%
足立区:1.3%

都心の文教地区とIT系に強い街で高く、荒川を越えた下町地区では低い。
「東大」「AIエンジニア」と親和性の高い地域の住民から高い支持を受けたことがわかる。

安野さんを阻んだ荒川の関

つまり、安野さんのアピールポイントを理解できる・応援したい人へは、しっかりとリーチできていることになる。
その結果およそ154000票を獲得し、得票数5位に食い込んだ。
石丸氏どころではない、本当に全くの無名からのスタートでこれは、素晴らしい結果である。

大衆にはウケない

では、なぜ5位で終わったのか。
これも非常に明確で、知名度の低さに加えて、「同質性リーチできる層の狭さ」がある。
ここで、下記表を見てみよう。
これは、安野さんの開票結果のうち、人口の多い自治体TOP10の結果である。


ちなみに、世田谷・練馬・太田・足立・江戸川・杉並で、全投票数の3割超を占めている。このうち、安野さんの全体合計得票率を超えている自治体は、3つしかない。
つまり、安野さんは、人口が多い自治体では「弱い」のだ。言い換えると、「大衆にウケない」ということになる。

僕は、選挙は有能さの勝負ではなく、好感度の勝負だと思っている。
マニフェストを読み込んで投票先を決める有権者は圧倒的に少数派であり、大多数の人間は「知っている」「なんとなく好き」程度で決める。
そして、この「なんとなく好き」を作りだすには、安野さんの経歴・属性は強すぎる
開成・東大・AIエンジニアというスーパーエリートに共感する・同質性を感じる層は、東京都であっても限りなく少ない。
この、安野さんの打点の狭さは、今後の選挙でも課題となるだろう。
それは、マニフェストにも現れている。

僕のためのマニフェストじゃない

安野さんのマニフェストは、オープンソースで公開されている。
「テクノロジーで誰も取りこぼさない」をテーマに作られた政策案は、分析・提案ともにクリアでわかりやすかった。
しかし、すごく率直なことを言うと、「僕のためのマニフェストじゃないな」と感じた。
「誰も取りこぼさない」の「誰も」に、中卒夜職とかパチスロ狂いとか精神病患者とかリボ払い野郎とか犯罪者は入っているのかな。
もっと言うと、「これ、あんまり生活に困った経験がない人たちが考えてるな」ということである。

ここでいう「困る」とは、単に貧困ではない。
識字障害とか、知的障害でパソコンが使えないとか、そもそも年取って新しい知識が入らないとか、いろんなことがある。
安野さんのマニフェストには、進むべき未来こそあれど、今・ここに抱えている悲壮な困り事が見えてこなかった。
つまり、「健康で、賢く、若い人の考えたマニフェストだな」というのが、第一印象であった。

それが如実に出ていたのが、③教育・子育て である。
ここに、「東京都の教育費は全国平均費の2.3倍かかる」とある。
これは僕の直感なので間違っていたら指摘してほしいが、これを押し上げているのは、都心文教地区の人々ではないか。
そこに対して、「最先端の学びの機会を作る」と言われても、足立区のお母さんには何も刺さらないだろう。
足立区住民が困っているのは、高齢出産の不安でも教育費の高騰でもなくて、今日を生き抜く金である。

その証左として、安野さんのマニフェストを検索しても、「貧困」「障害」「シングルマザー」等の、非エリート的課題に言及した政策案は、見つからなかった。
貧乏人は、エリートの目には入らない。悲しい事実である。

ついでに言うと、僕はこのマニフェストからは、テクノロジーへの愛は感じたが、「東京都をこうしたい」という熱量を感じなかった。
なんというか、アイディアリストに見えてしまった。
「テクノロジーで、たとえばこの課題を解決できます!こんな未来都市を実現できます!」お品書き一覧として読めば、非常にいい出来だった。
でも、僕みたいな人間は、その街には住ませてもらえないだろうなと思った。
明るさや希望とは、決して「貧困を無視すること」ではない。
それで成り立つ輝かしい未来は、ただのディストピアだ。

今後の戦略

安野さんが次の都知事選で当選するには、大衆からの支持を獲得する必要がある。
そこで、僕が提案したいのは、台東区の区長を目指すコースである。
いわゆる下町区の中で、比較的安野さんの得票率が高かったのが、台東区であった。
今の安野さんをいけ好かなく感じても、「台東区長」であればどことなく泥臭さが出る。きっと足立区民も、少しは親近感を感じてくれるのではないだろうか。

しかし、これは、安野さんが本気で東京都知事を目指していた時の話である。
安野さんは、本当に都知事になる気だったのだろうか。

僕は、そうは思えない。

チーム安野は、非常に優秀なチームである。
東大、コンサル、一流の頭脳が集まったチームである。
そんな優秀なメンバーが、これだけエリートにしか刺さらない政策ばかりを打ち出すだろうか。
誰も「いや、これターゲット狭すぎじゃない?」と言わなかっただろうか。
自分たちが上澄みの中の上澄みであることに、無自覚であるだろうか。
僕は、そうは思えない。
(もしそうなら、上野千鶴子氏の祝辞は圧倒的に正しかったことになる)

ならば、安野氏の目的は何か。

僕は、スポット人材としての登用のための宣伝だったと思う。
安野氏の打点の尖りは、裏返せば非常に強いフィールドがあるということだ。
オードリータン氏のように、「テクノロジー・IT」の分野でスポット的に政治の世界へ入り込むことを、最終ゴールとしているのではないか。
だとすると、全てにおいて、この都知事選は大成功だったと言える。

さいごに

ちなみに、チーム安野の振り返りnoteも読んだ。
その中に、課題として下記のコメントがあった。

  • 女性メンバー(海外で活躍、子育て中など)、エンジニア、ビジネスパーソンなどのメンバーがいたことを発信しきれなかった

これは邪推になるが、もし上記を「多様性アピール」のつもりで書いたのであれば、それは明確に間違っている。

多様性とは、属性ではなく階層にある。

チーム安野は、非常に同質性の高いメンバーが集まっているのだと思う。
みな華々しい経歴で、性格も良く、志高いチームなのだと思う。
しかし、それは、圧倒的に多様性に欠けている。
都知事にあらずとも、政治家とは、大衆を想う仕事である。国を想う仕事である。
国は、賢く優しく正しい人のためにある訳ではない。
国は、みんなに好かれる人のためにある訳ではない。
国は、みんなに嫌われ、貧乏で、性格も悪く、見捨てられた人間にこそ与えられるべきパッケージである。
もし安野氏がこれから政治の道に進むのであれば、僕たち百姓民のことを忘れないでいてほしい。
一度、ここまで下りてきて、泥に潜ってみてほしい。
ぜひ、チーム安野に、足立区出身中卒リボ払い借金150万円をメンバーとして迎えてほしい。
それが、真の多様性への道筋となるはずである。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?