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タマリバー誕生秘話

怒涛のGWが終わると、河川敷のBBQ場「タマリバー」の平日は一気に穏やかになりました。弊社は、忙しい日と暇な日の緩急が激しい会社です。

常に決められたことをコツコツやりたいタイプの私にとっては、非常にやりにくい会社です。

自分たちで作った会社なのに・・・。

GWのお客様の中には昨年もお越しいただいた方が多くいらっしゃり、「タマリバーができて数年たったんだな」という不思議な感覚になりました。

お客様がお帰りになる際「来年もまた来ます!」という声を複数いただき嬉しい限りなのですが、その度に「またお待ちしております」と笑顔で言いながら、心の中では

「来年まで、うちの会社もつかな・・・」と常にビクビクしています。

タマリバーは2022年3月にオープンしたのですが、今日はタマリバーを作ったきっかけを振り返ってみようと思います。

実は私たちは、最初からBBQ場をサービスとして提供しようと思っていたわけではありません。

むしろ、「同じ場所で行うサービスではなく、いろんなところに出張するサービスを作りたい」と思っていました。

だからこそ創業前の2019年にスズメの涙の貯金をかきあつめ、キャンピングトレーラーを買ったんです。

それは、オランダのKANTOORKARAVAAN(カンターキャラバン)という団体が提唱していた「森の中で働く」というコンセプトに共感したから。

夫がこの写真に一目惚れし、そこから全てが始まりました

ビンテージのキャンピングトレーラーをオフィスに改装し、森の中へ持っていって働くという「働き方先進国オランダ」ならではの取り組みをネット記事で見つけました。

その後オランダへ飛んで代表に「日本でもやらせてくれ」と頼み、日本版『カンターキャラバン』を発足することになりました(現在も形を変えてサービスは稼働中)。

日本ではなかなか手に入らないヨーロッパのヴィンテージトレーラーを輸入している業者さんを必死で探し、トレーラーの中を会議室に改装しました。

椅子もテーブルも全部手作り。改装秘話もいずれお話ししたい・・・

当時は、「このトレーラーを持っていけば、山でも海でもその場が会議室になる!」と信じて疑いませんでした。

トレーラーにはエンジンがついておらず自走できないので、車とトレーラーを繋ぎ合わせて、車がトレーラーを牽引しなければなりません。

車とトレーラーを合わせると、全長はなんと10m越え。

特にバック走行時は、車の進行方向と逆にトレーラーが動くので、運転難易度は激高です。

なお「運転難易度は激高」と言いましたが、ペーパードライバーの私は一度も牽引したことがないし、チャレンジしようと思ったことすらありません

大型車を運転する方へのリスペクトが圧倒的に高まりました

このトレーラーを引っ張って、舗装されていない険しい山道に挑む夫(弊社の代表)の運転技術は、何かに表彰されてもいいのではといつも思っています。

そして、実際にトレーラーを牽引してから気づいたのですが、

日本、道路狭すぎ。
日本、坂道多すぎ。

「普通に通れないよ、ここ」という道が多すぎるのです。

ヨーロッパでトレーラーが流行るのは、道路が広く、平らな道が多いのも要因の一つだと思います。

そしてさらに困ったのが、駐車場です。

トレーラーを駐車できる駐車場が近隣で全く見つからなかったので、数年の間、トレーラーの駐車場は「家から1時間半の山奥」にありました。

仕事がある日の夫のスケジュールは、こんな感じでした。

AM 4:30 横浜の自宅から自家用車で、相模湖の山奥の駐車場に向かう
AM 6:00 駐車場に到着。トレーラーと車を連結させる
AM 6:30 山梨県の山中の会場まで運転
AM 8:30 会場到着・準備
AM10:00  お客様のアウトドアミーティング。付きっきりで対応
PM 8:00 終了・片付け
PM10:00  会場から相模湖の駐車場まで運転
PM24:00  駐車場に到着。トレーラーと車の連結を解除する
PM24:30  自宅まで運転
AM  2:00  帰宅

か・・・過酷すぎる。

このままではあまりに費用対効果が悪いため、試行錯誤を繰り返しながら何度も事業構想を変え、「企業や団体を対象に、アウトドアでのミーティングやチームビルディングを企画・運営するサービス」をする会社を作ることにしました。

そしてやっとの思いで法人化したのに、

新型コロナウイルスで案件が全て吹っ飛び、売上が0になりました。

この頃のことは、あまり思い出したくありません。

なぜなら、私は何よりも苦手なのが「暇なこと」だからです。

過去に体調を崩して会社を辞め、働きたくても働けない生活(というか、一度会社を辞めたらもう自分に働き口なんてないと思っていた)をした経験から、「暇が怖い、仕事があるならいくらでもやりたい」という"都合の良い社畜"みたいな考えになってしまいました。

案件がない!やばい!会社が潰れちゃう!

