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【百線一抄】042■瀬戸内をなでる灘の潮風-予讃線

地図を眺めていると、主要幹線のなかには海岸線に並ぶ都市集落を
ぎりぎりのところまでなぞってつないだと思われる路線が各地にあ
り、歴史的な経緯も含めて代表例と言えるのが予讃線だ。伊予と讃
岐を文字通り東西に結ぶ四国の主軸で、香川県都の高松から海岸を
なぞるように新居浜、今治、松山と進み、大洲、宇和島へと進む。

数ある集落の中で最初に鉄道がつながったのは丸亀と琴平の間だっ
た。松山ではすでに伊予鉄道が1年早く開業させており、松山市と
三津を結んだ。国有化を経て予讃線が松山までつながったのは昭和
に入ってからだった。愛媛県西部では大洲と宇和島を起点として、
それぞれ大正期から敷設が進んだ。最後の区間は八幡浜-卯之町間
で、これによって国の鉄道路線として飛び地の状態だった宇和島線
を統合して1本にまとめた。太平洋戦争の終末期のことであった。

終戦後、連絡船を介した本州との接続体系が順次整備され始め、待
望の優等列車も次第に増えていく。さらには高松側で複線化も始ま
り、他地域よりいち早く無煙化を達成する。山陽新幹線が岡山まで
つながると、四国にも特急列車が走り始める。土讃線の「南風」と
対になるように、予讃線も「しおかぜ」3往復が戦列に加わった。

ステンレス車体の電車が導入されたのは民営化直前。橋の開業後に
愛媛県側も順次電化が進められ、高松ー伊予市間の完全電化達成後
の予讃線は、L特急と短編成の電車が頻繁に行き交う路線へとめざ
ましい変貌を遂げた。岡山側の改良とともに「しおかぜ」を増やし
つつ、高松発着の「いしづち」を分割併合する1時間ヘッドのダイ
ヤの整備が進められ、宇和島への直通特急も電車の充実によって、
松山で同じホームに到着した特急に乗り換える場面が多くなった。

内陸の内子線を組み込んだ新線によって、瀬戸内海を眺める旧線は
短い編成の普通列車ばかりとなった。それではもったいないと、て
こ入れを行った例が観光列車「伊予灘ものがたり」だ。時間帯や行
先によって趣向を変えた料理やスイーツが楽しめる内容が好評で、
乗車した列車の車窓から眺める風景の美しさや地元有志の盛り上げ
とともに列車旅の魅力を大きく引き上げた。暮れなずむ瀬戸の夕陽
は、線路を小気味よく叩く音とともに旅人の心を癒やしてくれる。

それでは次回の投稿まで、ごきげんよう。

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