という会社倒産への恐怖と同じくらい、

暇!やばい!なんでもいいから何かしたい!

という"暇"への恐怖がありました。

この頃私は不安で眠れなくなり、毎日夜中の2時か3時くらいまで事務所にこもり、「どうしようどうしよう」と悩んでいました。

他の事業などでなんとか食いつなぎつつ、半年ほどが経った頃、多摩川の河川敷に土地を所有する方から「うちの空き地で何かやらない?」というご相談をいただきました。

今でこそトレーラーや遊具等の設備が並ぶタマリバーですが、当時は本当に何もない、ただの空き地でした。

これぞ空き地

ここで働くのが夫の妄想力。

彼はいつもの通り数日間黙りこくって考え、ある日、「よし、見えた」と言いました。

いつもの通り、私は「何が?」と思いました。

困ったことに、夫は脳内に完璧な構想を持つものの、それを具現化する絵心がありません。

そうすると、周りは完全に置いてきぼりを食うわけです。

そこで、弊社のクリエイティブ担当であるよっしーが夫に「聞き取り調査」を行います。

よっしーが聞き取り結果をイメージに落とし、私がサービスのソフト面について補完していくことで、「企業・団体のミーティングを行う拠点でありつつ、一般のお客さんにはBBQ場として利用してもらう」という、現在のタマリバーの形が完成しました。

よっしー制作の見取り図がないと、私は永遠に夫の脳内を理解できない

そして完全に取り残されたのが、ナミキ家の貯金をはたいて買ったトレーラーです。

森の中を会議室にするためのトレーラーですが、もう森の中には行けないんです。河川敷にいなくちゃいけないので。

夫はトレーラーに並々ならぬこだわりを持っていたので、さぞ残念だろうと聞いたところ・・・

「いろんなところにトレーラー引っ張ってくの、キツすぎるからもういい」

とのことでした。

でも、意外とそのトレーラーが活きたのが、「構造物を建てられないというタマリバーの制約」でした。

氾濫の危険性がある河川敷には実にいろいろな行政上の制約があり、その大きなものが、「構造物を立てることができない」ということです。

家はもちろん、プレハブだって許可がないと置けないんです。(そしてその許可がタマリバーの敷地では降りない)

そこで奇跡的に使えたのが、キャンピングトレーラー。

トレーラー自体は自走できませんが、「車両」として扱われるので、河川敷の設置に関して許可は必要ありません。

現在は二台あるトレーラーのうち、一台はBBQ場でのオプションプランとしてお客様に貸出し、もう一台は倉庫として大量のBBQ備品を置く場所として活躍しています。

そう考えると、結果オーライだったのかもしれません。

なお、長年トレーラーを牽引していた車は、新婚当初に「シティ用の外車で首都高をぶいぶい乗り回したい」と購入したはずの真っ赤なボルボでした。

ある日突然重り(トレーラー)を背負わされ、困惑するボルボ

BBQ場の管理人になる未来なんて一切予想していなかったピチピチギャルの私(当時27歳)は、夫との結婚1周年記念にキメッキメのおしゃれをしてこの車に乗りこみ、みなとみらいのホテルでシャンパン片手にディナーを楽しみ、海の見える素敵な部屋に宿泊しました。

そして翌日、帰宅途中に速度違反で警察に捕まり、反則金を払ったというとても良い思い出があります。

その後、トレーラーを牽引する羽目になったボルボからは、いつも

「ぼくはレインボーブリッジを走るべき車なのに、なんでこんな山道で、こんなボロいトレーラーを引っ張らなきゃならないんだ!」

という心の叫びが聞こえてきました。

そして、永遠のように長い車のローンを完済してまもなく、「ぼく・・・もう無理」とボルボは廃車になりました。

愛車ボルボの最期の1週間は、運転中に聞いたこともないような奇声(異音)が発せられたり、ギアが壊れて「車両取扱説明書にも書いていない幻の"7速"が表示される」など、夫は生きた心地がしなかったそうです。

首都高から東京タワーを眺める生活をさせてあげていれば、今でもボルボは元気だったはずと思うと、ボルボには申し訳ない気持ちでいっぱいです。

なお、現在は中古で、国産で、デカくて、汚れても気にならなくて、トレーラーを余裕で牽引できる車に乗っています。

首都高を運転することは、もうありません。




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